きれいなこえ
「きれいな声聞くとさ、すごく安心する」
「俺ってそんな声してないけど…」
「計の声はきれいだよ、安心する」
「…あっそう」
どうにも自分がきれいな声だなんて考えられない。
男同士でする会話でないし、そもそも男同士で付き合ってるってことがまだ信じられないけど。
『偽物でもいいからさ、付き合ってよ』
そう加賀谷に言われて、加賀谷のことがそんなに好きでも嫌いでもなく、男か女かと言えばどっちかと言うと女の方が好きだけど、加賀谷をがっかりさせたくなくて、付き合い始めて半年がたつ。
よくもこんなに続いてると思う。
加賀谷のことを特別好きになるわけでもなく、キスとか恋人らしいことを求められもせず(たまに手をつなぐ程度だ)半年間を過ごした。
「なあ、俺らってさ、恋人…なのかな?」
「まあそうなんじゃない?」
適当な答えが返ってくる。
本当はお前、俺のことそんなに好きじゃないんじゃないの?
そう思ったけど言えない。
「俺は計の事、大好きだよ」
「…唐突に心読むのやめてくんねえ?」
「ふふふ、俺がおかしいんじゃなくて、計の顔にくっきり書いてあったからそれ読んだだけ」
「嘘だろ」
「ほんと」
「マジか…そんな顔に出てた?」
「うん、俺のことそんなに好きじゃないんじゃないのって。計はさ、俺に付き合ってるだけじゃん」
「そりゃ恋人だから」
「そうじゃなくて、無理してるでしょ?」
「無理はしてないよ」
「でも俺の事友達としてしか見てないでしょ」
確かにそうだけど、なんでそんなことが分かるんだ。
「なんでわかるんだって顔してるね。そりゃ態度見てれば分かるよ」
「…だったら別れんの?」
「それは嫌」
「なんで?」
「そばにいてほしいから。最初に偽物でもいいって言ったの自分だし、別れるのは辛いなあ…多分別れることになったら泣くし」
「…そう言われたら別れらんねえな」
「優しいね」
「俺は優しくなんてねえよ。お前が泣いてるのなんて想像したくないし見たくもないだけ」
「そう言うところが優しいって言ってんだってば。余計俺に好かれちゃうよ」
そっと肩に頭をのせてくる。
そして本当に嬉しそうに笑う。
そういうしぐさを見るとどきどきしてしまって、恋心はないはずなのに惚れているように錯覚してしまう。
「俺もさ、お前の声、好きだよ」
「え?」
「俺もお前の声好きだっつってんの!」
恥かしくなってそっぽを向く俺を見て、加賀谷がぷっと吹き出した。
そこから大爆笑して止まらなくなったみたいなので途端に恥ずかしくなった。
「笑うな!!!」
「いや、嬉しくてさ…ごめんね?」
「分かったならいいけど…」
嬉しいと言われて嬉しくなる。
こんなことで嬉しくなるなんて、本当は惚れてるんだろうか?
いやいやまさか…
「俺の声もさ、計にとってはきれいなのかなあ?」
「まあきれいだよ」
そう言うとまた嬉しそうな顔をした。