朝の登校
雲一つない真っ青な空。今日は快晴だ。
学校へ行く準備の終わったリオを引きずりながら、オレとエラは一緒に学校へと歩いて登校する。
「そう言えば、今日は月に一度の学年トーナメント戦がありますね」
「え?何それ?」
並んで歩いていると、エラがオレに話を振ってきた。だが、聞き覚えのない言葉に首を傾げる。
すると、後ろで首根っこ掴まれながら歩いている、否歩かされているリオが「あー、それね」と口を開いた。
「体術訓練や、剣術訓練の授業の時は、B組と合同で、つまり一学年全員でするんだけど。月に一度、学年最強は誰だ!?みたいなのをするんだよねぇ。トーナメント形式で」
リオの説明に「なるほど」と頷く。
どうやら、その月に一度の学年最強を決める試合が今日らしい。
特待生として来たからには、上位三位までには入りたいところだ。
「そんなことよりさぁ」
「!?どうした?」
いきなり、リオがオレの首に抱きついてきた。その際に、リオの首根っこを掴んでいた右手も外れてしまう。
「今朝、俺の枕取り上げろって、アンタに指示したの…セッちゃんだよね?」
「?まあ、そうだけど。何でわかったんだ?」
百八十度程変わった話題に、ハテナを浮かべながら答える。
だが、オレの質問には答えず、リオはオレの言葉を聞くとニヤッと笑った。
オレの隣では、エラが「えっ!?」と驚きの声を上げている。
一体何が何なのか。
「つまりね。セッちゃん、アンタを自分の二の舞にしたんだよ」
混乱するオレに、リオがニヤニヤと教えてくれる。けれども、オレには意味がわからない。
「セナさん、結構怒ってましたからね」
オレを放ったらかしで、エラもリオに同調する。
「えっとねぇ、結構前だったんだけど。セッちゃんが俺を起こしに来てくれた時、中々起きないから枕を取り上げちゃったらしいんだよねぇ。セッちゃん、何にも持ってなかったから、結構な傷負っちゃって…」
「かなり悔しがってましたよね、セナさん。まさか、サキさんに同じ目を合わせるとは思っていませんでしたが…」
ああ、なるほど。
つまりは、セナは昔、オレと同じようにリオの枕を取り上げて、怪我をしたのがムカついたから、オレにも同じ目に合わせようとした訳だ。
…。
一歩間違えれば、死んでいたんですけど!?
「あ!噂をすれば、あれ。セッちゃんじゃない?」
オレが心で、怒りの炎を燃やしているところで、リオが前方を指さした。
かなり離れているが、確かにあの灰色の髪はセナだ。
オレはその姿を見るなり走り出した。
「セナァ!!!」
「!?ウワッ!何!?いきなり!朝っぱらから、うるさいんだけど!?」
思いきり「セナ」と叫ぶと、セナは驚いてこちらに振り返った。しかし、驚いたのもほんの一瞬。すぐに納得したような表情になった。
「アンタ、びしょ濡れじゃん。乾かさなかったの?というか、よく無傷でいられたよね」
「いや!エラが来なかったら、死んでたぞ!?」
詫びる様子のないセナにオレが詰め寄る。だが、当のセナはどこ吹く風だ。
「やっほー、セッちゃん」
「お早うございます」
「はいはい、おはよう。リオ君、エラ君」
後ろから、オレに追いついたリオとエラが、セナに挨拶する。
セナも挨拶を返すと、オレに視線を戻して溜め息を吐いた。
「…服、乾かしてあげるから、じっとしてな」
「え?」
そう言うなり、セナは手をオレの胸の前にかざすと、そっと目を閉じた。
すると、セナの手が光に包まれ、その光はオレの身体も包んだ。
あまりに現実から離れ過ぎて、思考が停止する。
ただただ驚いて、口を開けまま、その光を受け入れた。
「…ふぅ。はい、終了」
セナは目を開けると、手を下ろした。
確かにオレの制服は、完璧に乾いていた。
…。
「…セナも、リオと同じで精霊と契約してんのか!?でも、髪とか目は普通だな」
考えられることは、それしかなかった。
この世界には魔法がない。異世界として、魔法がないのはどうかと思うが、とにかく魔法がないのだ。
となると、今の力は、昨日リオから聞いた精霊という生き物と関係しているに違いない。
けれども、セナは呆れたようにこちらを見つめていた。
「…いや、ただ精霊の力を少し借りてるだけ。リオ君のはトゥラスト家と精霊の契約でしょ?そんな大層なものじゃないよ。訓練すれば、誰でも身につけることができる。というか、知らないの?」
「えっ!いや、知らない」
訝しむような視線から目を逸らしながら、答える。
「そう言えば、精霊のことも知らなかったよねぇ?一体、どんな環境で育ったら、そんなことになるのかなぁ」
後ろからリオも問い詰める。
…どうしよう。
流石に、「精霊のいない別の世界から来たんです」なんて言えない。
信じてもらえるかも怪しいが、それ以前に、ソフィアから口止めされている。理由は教えてくれなかったが。
「まあ!色々あるんだよ!それよりも、早く行かなきゃ遅刻するぞ!?」
少し強引に話を終わらせると、早足気味に歩いた。
セナ達もまだ怪しんでいたが、何も言わずに、オレと同じように早足で学校へと向かった。