灰色の檻
灰色の檻。
四方を壁で仕切られて、よどんだ空気が漂っている。
出口は一つ。
カギはかかっていない。
扉は半開きになっており、
そこから見える景色は色鮮やかだ。
扉から一番遠い場所で、その景色を見ている。
縛り付けるものは何もない。
そこに留まるのは、怠惰な理性と肥えた精神によるものだ。
一歩踏み出したなら、このカビの生えた安寧を捨て去らなければならない。
それをするには、長居をしすぎたのかもしれない。
それでも僕は一歩を踏み出す。
輝く世界をこの手に求めて。
灰色の檻の外。
世界は確かに鮮明で鮮烈な輝きを放っていた。
花の美しさや、音楽が感情を揺さぶるのを初めて知った。
世界はこんなにも輝いている。
しかし、そんな世界を灰色が埋め尽くしていく。
灰色の檻。
あの場所が色を失わせたんじゃない。
僕が色を失っていたんだ。
鮮明で鮮烈な世界。
灰色の檻に戻る術はもうここにはない。
このだだっ広い世界で、僕は色を失い生きていく。