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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

俺が愛した人は悪役令嬢でした

作者: 桜紅

冷たい冬の風が身体を切るように吹く真冬の日。


俺は、海が綺麗に見える崖へと来た。


水平線が雲ひとつない快晴の空とターコイズブルーの海を区切るように真横に伸びているのが見える。


それから、目線を少し手前に持っていくと俺に背を向けて立っている女性がいる。

腰まで伸びた絹のような髪にスラッとした白い四肢。シンプルなデザインの白いワンピースがより一層色白さを際立たせる。

後ろ美人というのはまさにこの人の為にあるような言葉と言えるくらい立ち姿が美しい。


なんて絶賛しているこの人は俺の元婚約者だ。


元というのも、俺が彼女との婚約を破棄し、他の子を選んだのだ。

それだけ聞くと俺が最低な男に聞こえるが、言い訳すると時すでに遅しだったんだ。


俺は元々この世界の人間ではない。

ここは妹のハマっている乙女ゲームの世界で、俺は不慮な事故でこの世界に攻略対象のキャラクター、この国の第1王子エタンとして転生した。


妹のおかげで乙女ゲームの内容も全て把握済みでエタンの初めの婚約者は悪役令嬢である目の前にいる彼女、リリーだということも知っていた。

それでエタンと仲良くなる主人公を妬み、酷いいじめをして婚約破棄をされるというのも知っていた。

俺が転生した時は既に婚約破棄をされてからだった。

だから、時すでに遅しという訳。


でもな。


「なぁ、リリー。お前本当はやってなかったもんな?」


優しく聞くが彼女の返事はない。


その代わりに風が答えるように強く吹く。


後々になって知ったのだが、全て主人公の自作自演だったらしい。

俺も実際に見た。

主人公が自ら階段から落ちるところも、私物をハサミで切るところも。

かなり身体を張っているが何も悪くない人を陥れるのは俺も許せない。

だけど、エタンの弟であるフィンが主人公を信じきってしまいリリーの信用は得られなかった。

俺も頑張って訴えたが、逆に俺も悪者扱いされ、主人公との婚約は破棄され、主人公はフィンと婚約した。


「お前はよく頑張ったよ。周りからの強い当たりも、偏見も、心無い噂も、我慢して偉かったな」


俺は彼女に近づき後ろから抱きしめる。


彼女の足元にはポタポタと綺麗な滴が落ちた。


泣いてるのだろう。いいんだ。泣きたい時にたくさん泣けばいい。

だって、本当にリリーは頑張ったんだから。


1度失われた信用を取り戻すのは大変だ。

俺も頑張ってリリーと一緒に信用を取り戻そうとした。

困ってる人がいたら助けたり、勉強、運動も一切手を抜かずやり抜いた。

そのおかげで信用は取り戻しつつあった。


だけど、それをよく思わなかった主人公はまた邪魔をしてきた。


主人公の言葉は神の如く信用された。


地道に勝ち取った信用は泡のように消えていき、全て主人公の元へと集まった。


その時の主人公の表情はどの悪役よりも悪の顔をしていたのを今でも覚えてる。


それで、俺はフィンに訴えた。「リリーは悪くない。悪いのは全てあの女」と。


でも、それも無謀だった。


悪役令嬢を庇っている俺は必然的に権力が着実と落ちていった。

そのため権力を持ったのはフィン。

俺の訴えで気を悪くした彼が、王様にデタラメを言ったため俺は国外追放となった。


まぁ、後悔はしていないけどね。


リリーのために自分自身が動けたことに今は誇りに思っている。


結果はどうあれ、俺だけは死んでもずっと彼女の味方であり続けたい。


「ーー兄上。お墓参りは終わりましたか?」


後ろから声をかけられ俺は抱きしめていた手を離した。

俺が抱きしめていたリリーはいなくなり、代わりに冷たい十字架出できた石が目の前にある。


俺はゆっくり後ろを見ると金髪碧眼の青年が立っている。

彼が弟のフィンで、俺に国外追放を宣告し、リリーを処刑した男。

まぁ、元はと言えば主人公が悪いのだが、ここにはいないみたい。


「それにしても、悪者の死人のためにそんな目を真っ赤にして泣きはらして……兄上は一途なんですね」


嫌味のように言う弟に俺は微笑んでそれを受け流す。


こいつだって、根は優しい奴だ。

主人公の誘惑によって変わってしまったが、俺に最初で最後の墓参りをさせてくれるくらいの優しさはある。


俺も本来は処刑されるはずだったのだが、フィンの慈悲によって国外追放にされた。命だけは助かった。

でも、それは今の俺にはかなり酷だ。


いっその事リリーと共にこの世を去りたい。


リリーが処刑されたあの日。俺は助けられなかった。牢獄から脱出出来たのに兵士に取り押さえられてお前の死ぬ瞬間をただ霞む視界の中で見るしか出来なかった。

その時以上に自分や他人を恨むことはこの先そうないだろうというくらい悔しかった。それと同時に無力さも痛感した。


「それじゃあ、そろそろ時間ですよ」


フィンが近づき俺は少し後ずさる。


「兄上? なんですか? 今更」


「ごめんな。フィン。俺、やっぱいくわ」


俺は目元の滴を拭うとフィンから背を向け海に向かって走った。


それから、快晴に羽ばたく鳥を真似て崖から飛んだ。


「ーー兄上!!」


背後から弟の俺を呼ぶ声が聞こえる気がするが風の音が強くてよく聞こえない。


なぁ、リリー。次また転生して会えたら今度は俺が守るからな。

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