ソラVSサキ
全員の視線が、オレとソラに向いているのがわかる。
目を閉じ、深く息を吸って、目を開いた。
「…じゃあ、始めよっか。手加減無しでね!」
ソラはそう笑うと、纏う空気を変えた。それに反応して、オレも身構える。
まず飛び出したのはソラだ。
モーニングスターの鎖を横に振る。すると、棘鉄球がオレの頭目掛けて、すごい勢いで飛んでくる。
オレはそれを首を横にして躱すと、バッとソラに向かって走り出した。
レイピアを相手の肩に向けて突き出すが、ソラはそれをしゃがんで躱し、流れるように足払いの体勢に入る。
オレは足を、後ろに跳んで躱すが、それを読んでいたのかモーニングスターの鉄球が目の前に飛んできていた。一緒に鎖まで付いて来ている。ソラが鎖ごと投げたのだ。
…武器を投げるか!?
「!」
慌てて横に躱すと、ソラの拳が目前に迫っていた。オレは身体を反らせると、その勢いで連続バク転をし、一旦距離を取る。
モーニングスターは、リングの床にめり込んでいた。
「ハハッ!さすが、特待生。中々やるね」
「今のは、危なかったけどな」
オレはそう苦笑いすると、レイピアの持ち方を変えた。
「!?」
そして、レイピアをソラに向かって思いきり投げた。驚きながらも、ソラはそれを跳んで躱す。
だが予想通りだ。
オレはソラが着地したところを狙って、回し蹴りを繰り出した。
ソラはもろに喰らって、横に吹き飛んだ。
何とか態勢を整えて、オレを見る。
「…まさか、真似されるとは」
驚きというよりも、どちらかと言えば、楽しんでいるような様子だ。
「オレは体術の方が自信あるからな」
何と言っても、レイピアを使ったことなんて三、四回くらいだ。
ソフィアとの城での生活でも、騎士団の団長さんから教えて貰ったのは、レイピアよりも剣の方だ。
今度はオレから飛び出す。
ソラの顔面を狙って、蹴りを繰り出した。が、ソラはそれをハンドスプリング(手を付けずに)で避け、オレの背後を取ると、先程のお返しと言わんばかりに回し蹴りしてきた。
何とか振り返り、腕で防御するが、力負けしてしまい飛ばされる。
「…武器を投げるくらいだよ?おれも、体術は結構得意だからね…」
ソラは悪戯っ子みたいに笑った。
確かにソラみたいな奴が相手だと、剣術ばかり磨いている奴では歯が立たないかもしれない。ヒナタ達が言っていた意味がわかった。
けれど、オレは違う。
…ヤバい。結構楽しいかも…。
思わず、笑みが零れる。
「…けど、特待生さん相手だと、ちょっと不利かな?」
そう呟くと、ソラは左に駆け出した。
何処に向かうのかと思ったら、自分が投げたモーニングスターを拾って、鎖を横に振るった。
…マジか!?
迫り来る鉄球を後ろに跳んで躱すと、オレもリングに落ちていたレイピアを後転しながら拾った。
武器の扱いは苦手だが、武器持ちの奴、しかもモーニングスターが武器の奴と対戦するのに、素手はキツい。
ソラは反撃させないように、間髪を入れずにまた鎖を振るった。
しかし、その攻撃は見切った。
オレはサッと身体をずらすと、横を通り過ぎていくモーニングスターの鎖を左手で掴んだ。
「!?」
まさか掴まれるとは思っていなかったのだろう。ソラは目を見開いている。
オレが鎖を思いきり引っ張ると、隙をつかれたソラは前屈みになりながらも何とか鎖を手離した。
態勢が整っていないソラ。
その好機を見逃すオレじゃない。
一気にリングを蹴ると、ソラの腹に横蹴りを入れた。さすがに何の防御も出来ずに、後ろに吹き飛ぶ。
「うっ!…まだっ…!」
ソラは立ち上がろうとするが、もう試合は終わった。
オレはソラの喉仏にレイピアを突き出していた。
これが戦場なら、ソラは死んでいる。
「…試合終了!勝者は…サキ・フルーテ!」
「「「!!」」」
相変わらずの覇気のない声でニト先生が叫ぶと、周りが一斉に緊張した空気になった。いや、さっきからずっと緊張した空気だったが、より一層雰囲気が引き締まった。
「…うそぉ、負けちゃった…」
オレがレイピアを下ろすと、ソラが呟いた。
落ち込んでいるのかと思って、何と声をかけるか迷っていると、ソラはパッと笑顔になった。
「!?」
「特待生さん、強いね!おれ、絶対勝てると思ってた!」
相手を見縊っていたことを、あっさりと公開するソラに内心呆れる。
…オレに言うことか?それ…。
すると、ずっとリングのすぐ近くで試合を見ていた双子の片割れが、リング上に上ってきた。
「もう!ソラは油断しすぎ!」
「アハハ…ごめん、リク。負けちゃった…」
眉を吊り上げている弟に、兄は苦笑いで答える。
「…けど…次は勝つよ」
「!」
ソラは真剣な表情付きでオレを見据えた。
「おう!…じゃあ、今回はオレが勝ったから、一つだけ言うことを聞いてくれ」
「「?何?」」
双子が揃って首を傾げると、オレはニコッと笑った。
「…『サキ』って名前で呼んでくれ。いつまでも、『特待生さん』じゃ、何か悲しい」
「「…」」
二人はキョトンとしたかと思うと、同時に吹き出した。
「アハハ!おもしろいね!特待生さん…いや、サキ!」
「俺と闘うときは、兄貴のリベンジだよ!覚えていてね、サキ!」
そう言うと、二人は力強くニッと白い歯を見せた。
「おう!オレも負けねぇよ!」
オレも、二人に釣られてニッと笑った。
読んでくださり、ありがとうございました!
今回、初めてちゃんとした戦闘シーンが書けました。楽しい!難しい!
今まではちゃんとしていなかったのか?と思いますが、決してそんなことはありませんよ?ただ、良い試合を書くのは初めてです。
これからもよろしくお願いします!