第2節 オーズキッチン
吹き溜まり。オーズキッチンを表現するのに多くの人がその言葉を使う。この掘っ立て小屋に野ざらしのテーブルとイスを並べただけのレストランと呼ぶのもおこがましい"メシ屋"の主がそれを望むと望まないにかかわらず。
実際、その表現が示すように昼から夜までここで商売が行われている間中、雑多な人間がここを訪れては何をするでもなく一日が過ぎていくのを眺めていることも多い。商売の邪魔になるからとオーズが追い払ってもキリがなく、この場所から人が途切れることはなかった。
愛想がいいとはお世辞にもいえない中年太りのヒゲ面オヤジの汚い店、なぜ人がここまで集まるのかは店主にも永遠の謎であった。現に今も日が暮れてからしばらくたつが、カウンターやテーブルに食事をするでもなくただ話をしているだけのグループがいくつか見える。
その店に小さな足で小走りに駆け込んでくる少年がいた。
「オーズ、二人分のごちそうをお願い」
店に駆け込んできた少年は店の奥の厨房でせわしなく働く、小汚いオヤジに叫ぶ。
「ここにゴチソウなんかねえよ!ヨソへ行きな!」
そう叫びながら、オーズは厨房の中から顔を覗かせる。
「おう、なんだジマか。ニールは一緒じゃないのか?」
「すぐに来るよ。先に行ってろってさ」
ジマの言葉に店主のオーズは眉を吊り上げ「フーン」と怪訝な表情を浮かべた。
「ごちそうって・・・、お前ら、また何か悪さをしでかしたんじゃないだろうな!」
「ちがうよ!そんなんじゃないよ」
ジマはくりっとした目を大きく見開いて店のオヤジに反論する。
「ニールのヤツに言っとけ、ただでさえ何もない店だけどなあ、汚いことをして作った金で食わせるものは何一つ無いってな」
ジマの顔がだんだん真っ赤になってくる。
「そりゃまあ、ニールはちょっと人から嫌われることをしちゃって、それで人から恨まれてて夜道を一人で歩けなかったりとか、変なおまじないであやうく呪われそうになっちゃったりもするけど、いいひとなんだよ!」
「・・・フォローになってねえぞジマ」
オーズは笑いをこらえながら厨房の奥へと姿を消して、入れ替わりにふくれ面になったジマの方へ料理の乗った皿を手にした髪の長い女が向かってくる。
「ジマ危ないから、その辺に座ってな」
女は微笑を浮かべた目でジマを見て、そのまま横を通り過ぎる。
「うん、わかった。ジュネ」
ジマは空いた角のテーブルに腰掛けると、しばらくは通りを行きかう人を眺めたりしてじっとしていたが、やがてうつらうつらと居眠りをし始めた・・・。