一日目終了!
「な、何しようとしてんだああぁああ!!!」
「うっ!!…」
今まさに唇が触れそうになった瞬間。膝を曲げて思いきりリオ君を蹴り上げた。
リオ君が鈍い悲鳴を上げて拘束を緩めた隙に、サッとオレはリオ君から避難する。
ちょうど男の人にとっては、最大の急所となっているところに当たってしまったので、リオ君は座ることさえ出来ず、四つん這いになって身を悶えさせている。
オレはすっかり腰が抜けて、立てないまま、壁まで足とお尻を器用に使って移動した。
「うぅ…アンタ…バカじゃないの?男なら、暗黙の了解で、そこは狙わないでしょ?鬼畜!」
未だに激痛が走っているのか、こちらをギロッと睨むだけで、リオ君は何もしてこない。
だが残念ながら、その意見は通らない。何故ならオレは女だから。
そんな暗黙の了解など、女のオレが知ったことではない。
「…お前が変なことしようとするからだろ!」
「はあ?騎士なんだから、キスの一つや二つ当たり前でしょ?」
負けじとオレが言い返すと、さも当然のようにリオ君が言った。
…いやいやいや。キスなんてしたことないんですけど…。
「キスが当たり前って、どんな常識だよ!?というか、男同士なんですけど!(男じゃないけど)」
さりげなく、自分で墓穴を掘るようなことを口走りながらも、そんなことを気にしている場合ではない。
「まあ、俺にそっちの趣味はないけど…。というより、騎士なんだから、主人やお嬢様の手の甲にキスくらい当然でしょ」
やれやれと言った様子で、リオ君が首を横に振る。
まあ確かに、手の甲にキスは当たり前かもしれない。
だがさっきのは、どう見ても口にするつもりだっただろう。
というか、何でキス?
頭の中がグチャグチャだ。
そんなオレの様子など知らないリオ君は、不思議そうに自分の身体を見て「おかしいなぁ」と呟いた。
「何で、精霊の加護の力が働いてないんだろう?」
聞き覚えのない単語に、オレは首を傾げる。
…精霊?
そんなオレを見て、リオ君はひどく驚いたような表情を見せた。
信じられないものを見たような表情だ。
「えっ!まさか、精霊も知らないの?今までどうやって生きてきたの?」
…。
さりげなくオレの人生を否定されてしまった。
…だって仕方ないだろう!?ソフィアからも聞いてないんだけど!というか、リオ君のこんな大声出す姿初めて見たんだけど!
珍しい姿を見れた瞬間が、自分をバカにしている時だなんて、我ながら悲しくなってくる。
「…だ、誰も教えてくれなかったので…」
「…普通、子供でも知ってると思うんだけど…」
言葉を濁しながら説明すると、当然信じていないのだろう。リオ君は訝しむ眼差しでオレを睨んだ。
「はぁ…」
しばらくして、短い溜め息が聞こえると思ったら、リオ君は「いいよ。教えてあげる」と床に座り直した。
こんなに優しいリオ君は考えられなくて、オレは少し混乱する。失礼だし、先程も充分バカにされたが…。
「…精霊っていうのは、人間が生まれる遥か昔から、自然と共存して生きている生き物のこと。ちなみに、獣人は精霊の種族の一つで、一番人間に近い存在…」
獣人というのは、初めてこの世界に来たときに、市場で見かけた動物の耳が生えた人間のことだろう。
…へぇー、あれも精霊なんだ。
「精霊は本来人前に現れず、巨大な森や人間が立ち寄らない処に生息してる。けど、そんな精霊とも、繋がっている人間はいる。それが俺達『トゥラスト家』…」
「…」
リオ君の真紅の瞳が怪しく光る。
「『トゥラスト家』は昔から精霊の力を貸して貰って生きてる。例えば、基本的に俺を攻撃しても、俺は全くダメージを受けない。全くの無傷ってわけ。痛みもあんまり感じないかな…まあ、その分代償は高いけど…」
ゆったりとした口調で喋るリオ君は、何処か神秘的な感じがした。
…そうか。だから、オレが蹴って痛みを感じた時、不思議そうにしてた訳だ。
…そんなことよりも。
痛みや攻撃が効かないなんて、随分とチートキャラだ。つまり、普通の実戦でコイツに勝てる奴はいないということだ。
まあ、だから代々、王族専属の騎士をしているのだろうが。
「…代償?」
「うん。俺達一族は精霊から加護の力を貰っている代わりに、自分の精気を吸われてるんだよ。一日中寝てるのも、それが原因ね。後はこの、髪と眼かな。精霊と契約した一族は代々、黒髪と赤目になるんだよねぇ…」
…他の人間と区別するために…。
そこそこ距離は保っているのに、リオ君の声が頭で響いた気がした。
…結構なオカルトチックな話だ。まるで悪魔との契約の話を聞かされているみたいだ。恐らく、あながち間違いでもないだろう。
だが、どおりで学校で寝ていても、誰からも文句を言われないわけだ。
突然の情報に何と声を掛けていいのかわからない。
結構深刻な話を聞いてしまった気がする。
オレが口を噤んでいると、リオ君はフッと可笑しそうに笑った。
「驚いたり、深刻そうな表情したり、百面相みたい。ふぅん…どおりでセッちゃんが絆される訳だ。うん。面白いから、アンタには呼び捨てで呼ぶ権利をあげる」
ニヤニヤとしながら、上から目線でリオ君が言う。
流石に、ここでツッコむ程、オレもバカじゃない。
ここは素直に感謝しておこう。
「…ありがとう、リオ」
「うむ、苦しゅうない」
オレが礼を言うと、満足そうにリオは頷いた。
…いや、ホント何目線?
色々と言いたいことはあるが、とにかくリオともなんとかやっていけそうだ。
そんなこんなでドタバタの一日が幕を閉じていった。
読んで頂きありがとうございます。
実はこの作品、「小説家になろう」のサイトから、光栄なことに感想を頂けました!!
めっちゃ嬉しい!!
本当にありがとうございます!
是非是非、感想の方もご覧になってください!
これからも、『おんナイ!』をよろしくお願いします!
ちなみに『おんナイ!』は、私の友達が略してくれた呼び方です。言い易いですよねー。
それでは、近いうちにまた次回をあげさせて頂きます!
長々と失礼しました!