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幼女の異世界転移録  作者:
強者激突編
52/64

幼女は呪いを解きに行く➂

「むぐむぐ……このおにぎりには梅が入っているのね。おいしい」

「梅は私達の村で沢山取れる。最近は暑いから、塩分も取れてちょうどいい」


 現在ナナ達は、シンディの村を出て、殺された召喚者の村へ向かっている途中である。ユリスを早く助けようとナナが急いでいるために、歩きながらおにぎりを頬張っているのだった。


(村で沢山取れる梅か……これに毒が入っていたとしたら集団で具合が悪くなってもおかしくないけど……でもそれならもっと被害は壊滅的になってるはずよね。あ~もう村人がなんで倒れたのか全然わかんない! とにかく今はユリスを助ける事だけを考えよう)


 気持ちを切り替えて、ナナは手に持つおにぎりをミオに差し出した。


「はい。ミオも食べるでしょ? あ~んして」


 頬っぺたに押し付ける勢いで差し出されたおにぎりにミオは驚く。しかし彼女は今、ユリスを背負っているために両手が塞がっていた。そう、これはナナの気遣いである。

 因みにミオがいつも手に持っている石槍は、腰の帯に括り付けて地面を引きずっている状態だったりする。


「えぇ!? あ、あの、ナナ様、別に全く手が使えないという訳ではありませんよ。ユリス様は軽いですから、自分で食べられますので……」

「けど、私が食べさせてあげた方が楽でしょ? いいから食べて」


 ムギュ!

 もはや強引に、ナナはミオの口におにぎりを押し付けた。

 ミオは困惑しながらも、顔面に押し付けられるおにぎりを必死に食べるのだった……


「ミオ殿、大変そう。疲れたら私が変わりにユリス殿を負ぶるよ」


 シンディが心配そうにミオの顔を覗き込みそう言った。

 いくら軽いとは言え、ミオとユリスの身長はそれほど変わらない。傍から見れば、ずっと背負うのはかなり大変そうに見えたりするのだ。


「ありがとうございますシンディ様。けど、私って結構体力には自信があるんですよ。普段はフレイムウルフと一緒に荒野を駆け回っていますからね。このくらいならまだまだ平気でございます」


 笑顔で答えるミオに、今度はゼルが近付いていく。


「無理しなくていいからね。僕なんてなんの役にも立たないけど、とりあえず暇でついて来ただけだからさ、ユリっちを背負うなら僕が手伝うよ」


 そう言って、ゼルはユリスに手を伸ばす。するとミオは体の向きをクルリと変えて、その手がユリスに触れないようにうまく避けた。


「……む? むむ?」


 身を翻して避けられたゼルが、今度こそはと再びユリスに手を伸ばす。しかしミオは、突撃してくる牛を捌く闘牛士の如く、ヒラリとうまく避けるのだった。


「ぬお~! 今度こそ~!!」


 やけになっているのか、はたまた面白がっているのか、ゼルはユリスに突撃を繰り返す。すると、ミオは腰に差していた石槍をすばやく抜き取りゼルの喉元に付きつけた!


「フーッ!!」


 さらには猫のような威嚇を始め、これにはゼルも手を挙げて降参するのであった。


「ゼル、あまりふざけてユリスにちょっかいを出すのは止めた方がいいわよ。今ミオには、誰だろうと指一本触れさせるなって私から命令を出してる。場合によっては相手を攻撃してもいいとさえ言ってある。下手に触ろうとすれば怪我するわよ」

「な、なんでそんな命令を出してるのさ?」


 シンディに後ろに隠れながら、ゼルがそう聞いた。

 わざわざ伝える必要はないが、絶対に教えてはいけないという訳でもない。ナナは仕方なく、この二人に自分の考えを話す事にした。

 殺された召喚者は歪持ちを恨んでいる。だから同じ立場である自分かユリスしか狙わない。だからこそミオに託すのが一番だと考えた事。

 ゼルとシンディは、そんなナナの話をフムフムと頷きながら聞いていた。


「ナナ殿は自分でユリス殿を守るよりも、比較的安全圏にいるミオ殿に全てを託したのね」


 シンディが腕を組みながらそう呟いた。

 そしてそんな状況下で、一番浮かない顔をしているのがミオであった。


「あの、ナナ様。今更なんですが、幽霊とか本当にいるんですか……? その、疑う訳じゃないんのですが、私はそういうのは全く見た事がない部類ですので……」

「いるわよ。なぁに? ミオは幽霊が怖いの?」

「そりゃ怖いですよ! 人間の決めた法律の外にいるモノは怖いんです! 何やらかすかわからないじゃないですか! しかも一方的に呪い飛ばしてきますし!!」


 ミオはお化けが苦手だった……

 しかもそのせいで一気に足取りが重くなっていった。


「安心して。そのために私がいるんだから。召喚者の霊なんてぶん殴って終わりよ」


 えぇ~……と、全員が困惑の声をあげる。


「えっと……ナナ様? ユリス様を助けるのにどんな手段を使うおつもりで……?」

「だから今言ったでしょ? 怨念を送っている召喚者の霊を見つけて殴って解かせる」


 ミオは開いた口が塞がらず、シンディの表情は青ざめ、ゼルは見事に爆笑してお腹を抱えていた。


「ナナ様は霊をぶん殴る事ができるんですね……それも魔界にいた頃の修行でできるようになったのですか?」

「う~ん……修行して身に付けたっていう訳じゃないわね。ねぇミオ。幽霊が見えるようになる簡単な方法があるんだけど、それってどんな方法だかわかる?」


 そんな問いかけを受け、ミオは少し困った表情で考え込む。


「そんな方法があるのですか? えっと、そういう力を持った人に弟子入りする、とかじゃないですよね?」

「違う。もっと簡単な方法があるのよ」

「う~ん……なんでしょうか。わかりません。どんな方法なんですか?」


 ミオが早々に音を上げると、ナナは少しだけ溜め息混じりでポツリと言った。


「死にかける事よ……」


 想像以上に重い答えが出た事で、一同から会話が消えた。


「人ってね、死にかけると大きな川が流れている夢を見るのよ。その川を渡っちゃうと回復魔法をかけても助からないんだって。私は修行中に何度も死にかけた。というか、死ぬ一歩手前までいかないと回復魔法をかけてもらえなかった。そうして何度もその川のほとりに行ってるうちに、いつの間にか幽霊が見えるようになってたの……」


 もはやうんざりとした表情で語るナナを見て、ミオは泣きそうになっていた。


「うぅ……ナナ様が修行中に辛い想いをしていたと聞いてはいましたが、そこまで厳しいものだったとは……可哀そう過ぎです……」

「いや、とにかく私の事よりも今はユリスを優先しないと」


 四人は踏み慣らされた簡素な道を進み、目的の村を目指す。

 ナナにとっては今、どの方角に向かって歩いているのかすらわかっていないが、ジャングルを抜けるとそこには柵で囲われた村があらわれた。


「ここが召喚者が殺された村。グリン村と呼ばれてる」


 シンディを先頭にして、メンバーはぞろぞろと柵の中へと入っていく。

 グリン村はシンディが住む村と似たような集落であった。開けた場所に小屋を建て、畑が並び作物を栽培している。村の中央には川が流れて、橋がかけられていた。

 こんなジャングルの中にある村だ。大体は似たような作りになるのかもしれない。

 一見のどかな村に見えるが、ナナの表情は強張っていた。


「感じる。強い霊気が漂ってるわね。こっちよ」


 立ち止まっているシンディの横をすり抜け、ナナは勝手にどんどん進んでいく。その後ろをミオはためらいもなくついて行き、そんな二人を慌ててゼルとシンディが追いかけるのだった。

 四人は橋を渡り、村の奥へと進んでいく。通りすがりの村人に会釈をして、畑や大木を通り抜け、さらに進むとそこには簡素なお墓が立っていた。

 周りには花が咲き乱れ、柵で覆われた一番隅っこに作られた小さな墓。そしてそこには、一人の人間がしゃがみ込み手を合わせていた。


「あのお墓ね。ヤバそうな気をバリバリ感じる」


 ナナはそう言いながらスタコラと歩み寄る。

 手を合わせる者の後ろまで行くと、その者は気が付いたように立ち上がり、振り返った。

 その人物は若い男性であった。短い茶髪にこの大陸の民族衣装を帯で縛った、どこにでもいるような男性だ。

 ただ身長が高い事と、整った顔立ちは印象深い。


「見かけない顔だね。ここへは村人だって滅多に近寄らないのになんの用かな?」


 若い男がそうナナに聞いてきた。


「私は歪持ちよ。相棒がここで殺された召喚者の怨念を受けて倒れたの。だからそれを解くためにやってきた。それであなたは?」


 ナナの答えに男性は驚いた表情を見せながら答える。


「俺はジーク。この墓で眠るアレスの友人さ。……そうか、こいつの怨念にね。それでお嬢ちゃんは、その怨念を解くためにどうするつもりなんだい?」

「簡単な事よ。そこのお墓を破壊して、そのアレスとかいう召喚者の霊を引っ張り出す! そして出てきた所をぶん殴る!」

「ちょ、ちょっと待ってくれ! それはいくらなんでもあんまりだろう!?」


 ジークはあたふたしながらナナをなだめようとするが、そんな事で止まるナナではなかった。


「あんまり? それはこっちのセリフだわ。私達は流行り病で苦しむ村があるって聞いたからそれを助けに来ただけ。にも関わらず、一晩泊まっただけでユリスは目を覚まさなくなった。そっちの方があんまりじゃない? 先に喧嘩を売ってきたのは向こうなんだから。さ、とっととそこをどいてくれる?」


 ナナは肩をグルグル回しながらウォームアップを始めていた。


「待て待て待て! 確かにお嬢ちゃん達にしてみれば理不尽かもしれないが、こいつにだってそれだけ理不尽な出来事があったんだ。ここは別の方法で妥協しよう!」

「別の方法? それってどんな方法なの?」


 メンド臭そうにジト目で見つめるナナに冷や汗を流しながら、ジークは話し出した。


「結局こいつが恨んでいるのは相棒の歪持ちだ。なんで裏切られ、なんで殺される事になったのかもわからずに死んでいった。そして当の本人は今でも森の奥深くに逃げ込んでのうのうと暮らしている。だからその歪持ちを探し出して、お嬢ちゃん達の手で敵を取ってもらいたいんだ。お嬢ちゃん達、かなり強いんだろ?」


 ナナは腕を組み、唸り声を上げながら迷う。しかし三秒ほど唸った後にはため息を吐いて諦めるように吐き捨てた。


「わかったわよぅ。仕方ないわねぇ~……」

「おお!! やってくれるか! それはありがたい! では歪持ちを殺したらここまで運んできてくれ。そうすればきっと呪いは解けるだろう!」

「あ~はいはい。わかったわかった……」


 ナナはてきとうに返事をしながらジークのそばに寄っていく。そしてその足を、ズボンの上からパンパンと軽く叩いた。

 次に両腕。仁王立ちするジークの姿勢を正すように、両腕を横からパンパンと軽く叩く。

 次に両肩。背の高いジークに背伸びをしながら、同じようにその両肩をパンパンと軽く叩いた。


「えっと、何をしているんだ?」

「まぁ気にしないで。それじゃ行ってくるわ」


 クルリと踵を返してナナはその場から立ち去った。

 ミオは従順にナナの後ろをついていき、ゼルとシンディはお互いを見比べながら、ためらうようにナナへついていく。

 そうしながら一行は再び村の中を横断して、村の出入り口までやってきた。


「ちょ、ちょっと待ってナナ殿! 物凄くテンポよく進めているけど、本当に歪持ちを探すつもり!?」


 躊躇ちゅうちょなく村を出ようとしているナナに向かって、シンディが慌てた様子で呼び止める。


「え? もちろん。だって早くユリスの事を助けてあげたいもの」

「だからと言ってむやみに森の奥に入れば戻れなくなる! 私だってこの大陸のジャングルを全て歩き回った事なんてない!」

「戻れなくなるって、なんで? 迷子になるって意味?」

「そう! 森の奥はほとんど人が入り込まない場所。木ばかりで風景も似てる。しかも広い! 絶対に迷子になる……」


 シンディが必死にそう言って説得するも、ナナとミオはお互いの顔を見合わせていた。


「ミオ、あなた迷子になる自信ある?」

「いえ。なんとかなるのではないでしょうか?」


 あっさりとそう言う二人にシンディは目をまん丸に見開いて驚いていた。

 ……二人の会話は、普段無表情の彼女が、そこまで驚くほどの事だったのだ。


「なんとかなるって、なんでそんな事が――」

「――ここは大陸の北の方ですよね? ここから西に行けば船着き場があり、南に進めばシンディ様の村がございます。森の奥というのはシンディ様の村からさらに南にいった場所でございましょう? 帰りたくなったら北を目指せばいいのでございます」

「そ、そうだけど……森の中をグルグル動き回っていたら、その方角もわからなくなる!」

「いえ、わかりますよ。太陽の昇る方角が東。沈む方角が西ですから、それを参考にすればよいのでございます。まぁ、私は一度見た場所はどんなに似てようが忘れたりしないので、それも合わせて動けば大丈夫かと」

「……」


 シンディが唖然として。ゼルは興味深そうに目を輝かせていた。


「へ~そうなんだ。魔界って太陽が無いからそんな方法で方角を調べるなんて知らなかったわ」


 ナナでさえ感心したようにそう言っている。


「ではナナ様は、どうして迷子にならない自信があったのですか?」

「え? だってここって大きな木が沢山あるでしょ? その木に登って、思い切り真上にジャンプして上空からこの大陸を見下ろせば、どこに何があるかわかるじゃない」

「なるほど。さすがナナ様でございますね♪」

「……」


 ナナとミオが楽しそうにそんな話をしているのを、シンディはキョトンとしながら聞く事しかできなかった。

 あまりにも常識外れだが、確かにそんな事が可能なら迷う事はない。


「ってなわけで、しゅっぱーつ!!」


 あっさりと村を出ようとするナナとミオに、シンディは戸惑いながらもついて行く。

 昨日はシンディが二人を案内していたはずなのだが、今日に限っては逆にシンディが二人の後ろをついて行く事になりそうな一日であった。

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