にじむ
雨の降る夜、ベランダに出てぼんやりとタバコを吸いながら外を眺めていた。
二本目のタバコに火を着けようと咥えた時、ふと気がついた。
私の部屋のベランダの前には、私鉄の高架が走っていて、その高架下に人の気配がした。
はじめはぼんやりと、それこそ雨に滲むような頼りない形だったが、次第にくっきりとその輪郭をはっきりとした物に変えていく。
「T!」
懐かしくも見慣れた、照れたような笑顔を浮かべたTがそこに立っていた。
一年前「あなたは優しすぎる。あなたといると、自分は強くなれない。」と言って、突然目の前からいなくなったT。
涙が溢れ出て、Tの姿がボヤけてしまう。
愛していたのに。あんなに愛していたのに。
本当は、とっくにTが心変わりをしていて、離れようとしている事がわかってしまう自分が悲しかった。
あれから
あの別れ話しから、どうしたのだろう。
最後の思い出に、近くの山に二人で手をつないで星空を見にいって…
その時高架下のTが、ぐいっと服の襟元を開いた。
赤い、一筋の跡が…
ああ、全て思い出した。
この愛を終わらせるべく、いや永遠の物にするために、
私は…
Tを…
殺してしまった。
Tの頸動脈を掻き切ったのだ。
「T。迎えに来てくれたの?」
それまで涙で滲んでいたTの口の動きが、急にはっきり見える。
「地獄へ堕ちろ」