ピンチ!?
それから、セナと一緒に寮に戻ると、別れる直前に
「明日、リオ君起きなかったら、枕取りあげてみると良いから。ちゃんと戦闘態勢整えてね」
と謎の助言をくれた。
…何で戦闘態勢?
頭にハテナを浮かべながら、扉を開ける。
「…た、ただいま…」
「あ、帰ってきた」
部屋に入ると、奥から首にタオルを掛けているリオ君が出てきた。髪の先が少し濡れているところを見ると、風呂上がりらしい。
…オレも入らないとな…。
風呂は北棟の大浴場以外に、各自の部屋に個室風呂が設置されてある。
それは、荷物の片付けをしていた時に、廊下の扉を開けてみてわかったことだ。
予想通り、その扉はトイレへと繋がっており、その横にはカーテンで仕切られた風呂があった。
オレは一応男として暮らしているが、女なので、大浴場で入る訳にはいかないから、非常に有難い。
「…えっと…オレも、お風呂入ってくるな」
「別にいちいち断らなくても良いんだけど」
リオ君に睨まれながら、ソフィアから送られてきていた入浴セットと着替えを持って、風呂へと向かう。
「…ふぅ…」
シャワーを浴びて、身体全体を温める。
風呂場に取り付けられた鏡に、自分の赤毛が映る。
この世界の住民の髪の色を奇抜と言っておきながら、自分も大概だ。
ちなみに地毛。
オレは日本人の母親とスコットランド人の父親のハーフで、この髪は父の遺伝だ。
眼のエメラルドグリーン色も父さんの遺伝だった。
「…それにしても、すっごい楽…」
今までずっとサラシを巻いていたので、胸の開放感に感動する。
男装するようになってからは、学校や空手教室など、家以外の場所ではずっとサラシを巻いて生活していた。だが、今日からは夜も着けなくてはいけなくなってしまった。
…流石にキツいよな…。
あまり胸を無理矢理締め付けるのは良くない。
夜くらいはサラシを外した方がいい。
オレはそこまで大きい方ではないし、ブカブカの部屋着を着れば大丈夫だろうか。
…うぅ…一人部屋の方が良かったかも…。
今初めて、リオ君の気持ちがわかった。
まあ、だからと言って、いきなり怒られるのも理不尽だと思うが…。オレは悪くないし…。
「さっぱりした…」
頭と体を洗って風呂場を出た後、結局サラシを着けずに部屋着へと着替えた。
洗面台の鏡で確認するが、まあ大丈夫だろう。それに、リオ君は自分に興味がない。ジロジロ見られなければバレない筈だ。
ついでに歯を磨いて、完璧に寝る準備を整えると扉を開けて、部屋へと戻った…瞬間。
「うわっ!」
あれ?リオ君が居ないと思った瞬間に、壁に隠れていたリオ君に押し倒された。
思いきり床にぶつけた後頭部と背中が痛い。
などと呑気に思っている場合でもない。何でこんな状況になった。
「…」
「…えっと、何でオレ、押し倒されてるんだ?」
無言でこちらをジィーッと見つめられ、気まずくなってヘラッと笑う。
すると、相変わらず何を考えているのかわからない表情のまま、リオ君は口を開いた。
「…セッちゃんを落とすなんて、どんな手使ったの?」
「…へ?」
いきなりの発言に、意味がわからず間抜けな声が出る。
…セッちゃんって、セナだよな?つか、落とすって…。
「な、何で会ってたこと、知ってるんだ?」
「そこの窓から、覗き見してたから」
と言って、視線をベッドが置いてある壁に移す。オレも視線をそちらへ移すと、確かに壁に窓が取り付けられていた。
つまりずっと見られていたということか。ということは、オレが躓いて転びそうになったことも、見られてしまったということだ。恥ずかしい。
「で。セッちゃんと何話してたの?あのセッちゃんを落とすなんて、誰にでも出来ることじゃない…」
「…」
依然として押し倒されたまま、リオ君の真紅の瞳に見つめられる。
というか、そんなに見られたらバレる。女だということが。
どうにかして逃げようとするが、両手首はリオ君にガッシリ掴まれているので使い物にならない。
そんなことをしている間に、焦れたのか、リオ君が顔をゆっくりと近づけて来た。
「…ちょっとだけ、アンタに興味が湧いた。だから、調べさせて貰うよ」
「え…」
そう言うと、リオ君はどんどん顔を近づけて来て、お互いの唇がくっ付きそうになった。
…え。
読んで下さり、ありがとうございます。
今回、少し短かったですね。
次回も是非、お楽しみにしていて下さい!!