幼女は呪いを解きに行く④
「あ~! ちょっと待ってよ!」
グリン村から森へ出ようとしたところで、突然ゼルに呼び止められた。
「僕、いい事を思いついた。この事件をちゃんと村人に知ってもらって、ナナっちが解決するために行動している事を宣伝したらどうかな?」
そんな事を言うゼルに、ナナは難しい顔をする。
「いや、私はさっさと解決してさっさと帰りたいんだけど……」
「ダメだよ! 事件っていうのはね、名前も明かさずに颯爽と解決するのもカッコいいけど、真相を知ってもらってちゃんと理解してもらう事だって大切なんだ。ナナっちはミオっちを使って歪持ちと対話を試みるつもりなんでしょ? これによって、この世界の歪持ちという認識が大きく変わるかもしれないんだ。これはナナっちにとっても他人事ではないからね。ちゃんとみんなには知ってもらった方がいいよ!」
ゼルは目を輝かせていた。
そんな彼の熱い想いに、ナナは押されていく。
「けど、宣伝するって言ってもどうすれば……」
「大丈夫。僕に任せてよ! 交渉だけが僕の取り得だからね! ここの村長と話をつけてくるから、ナナっち達は歪持ちの情報を集めた方がいいんじゃないかな? だって顔も名前も、どこら辺に逃げ込んだのかもわからないでしょ?」
「そうだけど、この村の人間は歪持ちの話をすると呪いが降りかかるって信じてるんでしょ? 情報を集めるのは難しいと思うけど……」
「いや、むしろ逆だね。確かにこの大陸では歪持ちの話は暗黙のルールで禁止されている。けどそれは、それだけみんな怯えているって事で、その分だけ誰かに解決してほしいと思っている裏返しだと思うんだ。この事件を解決するために行動しているのならば、情報は教えてくれるとはずだよ。と、言う訳だから、僕が交渉している間、勝手に出発しないでよ! 絶対だからね!!」
そう言い残し、ゼルはパタパタと走り去って行く。
確かに少しでも情報が欲しいと思っていたナナは、ゼルを待つ間、村を回る事にした。
「あのゼルって子、行動力が半端ないわね……」
村を歩き回りながら、ナナがシンディに話しかけていた。
「ゼルは昔からそう。前にも言ったけど、ゼルは興味深い事や面白そうな事には全力で参加する癖がある」
「交渉が得意って言ってたけど、何かやってるの?」
「ゼルは私と同じ村で生まれて、同じ村で育った。けど、最近は面白いものを探して他の大陸に行く事も多くなった。船を使って他の街に行って、いろんな場所で仕事をしながら珍しい物を集めてる。村に帰ってくるときは色々とお土産や金貨を持ってきてくれるんだけど、私はそれが少し心配……」
心配と言う割に、シンディは相変わらずの無表情だったりする。
「シンディも一緒に行ったりしないの?」
「魔物がヤバそうな大陸の場合は私もついて行く。ゼルは戦いが苦手だから、代わりに私が戦ってあげたりするんだけど、そのせいで『陽炎』なんて呼ばれる事になった。やっぱり私は生まれた村で、見知った村人のみんなとのんびり過ごすのが好き。他は何もいらない」
シンディの話を聞いて、二人の一面を知ったナナであった。
そうしながら、ナナはグリン村の村人から歪持ちの情報を聞いて回る。ゼルの言った通り、情報を聞こうと歪持ちの話題を出すと最初は怯える村人であったが、ちゃんと状況を説明して解決するために動いていると分かると、割とすんなり情報を提供してくれた。
そうして集めた情報をナナは整理する。
・歪持ちが召喚者を殺したのは今から二年前。
・歪持ちは絶世の美少女であり、こちらの言う事は理解できるが自分からは話せない。
・殺された召喚者の名前はアレス。歪持ちの名前はアルラウネ。
・事件が起きてから、アルラウネは大陸の南に逃げ込んだと思われる。
・アルラウネは隠れるのが得意で、応援に駆け付けた剣美でさえ捕まえる事ができなかった。
等々だ。
そうこう聞き込みをしているうちに、ゼルが戻ってきた。
「やぁやぁみんなお待たせ。この事件を解決してくれたら少しだけど報酬も出してくれるそうだよ。さぁ、張り切って頑張ろう!!」
そうして一行は、ようやく本格的に歪持ちであるアルラウネを探すために村を出る。目指すは大陸の南側全般だ。
このユグラシル大陸は、一言でいうなら逆三角形の形をした大陸である。つまりピラミッドをひっくり返したような形である。
船着き場は大陸の北西にあり、そこから東に進んだ所にグリン村がある。さらに東にはこの大陸の王都があり、その国がナナに懸賞金をかけていたりする。
グリン村から南にはシンディの村があり、アルラウネが逃げ込んだのはさらに南という事であった。
この大陸において、シンディの村よりも南はほとんど人が入り込まない未開の地とされており、そのジャングルから一人の少女を探すのは、大海原から小さな小瓶を見つけるようなものだった。
……だがそれは、普通の人間が探す時の例えである。
――「インストール! ライカンスロープ!!」
ドクンッ!
ナナの体に獣の遺伝子が覚醒する。五感が鋭くなり、感覚が研ぎ澄まされ、聴覚が鋭敏になっていく。
「ここから前方100メートルくらいの所に四足歩行の種族がいるわね。足音が響くから体が重そう。右方向には地面を這って移動してる体の長そうな種族がいるわ」
ナナがアルラウネを見つけるために、半径100メートル内の気配を探り当てる。
「ナナっちはそんな遠くの気配までわかっちゃうのかい!? 凄いね!」
「右方向はジャイアントスネーク。前方のはグラビトンベアだと思う。どっちも魔物ね」
シンディの情報を聞きながら、ナナはクルクルと自分の金髪を弄っていた。
「ねぇシンディ。アルラウネを探す邪魔になるからさ、魔物は全部倒しちゃっていい?」
「それはもちろん構わない。魔物は絶滅させようとしたって必ず生き残りがいて増えていく。むしろ倒してもらうと助かる」
「そう、なら遠慮なく排除するわね」
ナナは別に魔物を敵だとは思っていない。魔界では色んな種族が暮らしているからだ。襲ってくる種族が敵で、友好的に近付いて来る種族が味方となる。
だが、今はそんな余裕なんてなかった。一刻も早くアルラウネを見つけ出し、ユリスを助けたいと思っているのだ。
そんなナナが、敵を狩るために静かに立ち上がる。
「私も手伝う。それくらいは出来る」
そう言って、シンディも立ち上がった。
「そう? じゃあ前方の魔物をお願い。私は右の長い奴を倒してくるから」
そしてナナは、思い切り地を蹴った。
ギュン! と、凄まじい速さで茂みを飛び越え、一瞬で右方向から何かを叩きつける音が聞こえてきた。
その速さにシンディが目を奪われていると、すぐに戻ってきたナナが近くでブレーキをかけていた。
「こっちは終わったわ。そっちは?」
「えっと……まだだけど……」
「そう。もしかしてシンディって、陣雷と触雷でカウンターを狙うのが主な戦闘スタイルだから、スピードとかはあまり得意じゃなかったりする?」
「う、うん。短距離ならそれなりには出せるけど、あまり遠くだと続かない……」
「なら無理しなくていいわよ? 私が倒してくるから」
嫌な顔一つせずにそう言うナナに対して、シンディは申し訳なさそうにしていた。
「……その方が早いと思う。ごめん……」
「別にいいわよ。私、スピードには自信あるだけだから」
そしてナナは再び地を蹴り茂みを飛び越える。
音速を超えるほどの勢いで飛びだしたにも関わらず、周囲の木々を掻い潜り、むしろ樹木を蹴って方向をコントロールしながら一瞬で見えないほど遠くへ飛び去ってしまう。
そしてまた、何かを地面に叩きつけたような衝撃音が一つ。
「ナナっちは速いねぇ。よし、僕たちも後を追うよ」
ゼルに言われてシンディとミオは頷き、同時に駆け出した。
「……やっぱりナナ殿は凄い」
ナナの後を追いながら、シンディがポツリと呟くのをミオは聞き逃さなかった。
「でもシンディ様も十分に強いと聞いていますよ」
「いや、ナナ殿と戦った時は、私の技とナナ殿の電撃耐性が互いに相性を悪くしていたせいで戦闘が長引き、実力が拮抗しているように見えただけ。実際はナナ殿の方がよっぽどレベルが高いと思う。何度も死にかけるほど修行していたと言う話はだでじゃない」
「……シンディ様は、ナナ様のレベルはどの位だと思いますか?」
「私が約6000だから、ナナ殿は最低でも8000はあると思う。一万以上あっても驚きはしない……」
ゴクリと、ミオは喉をならして歓喜する。
ミオにとってはナナが強いと褒められるのは喜ばしいことである。それも当然の事だろう。身も心も捧げている主人が凄いと言われて、打ち震えない従者はいないのだから。
「ああ~……私もナナ様とシンディ様の闘いを見てみたかったです! 一生の後悔でございます!!」
頬を紅潮させながらテンションが爆上がりしたミオは、ユリスを背負っているというのにさらにそのスピードを上げてナナを追うのであった。




