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物語の始まり

「まあ、では身分制度がないのですね」

「貧富の差はありますけどね」

 それからしばらく、オレ達は紅茶を飲みながら、オレの住んでいた世界のことについて話していた。オレの話を楽しそうに聞くソフィアは、小さな子供のようだ。

「では、学校は?あるのでしょう?」

 ズイズイと身を乗り出して、キラキラとした目線を送ってくるソフィアを両手で制しながら、オレは口を開く。

「ありますよ。十五歳までは義務教育って言って、国が代わりにお金を払ってくれて、全員が学校に行ける制度があるんですよ」

 オレがそう言うと、ソフィアは手を口元に持っていき「まあ」と感嘆の声を漏らした。

「素晴らしいですね!我が国は恥ずかしながら、学校へ通えるのは、身分のある家の子供か富を持った商人の子供しか…。貧しい家の子供は、小さなうちから家の為に働いています」

 目を伏せて、悲しそうな声を出すソフィア。国民のことを大切に思っているのだろう。

 そんなソフィアを見て、オレも何か、ソフィアの為にこの国の為に出来ることはないか考える。

 オレが頭を悩ませていると、ソフィアがパッと顔を上げ、トキトさんの方へと目を向けた。

「トキト!私、決めました!私が女王へと即位したら、この国に義務教育制度を設けます!その為の学校も!」

「「!」」

 いきなりのソフィアの発言にオレもトキトさんも驚く。そんなこと、やろうと思って簡単に出来ることではない。だが、そんなオレの考えを他所に、ソフィアは目をキラキラと輝かせている。その表情かおに思わず、吹き出してしまう。ソフィアなら、本当にやってしまいそうだ。

「ハハッ!そうだな。ソフィア、お前すごいな」

 ソフィアに向かって、笑いながら言う。

 この国はきっと良い国になる。そんな予感がする。

「!サキ殿!王女に向かって『お前』など…」

「良いのよ。それに…敬語なしで話されたのは初めてで、とっても嬉しいですもの!」

 つい友達感覚で話してしまったが、ソフィアはお気に召したらしい。嬉しそうに頬を染め、ニコッと笑っている。そして、ハッと何かを思い付いたようにオレを見つめた。

「サキ、貴方…城で一緒に暮らしませんか?もっと、貴方の世界のことが知りたい…もちろん、不自由はさせません」

 いつになく真剣な眼差しに、ソフィアが本気なのを感じる。

 けれど、それはダメだ。

 オレは首を横に振る。

「…ごめん、それは出来ない。それじゃ…ソフィアにおんぶに抱っこになっちまう。そんな迷惑かけられない。だから!オレをここで、働かせてくれ!」

「!え!?」

 オレがガバッと頭を下げると、ソフィアとトキトさんが目を見開いて驚いた。まあ、いきなり「働かせてくれ」などと叫ばれたら、驚くのも無理はない。

 一瞬の沈黙の後。部屋に、鈴のような笑い声が響いた。

「フフッ!面白い人、サキ。別に迷惑ではないですけれど、まあ良いですわ。では…私の直属騎士になって下さいな」

「ああ、良いぞ」

 直属騎士というのが、どうやってなるのか知らないが、騎士ということはソフィアを護るということだろう。なら願ったり叶ったりだ。ソフィアの為に何かしたいと思っていたのだから。

 だが、そんな軽い気持ちでいるオレとは対照的に、トキトさんはただただ口を開け、ソフィアを信じられないとでも言いたげに見つめている。

「…ソフィア様…それはつまり…」

「はい!サキ、貴方には『フィオナ学園』に通ってもらいます」

 恐る恐るといった様子で口を開けたトキトさんの言いたいことを読み取って、ソフィアが笑顔で頷いた。

 オレには何のことだかわからない。

 首を傾げるオレにソフィアが口を開いた。

「この国では、王族の直属騎士になる為には『フィオナ学園』をトップの成績で卒業しないといけないんです。サキ、貴方(よわい)いくつですか?」

「?十四歳だけど?」

 問われた質問に簡潔に答える。

 まあ正しくは現在十四歳というだけで、今年で十五歳になる。騙されたかもしれないが、オレは中学二年ではなく、れっきとした中学三年生だ。まあ、この世界に日本の暦があるのかも、中学校という認識があるのかも不明だが…。

 そんなオレの思考など知らないソフィアは「では、中等部ね」と呟く。

「なあ、この世界って一年何日あるんだ?」

 少し不安になってソフィアに聞くと、ソフィアは「そうですよね」とハッとした表情を見せ、「365日ですよ」と答えてくれた。

 どうやらオレの世界と一緒らしい。逆に何が違うのか気になるが、今は放っておく。

「じゃあ、オレの世界と一緒だな。それで、その学園ってどうやって入るんだ?」

「入学試験に合格して、入学費を払えば入れますよ。まあ特待生の方は、入学費を払わなくても大丈夫ですが…」

 ソフィアがそう言うと、後ろでトキトさんが「難関ですが」と付け加えた。

 …まるで、日本の私立だな。

 と、頭に日本の金持ち学校を思い浮かべる。当然、オレは一般的な庶民育ちなので、金持ち学校なんて見たことないが…。

「ふぅん…じゃあ、オレは特待生として受けるのか?」

 お金なんて持ってないので、入学費など払えない。となると、特待生として入学するしかないだろう。

「いえ。お金の方はこちらが出しますから、普通に転入という形で構いませんよ。入試もパスして下さってよろしいですし」

 ソフィアが笑って答える。

 確かに、この世界のことをあまり知らないのだから、オレが試験を受けるのは無謀かもしれない。

 だが…。

 オレは真っ直ぐとソフィアを見つめる。

「いや…大丈夫。自分の力で行く。お金も、それ、国民から集めた税金だろ?オレなんかの為に使わなくて良いよ。だから代わりに、家庭教師付けてくんね?」

 最後にニコッと微笑むと、ソフィアはポカンとした表情かおでオレを見た。そして、眉根を下げて笑った。

「フフッ!参りました。そうですよね。自分の力でやらないといけませんよね。わかりました。では、トキトが教えてくれるわ。ね?」

「ええ、畏まりました」

 ソフィアがトキトさんに目を向けると、トキトさんは諦めたように肩をすくめて、軽く頭を下げた。

 それにオレも自然と笑顔になる。

「よろしくお願いします!」


「…それよりも、サキ殿。そのお召し物はそちらの世界の紳士の装いですか?」

 ソフィアがオレの部屋に案内しようとしたところで、トキトさんがオレの着ている学校の制服を見て聞いてきた。

 確かにオレが着ているのはスラックスだ。だが、オレの学校はある程度、自由にコーディネートしても良いということになっており、女子生徒も申請すれば、ズボンを履いて良い。

「あ、いや…これはオレの通っていた学校の女子生徒用のスラックスで…」

「「!!?」」

 オレが自分の着ているブレザーを摘みながら言うと、ソフィアとトキトさんが同時に目を見開いて固まった。

 …あ、そういえば、オレが女ってこと言ってないな…。

 なんて呑気に思っていたら、我に返ったソフィアが慌てたように口を開いた。

「えっと…サキ、貴方…女の子なのですか?」

「あー、まあ、生物学上は一応…」

 ずっと落ち着いてニコニコしていたソフィアが慌てていることに新鮮さを感じながら、別に大したことでないようにオレが言う。

 だが、対照的にソフィアは「どうしましょう」と困っているようだ。

 何故困るのかわからないオレは首を傾げる。すると、そんなオレを察してか、トキトさんが口を開いた。

「サキ殿、実は…『フィオナ学園』は男子校なんです。というよりも、騎士は普通、男性がなるものでして、女性の方が騎士になるという話はあまり聞きません」

 言いにくそうにしながら、目を伏せるトキトさんに「なるほど」とオレは思う。

 まあ確かに。女の子はどうしても力が劣るから、好き好んで騎士になろうとはしないだろう。

 だがそんなことよりも問題は、つまりオレは『フィオナ学園』に入ることが出来ないということだ。

 確かにそれはどうしよう。

 オレも悩み出したところで、急にソフィアが「これしかありませんね」と呟いた。

 ソフィアの呟きにオレとトキトさんが首を傾げると、ソフィアは真剣な眼差しでオレを真っ直ぐと見た。

「サキ…今日から男になって下さいな」

「…は?」


 それから二ヶ月間。オレはトキトさんにこの国の歴史や言語、また有力な貴族などを徹底的に教え込まれた。また、剣に慣れる為、実際に城の騎士団の団長から剣の指導を受けた。

 男として…。

 あの日、ソフィアに「男として、学校に通って下さいな」と言われてから、城内でも男として過ごし、オレが女と知っているのはソフィアとトキトさんだけだ。

 そして今日。

 無事に特待生枠試験に合格したオレは、城程ではないが、金属製の豪華な門の前に立っていた。

 門の奥には、無駄に大きく、豪華過ぎる校舎が広がっている。恐らく、敷地全て合わせたら、東京ドーム二十個分はあるかもしれない。

 城と同じく白を基調とした校舎を見て、ゆっくりと深呼吸する。

「…よし!頑張るか!」

 一歩踏み出して、オレは門をくぐった。

 ここから、オレの物語が始まる。


読んで下さり、ありがとうございます!

すっごく長くなってしまってすみません!

これからも読んで下さると、嬉しい限りです!

よろしくお願いします!

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