初日でバレた!? 謎のお嬢様
ニッコリとお淑やかな笑みを向けられ、ハッと我に帰る。
この授業では教師は参加しないらしく、ご令嬢方が自由に一人だけ相手役を決めて、一時間丸々踊るという遊戯のような時間だ。当然選ばれれば、選んでくれたご令嬢をしっかりとエスコートしないといけない。先程、ララたんが教えてくれたことだ。
だから、自己紹介も本当はオレからしないといけなかった。
後悔している時間もないので、慌ててお辞儀をすると、口に弧を描いた。
「こちらこそ、大変申し遅れました。私の名はサキ。サキ・フルーテと申します。お嬢様に知って頂き光栄でございます」
そう言って、差し出された手をソッと手に取る。
全員のお相手が決まったところで、音楽が流れ始めた。ゆったりとした曲だ。
その音に身体を預けて、ゆっくりと踊り出す。まだ緊張はするが、あれだけ毎日毎日ソフィアの相手をしてきたのだ。踊り方はもう、身体に馴染んでいる。
少しずつ緊張が解れてくると、だんだんと楽しくなってくる。それに、このスズリ嬢はとても合わせやすい。多分、オレが踊りやすいように配慮してくれているのだろう。
感謝しながら、しっかりとこちらもリードする。当然だ。男(役)なのだから。
「…ふぅん」
「?あら?どうなさいましたの?セナ様」
チラリとあの生意気な特待生を横目で見ていると、相手のレイナ嬢が口元に笑みを浮かべてこちらに尋ねてくる。
この俺がわざわざ気を使うのも癪だが、一応成績に関わることなので仕方がない。
サッと笑顔を見せ、口を開く。
「いえ、何でもありませんよ。レイナ様。少しばかり、あの特待生の方が気になりまして…」
「あら?レーツェル様と踊られていらっしゃるあちらの殿方?…まあ!大変お麗しい方!」
俺がそう言うと、チラリと特待生の方を見て、パッと顔を赤らめる。
まあ確かに見た目はそこそこだけど、このままあんな奴に評価を取られるのもイラつく。
ダンスも容姿も、ご令嬢の扱い方も俺の方が上だ。
「おや、レイナ様は特待生の方の方がよろしいですか?少々妬けてしまいますね」
そう言って、少し憂いた笑顔を見せると、レイナ嬢はコロッとこちらに顔を赤める。
単純過ぎ。
「…セッちゃん、相変わらず猫被るのが上手いね〜」
「!それはアンタもでしょぉ?リオ君」
いきなりこちらに近付いてくる奴がいたと思ったら、リオ君がボソッとこちらに話しかけてきた。
あんまりご令嬢が近くにいる時には止めて欲しいんだけど…。
リオ君との会話を相手に聞かせて、こちらの得になるようなことなんて絶対ない。お互いが素で話しているし、それは、リオ君とそういう関係だからだ。
向こうも俺も、猫被るのもそれを見抜くのも得意なので、基本的にリオ君相手に猫被りをしても疲れるだけで無意味だ。
こちらとしては、早々に話を切り上げたい。
「ふふっ。気になるんだぁ?あの特待生の事が。俺は好きじゃないけど」
「!それこそ珍しいじゃん。リオ君が好き嫌いするなんて…何かあった訳?」
相変わらず寝てるのか起きてるのかわからないようなのんびりな口調で話しかけてくるリオ君の言葉にちょっとだけ驚く。
…普段なら嫌いどころか、興味すら湧かないのに…。
リオ君に嫌われるなんて余程のことだ。好かれるのも珍しいが…。
コソコソと背中越しに話しながら、目の前のご令嬢には笑顔を見せて踊る。こんな面倒臭いことをするくらいなら、後で話しかけてくれば良いのにと思う。
リオ君だって、相手のご令嬢にはしっかりとサービスしているのだから…。
「まあ色々とね〜。じゃあ、セッちゃん。しっかりと猫被り、頑張ってね〜」
「アンタもね」
そう言って離れると、リオ君は特待生の方に意識を向けた。
…ホント、リオ君に意識させるとか、何したの、アイツ…。
不審がりながら、特待生のエメラルドグリーンの瞳を見やる。あまり見ない色だ。
全体的に女顔だし、背丈も小さいし、細いし、何より筋肉なさそうだし、あんなのが特待生というのが信じられない。
まあ、俺には関係ないことだけど…。
授業終了の鐘が鳴ると、周りもオレもピタッとダンスを止めた。流石に一時間ぶっ通しで踊るのはキツい。体力的にというよりは、精神的に…。
だが、目の前のスズリ嬢は平然として、相変わらずの笑みを浮かべている。本当にソフィアみたいだ。
「あら、終わってしまいましたね。楽しい時間はあっという間ですわ」
そう言ってニコッと微笑むスズリ嬢の、手を離してオレは最初と同じように、胸の前に手を添えてお辞儀する。
「お嬢様に喜んで頂けたのなら光栄です」
そう微笑むと、スズリ嬢はあからさまにオレの手をソッと握り、耳元まで口を近付けた。身長差はそれほどないので、スズリ嬢でも余裕に届く。
「…」
「!」
いきなりのことに驚くが、それよりもスズリ嬢が囁いた言葉の方に意識を持っていかれた。
…『本当にとても楽しめましたわ。星空サキ様」
どうやら平穏な学生生活は送れそうにない。