第1節 ブールノイズ
亡国の都ブールノイズ。
この地方で産出される白色土によって建てられた建築群は、それを遠目に眺める旅人たちによって"白の都"と呼ばれた。しかしそれは優れた剣術により、近隣諸国を力で封じ込めていたことを暗に皮肉った言葉でもあった。"武力で白を語る国"と・・・。
だが長びいた戦乱の傷跡は深く、終戦から五年の月日が経過した今でも、戦火によっていたるところが倒壊し黒くくすんだままの状態で放置されている。
現在エスペランザの支配下にあるこの地では貧困にあえぐ民の生活は苦しく、それを象徴するかのように治安も悪い。道端には住む家も持たぬ戦災孤児たち(ストリートチルドレン)が溢れ、盗人まがいの方法でその日その日を繋ぎとめるようにして生きている者も多くいた。夕闇が迫りブールノイズの景観がオレンジ色から青白く移り変わる頃、ブールノイズの闇の部分が目覚め動き出す。
緩やかな坂道が続く旧居住区エリア。
戦乱のダメージが色濃く残る一角を小さな足で駆けるジマの姿があった。彼は慣れた足取りで半壊した家屋のひとつに潜り込むと、目的の人物を見つけ出して大きな声で語りかける。
「起きてニール!食べるものを探しに行こう」
部屋の隅で膝を抱えたまま眠っていたニールは、その声でゆっくりと目覚めるのだった。