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入学初日

「「ヤッホー!!」」

「!!?」

 門をくぐった瞬間。いきなり、学校の敷地内を囲む森の、門から向かって右側から、二人の少年が飛んで来た。

 二人のそっくりな少年は、ただ呆然としているオレの前を通り過ぎると、いつのまにか取られていたオレの鞄を持って、来た方と反対側の森の中へと走って行った。

 時が止まったかのように静止してしまったオレの側を、風だけが通り過ぎていく。

 一呼吸間を置いて、我に返ったオレはバッと少年達が入っていった森の方を向く。

 何がなんだかわからないが、とにかく鞄は取り戻さないといけない。

 オレは慌てて駆け出した。


 あれから三十分後。

 真新しい水色と白を基調としたシンプルな制服も、オレ自身もドロドロ、ヘトヘトになっていた。

 だが、その頑張りも虚しく、オレの鞄も二人の少年も全く見つからなかった。

 諦めてフラフラと、指定された中等部校舎の三階にある教室へと向かう。

「はあ…」

 教室の入り口の前で立ち止まり、大きく溜め息をこぼす。入学初日で早くも、これからやっていけるのだろうかという不安がオレを襲う。

「おい!」

「!」

 いきなり後ろから呼びかけられて、驚いて後ろに振り向く。そこには、白衣らしきものを着た、髭の生えただらしないおっさんがいた。

 誰だろうとオレが無言でいると、向こうから口を開いた。

「お前、特待生だろう?俺はお前のクラスの担任だ。ニト・ハルトマン。よろしくな。というか、遅刻ギリギリだぞ?もっと早く来て欲しかったもんだな。職員室に寄ってもらいたかったんだが…」

 全く怒った様子のない口調にホッとするが、流石に遅刻ギリギリなのはまずいだろう。

「ああ、すみません。ちょっと、鞄と盗人を探しに森へ行ってたんで…」

 最後の方は目を泳がしながら、頭を下げて謝罪する。一方で、担任の方は「盗人?」と首を捻った。まあ、当たり前だろう。こんな大きな学園でセキュリティも厳しいのに、盗人なんかがいるわけがない。まあ、実際にいたが…。

「あ、えっと…二人のそっくりな少年で、確か…ここの制服を着てたような…」

 あの一瞬の出来事を出来る限り思い出しながら、オレが呟くと、担任は目を伏せ、頭を手で押さえながら大きく溜め息を(いた。

「あー、すまないな、転入初日に。まあ、大丈夫だ。お前の鞄も、盗人二人もちゃんと見つかるから」

 そう言うと、担任はオレに微笑んで見せた。そのやる気と頼りのない笑顔に、なんとなく落ち着く。

 オレが黙っていると、担任は「まあ、もうHRだから先に教室入れ」と言って、オレの背中を軽く押す。

 言われるままに、教室の扉の取っ手に手をかけたオレは、そのまま扉を引く。

 陽の光に目を細めながら、一歩踏み出すと、そこには十人くらいのクラスメイト達が礼儀正しく、木製で出来た椅子に座っていた。

 なんとなく新鮮な気持ちになって、更に足を踏み出そうとした…その刹那。

「!…っ!」

 殺気を感じて、反射的に顔を後ろに反らせると、さっきまでオレの顔があったところを矢が通っていった。その矢は、黒板に突き刺さると、その勢いでしばらく振動していた。

 何事かと思う間も無く、また次が襲って来る。今度は一気に数十本の剣だ。こんな狭い教室でそれを躱すのは面倒くさい。オレは、飛んで来た剣の一本を掴むと、それを持ち直して、更に飛んで来る剣を払い落とした。

 飛んで来る剣が止むと、オレは持っていた剣を下ろして、頭にハテナを浮かべながら担任を見た。

 担任は「おー、よくあれを全部躱せたな」とあっけらかんとしている。

 こちらは、はっきり言ってそれどころではない。意味がわからないまま、何の予告もなしに襲われたのだ。

「…いや、何ですか、これ?」

「あー、えっとな、安心しろ。俺も、始業式の日にやられたから。これは、こいつらなりの歓迎の挨拶だから」

 それは本当に安心して良いのかと喉まで出かかったが、グッと堪える。

 色々と言いたいことを飲み込んで、改めてクラスを見渡すと、一列目の真ん中の席に、さっきの少年二人がいた。

 少年二人は、オレと目が合うと悪戯するみたいに白い歯を見せてニコッと笑った。

 まさかの同じクラスだったみたいだ。だからさっき、担任は見つかると言っていたのだ。

 本当、何でこんな面倒な奴らのクラスに入ってしまったのだろうか…。

 そんなオレの思いを他所に、担任は「じゃあ、一応、自己紹介しとけ」といつのまにか教室に入り、オレを教壇の前に立たせた。

「…初めまして。オレの名前はサキ・フルーテです。よろしくお願いします」

 ソフィアから、この世界用の名字として貰った『フルーテ』を使って、自己紹介をする。何で『フルーテ』なのかはわからないが…。

 オレの自己紹介が終わると、担任はオレの肩にポンと手を乗せ、口を開いた。

「じゃあ、フルーテの席は…リッちゃんの横だな。あの、机に突っ伏してる奴な」

 そう言って、一番後ろ(と言っても二列目までしかないが)の窓側の席に座っている、この世界では珍しい黒髪の少年を指差した。

「…わかりました」

 オレに全く興味がないのか、起きる気配がない黒髪の少年に呆れながらも、真っ直ぐに自分の席である少年の隣に行く。

 オレが座ったのを確認すると、担任は「じゃあ、報告することないから、一限目遅れるなよ。解散」とだけ言って、教室から出て行った。

 まあ一先ひとまずは、無事に入学出来たことにホッと一息()く。

 すると、目の前の席に座っていたオレンジ髪の癖っ毛の少年が、満面の笑みでくるりとこちらに振り向いた。

「初めまして!特待生!俺はヒナタ!ヒナタ・ワーテム!よろしくね!」

「!あ、ああ。よろしく」

 いきなりの自己紹介に驚きながらも、オレも笑顔を返すと、ヒナタと名乗った少年は「どんな奴が来るのか、すっごい楽しみにしてたんだ」と嬉しそうに喋った。そのことに、オレの緊張していた心が解れていく。

「あ!そうだ!紹介するね!俺の隣の席に座ってる子は、俺の親友のララたん!」

 そう言って、隣の水色のストレート髪をボブカットにしている少年の肩に手を置いた。すると水色髪の少年もこちらに振り向き、柔らかな笑みを浮かべた。

「初めまして。ヒナたんに紹介されました、ララ・フェルタリです。是非、『ララたん』と呼んで下さい」

  「おう、よろしくな、ララたん」

 オレがそう呼ぶと、ララたんは「はい」とはにかんだ。それを見て、「ララたん、ズルい」と隣でヒナタが愚痴る。

「俺も!俺も、名前で呼んで!」

 人差し指で自分の顔を指しながら、必死な表情かおで叫ぶヒナタに、つい吹き出てしまう。

「ブハッ!おう、よろしくな、ヒナタ」

 そう呼ぶと、ヒナタもララたん同様、嬉しそうに笑った。

 …ああ、なんか、うまくやっていけそうだな。

 最初に感じていた不安は何処へやら。もう消えていた。

 そんな風に和んでいると、突然横から何か飛んで来た。オレの机の上で落ち着いたそれは、オレが今朝()られた鞄だった。

 驚いて横に振り向くと、そこにはニコニコと子供っぽい笑顔を見せている、今朝の少年二人がいた。

「やっほー!特待生さん!今朝はゴメンね。鞄()ったりして」

「なんか面白そうだったから、ついね。初めまして。俺達双子のプラネット家の次男と三男です!」

「おれが次男の、ソラ・プラネットで…」

「俺が三男の、リク・プラネット」

「「よろしくね!」」

 交互に喋られて混乱しそうになるが、まあなんとなくわかった。

 と言うよりも、流石双子なだけはある。声質も顔も体型もソックリだ。だが、三男の方が少し大人びて見えた。気のせいかもしれないが…。

「ああ、よろしくな。えっと…ソラ、リク」

 昔からの癖で、初対面の人でも呼び捨てにしてしまうが、どうもこの世界の人間は呼び捨てにされるのが嬉しいらしい。ソラとリクは、ニカッと歯を見せて笑った。

 最初は、いきなり鞄をられて警戒していたが、思ったよりも良い奴ららしい。

 そんなこんなで怒涛どとうの一日が始まったのだった。

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