表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
13/23

フォスキア騎士団『ace』

 …ヤバい…これはかなりヤバい…!


 昨日。

 濃すぎる、ドタバタの入学初日が無事終わった。

 なんだかんだで、苦手だったセナやリオと仲良くなれ、初日で仲の良い友達のグループに入ることが出来たのは、本当に素晴らしい出だしだったと思う。


 ただ!

 この状況は、かなりヤバい状況だ。

 現在、朝の七時半過ぎ。ホームルーム開始時間、八時。

 未だ夢の中を旅している、目の前の黒髪青年を見つめる。この世界では、とても珍しい色だ。

 どうしてそんな色なのかは、昨晩聞いたばかりだ。

 その理由は、「どうしてそんなに眠ることができるのか」という質問の答えにもなっている。

 だから、オレは朝の六時に起きて、顔を洗い、制服に着替え、学校に行く準備を整えても、まだリオを起こそうとはしなかった。

 ギリギリまでは寝かせてあげたい。リオの身体の為にも。

 確かにそう思っていたのだが…。

 さすがに、そろそろ起きてくれないと困る。

 遅刻は連帯責任で、例えオレだけ間に合っても意味がない。

 というか、こんなリオを放って学校になど行けない。

 まだ、準備を最速で終えれば、遅刻にはならない。

 だが!

 先程から何度も何度も起こしているのだが、一向に起きる気配がない。

 耳元で叫んでも、身体を揺すっても、布団を引き剥がしても、全く起きない。

 このままでは、いくら準備の時間を割いても、起きた頃にはもう遅刻していることになる。

 …まずい…どうする…。

 必死で頭を働かせているオレの気など、全然知らないリオは呑気に、足を広げてスゥスゥと眠っている。

「…!そういえば…!」

 思い出した。

 昨日、セナから言われた助言だ。

「…枕を取り上げれば良いんだよな…?」

 こんなに色々試しても起きなかったリオが、枕を取っただけで起きるとは、あまり思えない。

 半信半疑で、リオの枕に手を伸ばした。

 とその時。

 もう一つの言葉を思い出す。

 …『戦闘態勢を整えて』って言ってたよな?意味わからんけど、まあ念のため…。

 一旦、リオのベッドから離れて、自分の荷物置き場に戻る。

 その中から、レイピアを取り出した。

 このレイピアは昨日、リオから「そう言えば、コレ、ニッちゃん先生から預かってたよ」と言われて渡されたものだ。

 この学校では、生徒全員にレイピアが送られるらしい。剣術の授業のときに使うからだそうだ。

 まあ、レイピアを武器にするかは自分次第らしいが。


 とにかく、レイピアを持って、またリオのベッドに近付くと枕を掴んだ。そのまま、枕をリオから引き離す。

「…!」

 すると、リオは眠そうに瞼を少し持ち上げて、ゆっくりと上半身を起こした。

「お、起きた…!」

 ようやくのお目覚めに感動するが、その時、いきなり、目にも留まらぬ速さでリオが切りかかってきた。

 その手には、いつの間に取り出したのか、剣が握られている。

「ッつ…!」

 咄嗟にレイピアで受けるが、力負けしてしまい、そのまま押し倒される。

 リオはまだ目が開いておらず、意識もないように見えた。

 …戦闘態勢って、このことだったのか…!

 まさに命がけだ。

 何故、朝起こすだけで、命の危険があるのかわからないが…。

 まずい。このままでは冗談抜きで、やられてしまう。

「…おい!リオ、起きろ!おい!」

 目の前の虚なリオに思いきり叫ぶが、力は全く緩まない。むしろ、どんどん強くなっている気がする。

 …マジでどうしよう…?


 もう駄目だと思った時、バシャッという音と共に、天井から水が降った。

 …。

 水はほとんどマウントをとっていたリオが被っているが、当然オレにも掛かっている。

「…リオさん!起きてください!」

「…んー…エッちゃん、うるさい…」

 水が滴る髪をそのままに、呆然としていると、上から良く通る男の声が聞こえた。

 その声に、反応するのは今まで意識もなくオレに切りかかってきたリオ。

 …え…何?

 いきなりのことで意味がわからないが、リオがようやく起きたことだけはわかった。

 リオがのっそりとオレの上から退くと、先程の声の主が見えた。ちなみにその右手には、空になったバケツが握られている。

 …いや、退く前にオレに言うことあるだろう!?

 心の中で悪態を吐くが、当のリオはどこ吹く風だ。そんなリオを尻目に、改めて目の前の青年を見る。

 少し長めのストレートの金髪を緩く片おさげに結えており、淡いラベンダー色の瞳は、こちらを優しく見つめている。

「大丈夫ですか?」

 そう言うと、青年はオレに左手を差し出した。

「あ、ありがとう」

 差し出された手を掴んで、立ち上がる。すると、青年はニッコリと微笑んだ。

「いえ。怪我がなくて、良かったです。初めまして。私は隣のB組のエラ・アルテノンと言います。貴方が噂の特待生の方ですよね?」

 丁寧にお辞儀をして、エラと名乗った青年はオレに話を促す。慌ててオレもお辞儀した。

「あ、えっと、オレはサキ。サキ・フルーテ。よろしく…エラ、さん?」

 つい、呼び捨てにしそうになるが、危ない危ない。昨日、いきなり呼び捨てにするのは、失礼だと学んだばかりだ。

 だが、エラさんはキョトンとしたかと思うと、フフッと上品に笑った。

「エラで構いませんよ。私は癖で、人の名前をついつい『さん付け』で他人行儀になりがちですので、サキさんから呼び捨てで呼んでくれた方が、嬉しいです」

 …な、何て良い人なんだろう。

 まさに紳士と呼ぶに相応しい好青年だ。

 オレの世界に居たなら、確実に「王子さま」とか何とか呼ばれて、モテモテだったに違いない。

 と、そこで何かに引っ掛かった。

 …あれ?エラって確か…何処かで…。

「あ!エラって、確か!セナやリオと同じ騎士団の…!」

 昨日、セナとの会話でエラという名前が出てきたことを思い出す。

 オレがいきなり大声を出したことに一瞬驚くが、エラは「はい」とすぐに微笑んだ。

「では改めて。お初にお目に掛かります。『フォスキア騎士団』所属…名を『ace(エース)』と申します。以後お見知り置きを」

 エラは胸前に手を添えて、軽くお辞儀する。その仕草は本当の騎士のようだ。

「『フォスキア騎士団』?」

「…俺達騎士団の名前だよ」

 聞き覚えのない単語に首を傾けると、いつの間にか制服に着替えたリオが教えてくれた。

 …『フォスキア騎士団』…『ace』…。

 頭の中で言葉を繰り返す。


 オレは知らない。今日が、オレの人生を変える分岐点の入り口になることを…。




評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ