表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
幼女の異世界転移録  作者:
強者激突編
46/64

幼女はクランに参加する➉

「一斉に攻めろ! 数を活かせ!」


 仮面を被った咎人がそう叫ぶと、一人のバンダナを巻いた男がナナに突撃をかけた。


「うおりゃあああ!! 俺の十刀流、受けてみろぉ!!」


 バンダナの男は腕を振るうと、その周囲に十本のナイフが飛び交った。

 まるでナイフが意思を持つかのように男の周囲を旋回して、まるでバリアのようにつけいる隙が無い。そしてその状態でナナに突撃を仕掛けていた。


「俺の『飛刃結界』。お前がどんなに早く動こうとも、この刃を掻い潜る事は不可能だぜ!」


 自らナナに近付いて、周囲を飛び交うナイフで攻撃を目論むバンダナの男だが、すぐに自分の浅はかさを痛感する事となった。

 向かって飛来する十本のナイフを、ナナは全て指で挟んで動きを止めていたのだ。


「なるほど、自分の指とナイフを糸で繋いで、十本の指で十本のナイフを動かしていたのね。技術は凄いと思うけど、私みたいな動体視力の良い相手には通じないわよ。数に惑わされなければ一本一本はそんなに速くない」


 ペキッと、指で挟んだナイフを全て折る。そしてそのまま拳を握り、バンダナの男に向かって振りかぶった。

 ——ダァン!!

 その瞬間に再び大きな音が鳴り響く。カウボーイハットの男が使う筒から発射された高速の鉛玉を、ナナはバックステップで回避する。

 そのせいでバンダナ男から少し距離が離れた時だった。


「ナイス! これでも喰らえ! 『ニードルレイン!!』」


 長髪の男が魔法を発現させた。すると頭上に無数の針が現れる。

 まるで雨のように降り注ぐ針には避けるだけの隙間がない!


「十本がダメなら千本用意してやるよ! 同じように指で受け止めきれるか!? いや無理だね! 体中針だらけになってくたばりやがれ!」


 無数の針が迫り来る中、ナナはその拳を空に構える。そして、針の雨に向かって思い切り拳を振るった。

 ——ボオオォン!!

 一瞬にして無数の針が弾けとんだ。


「は!?」


 全員が目を丸くしてその光景を疑った。

 周囲には、勢いを無くし弾けとんだ針の残骸がバラバラと地に落ちていた。


「この怪力はね、巨人族の力なの。私はその巨人ほど力持ちにはなれないけど、それでも百トンくらいの重さなら持てるのよ? こんな軽い針なんて拳圧だけで吹き飛ばせるわ」


 そして誰よりも早く、ナナはバンダナの男に攻撃を仕掛けた。一瞬で距離を縮め、拳を振るった。

 だが――


『——サンダーバリア!!』


 すばやく間に割って入ったメガネの男性が結界を展開する。

 殺さない程度に手加減をしたナナの拳は結界に阻まれてその動きを止めた。すると……

 ——バリバリバリ!!

 ナナの体に電撃が流れる。


「僕の魔法は電撃の結界を作り出す魔法! 触れた相手の体に電気を流し感電させる攻防一体の結界陣。しかも筋肉というのは電撃を浴びると収縮して動かなくなる。キミはもう動けずに感電死するしかない」


 バチバチと電気が弾ける音が響く中、ナナは引くのではなく、むしろ拳に力を入れて押し始めた!

 ——ピシッ!

 メガネの男の電撃結界にヒビが入る。


「ば、ばかな! 何が起こっている!?」


 困惑するメガネの男性だが、ここでさらなる追撃がナナを襲った。

 ナナの頭の中で警鐘が鳴り響き、何かが襲い掛かってくる感覚で背中に寒気が走る。

 ナナが思い切りジャンプすると、目に見えない謎の鋭い一撃が足の下を通過するのがわかった。


「なぜ動ける!? 感電していないのか!?」


 メガネの男は驚愕する。


「悪いけど、私には電撃は効かない。修行している時に散々浴びせられて強引に耐性をつけられたもの。ついでに言うなら毒も呪詛も効かない」


 そして空中に跳び上がったナナは、結界の天辺を思い切り踏みつける!

 ガシャン! と、電気の結界はガラスが割れるように粉々となった。

 ナナはそのまま落下しながら、メガネ男性の脳天に一撃を叩きこむ!

 脳震盪を起こした男性は、グラリと揺れて倒れそうになった。


「はい二人目。そしてこれで、三人目!」


 もはや気絶して倒れそうになるメガネの男性の腕を掴み、ナナはグルグルと振り回した。手を放すと男性は物凄い勢いで吹き飛んでいき、突然何かにぶつかった。


「ぐはっ!」


 そこに一人のスキンヘッドの男性が現れ、メガネの男性と一緒に吹き飛んでいった。


「彼が姿を消してヴェインを攻撃した犯人ね。使ったのは恐らく気功術。練度の高い気功術と目に見えない魔法を使って不意打ちに特化させたって訳ね。咎人全員の姿を消すのではなく、二人だけ姿を消すというのはいい作戦だったわ。それによって私の意識を姿の見える咎人に釘付けにしたかったんでしょうけど、はっきり言ってまだまだ未熟。姿を消しても気配を消しきれていないからどこにいるのかがバレバレなのよ。……あなたもね!」


 フッっとナナの姿が消え、十メートルほど右方向に肘鉄を打ち付けていた。


「ガハッ……」


 するとそこに、白髪交じりの初老の男性が現れる。ナナの肘鉄を腹に受けて、驚愕した表情で震えていた。


「これで四人目。この人が姿を消す魔法を使用していたのかしら? 衝撃を受けると解けるみたいね」


 どさりと倒れ込む初老の男性に見向きもせず、ナナは残った咎人を睨みつける。


「さぁ、次は誰の番かしら?」


 一歩、ゆっくりとその足を前に踏み出す。


「くっ! 奥の手を使う! やれ!!」


 仮面の男性がそう叫んだ。

 すると、体中に札を張り付けている男が魔法を解き放つ。


「これで終わりだ……沈め!」


 ——ズズズズズズ……

 空気が震える。

 何か圧迫感のある、低く、耳の奥に響くような異音が鳴り響いた。

 ユリスが周りを見渡すと、灰色の空間の灰色の空に、とんでもないものを見てどんどんと青ざめていく。


「ナナちゃん……う、上です……」


 震える声でそう伝える。もちろんナナも気付いていた。

 頭上から、超巨大な壁が落ちてきていたのだ。

 見渡す限り途切れることなく、空一面に広がる広範囲の壁。それはとてつもなく圧巻だ。

 しかしそれはよく見れば『水』である事がわかる。透明で、灰色の世界を映す水である。まさに世界を水で埋もれさせるほど大量の水が、頭上から落ちてきていた。


「ククク、海の水と同じ量を頭上から落とした。これが俺の魔法と、大量の札を使って効果を最大限まで押し上げた奥の手だ! 泳げるかどうかの問題ではない。ぶつかった瞬間に水圧で押しつぶされるがいい!」


 全身を札に覆われた男が不敵に笑う。

 正に奥の手と呼べるだけの事だった。耳鳴りがするほど大気が振動して、上から迫り来る水の壁はそれだけ恐怖と焦燥感を掻き立てる。

 逃げ場などどこにもない。見果てぬ限り、遠い彼方まで水の壁の先が見えないのだから。

 超巨大な彗星が落ちてきたとしたら、こんな感じなのかもしれない……


「ねぇ、これだとアンタ達まで巻き込まれるんじゃないの?」


 ナナが上から目を離さずにそう聞いた。


「ふっ、もちろんそんなマヌケではない。俺達は水の加護を得るため、全く影響がないのさ」


 札に覆われた男がそう答えた。

 印を組んだ手をさらに組み変えると、男の体が淡く光り出す。周囲の者達も、倒れたまま気絶している者も、その場の咎人全員が加護を得ていた。


「なるほどね。ま、水が落ちてくるまでにアンタを倒して強制的に魔法を解除するのが正しい攻略法なんだろうけど――」


 ナナがそう言うと、そうはさせまいと札に覆われた男を庇うように他の咎人が前に立ち塞がる。


「――でもそんな野暮なことはしないわ。正面から打ち破ってあげる」


 そう言ってナナは手を伸ばし、何かを掴み取るように拳を握った。


「インストール! ヴァルキリー!!」


 すると握った拳から光り輝く剣が出現した。


「スレイプニル!!」


 さらにナナの両足にも気が纏っていく。それはさながら馬のひづめのようである。


「全身全霊、全力全開!」


 ナナが思いきり跳び上がった!

 空から落ちる水の壁目がけて、一直線に突っ込んでいく。

 空中で体に反動をつけてグルリと一回転させながら、体が真上に向いたタイミングでナナは咆哮した。


「やああああああああああっ!!」


 両手で握った煌々と輝く剣を一瞬で振り抜くと、水の壁に一筋の光が刻み込まれた。そして……


 ——ズバアアアアアアアン!!


 割れる。

 果てしなくどこまでも続く水の壁が、真っ二つになってナナを避けるように切り裂かれていた。

 まるでとてつもない強風に押しのけられるかの如く、水は物凄い音を立てて水しぶきを上げながら、左右に分かれて広がっていく。

 そのままナナは落下して地面に着地をすると、同時に左右からはまるで滝のように水が降り注ぐ。丁度ナナを中心として左右を滝に囲まれた、幅50メートルほどの真っすぐな道が出来上がっていた。


「さて、これでしばらくは時間が稼げるわね」


 唖然とする咎人に、そう淡々と言い放つ。

 足元には未だ水は流れ込んでいない。それだけ勢いよく切り裂かれたのだ。


「海と同じ量の水だぞ……化け物か……」


 仮面の男がそう絞り出す。

 その声はもはや震えていた。


「失礼ね。こんなのまだマシよ。ドラゴニアの鱗一枚切り裂く方がよっぽど難しいんじゃないかしら?」


 そう言って、ナナはゆっくりと歩き出す。札を纏った男を守るように並ぶ咎人達の周りを回るように動き、ナナの位置から札を纏った男が見えた所で立ち止まった。そして、その位置から思い切り左腕を振るう!

 瞬時に左腕に纏わせた気功術が放出され、囲った咎人の間をすり抜けて札を纏った男に襲いかかる!

 攻撃されたと気が付いたときにはすでに遅く、ナナの気功術は札の男の腹にめり込んだ。


「ぐはっ!?」


 鉄球が直撃したかのように体が宙に浮き、吹き飛ばされて地面へ転がる。すると水の加護でほのかに光っていた体は輝きを失い、さらには左右で滝のように降り注ぐ水もただの魔力に戻っていく。

 足元に流れつつある水も、魔力という光の粒子になって消えていった。


「これで五人目。えっと、あと能力を見てないのは誰だったかしら?」


 息一つきらしていないナナに、周りの咎人は引きつった表情を浮かべていた。


「つ、次だ! 俺達バフ、デバフ組で決める! あとお前は逃げる準備をしておけ!」


 仮面の男が指示を出す。

 それと同時に、顔の左側を髪で隠した男がナナに向かって手のひらを向けた。


「俺の魔法を喰らえぃ!! 『スモール!!』」


 顔の左側を隠した男が魔法を発動させる。するとナナの体が光り出した。

 何かを飛ばすわけでもなく、相手の体に直接作用させる魔法なのだろう。ナナも不思議そうに自分の両手を見つめていた。

 するとすぐに効果は表れた。ナナの体がどんどんと縮んで、小人のようなサイズになってしまった。


「物を収縮する魔法だ! これで戦闘能力は激減のはず!」

「へぇ~面白い。これで丁度いいハンデのような気もするけど、そこまでアンタ達に合わせてあげる気はないわね。ユリス、お願い」


 ナナがそう呼びかけると、ユリスはすぐに魔法を組み上げた。


「はい! ヒール!!」


 ユリスの回復魔法がナナを包む。するとナナの体は元の大きさに戻っていった。


「な、なにぃ!? お前、何をした!?」


 顔の左側を隠した男が驚愕する。


「私の回復魔法は全ての状態を元に戻します。ナナちゃんの縮んだからだを元の状態に回復させただけですよ」

「さすがユリス。頼りになるぅ♪」


 イエーイと、ナナとユリスは嬉しそうにハイタッチを決めていた。


「ならこれはどうだ! 『ビッグ!!』」


 今度は反対側である顔の右側を髪で隠した男が魔法を発動させた。

 対象となったその咎人は人間ではない。獣の姿をしていた。真っ黒な短い毛に覆われた、ゴリラのような風貌である。

 右側を隠した男が魔法をかけると、その獣はみるみるうちに巨大化していく。


「どうだ! 弟の収縮魔法なら元に戻せるだろうが、巨大化の魔法なら回復できまい。これで――」

「――ヒール!!」


 ユリスが獣に回復魔法をかけた。すると巨大化した獣は元の大きさに戻っていく。


「体が巨大化するという状態を回復させて元の大きさに戻しました」

「……」


 髪で顔を隠した兄弟が絶句する。

 すると仮面の男も魔法を発動させた。


「なめるなよ! 『ストレングス!』、『アンチグラビティ!』、『ハードボディ!』」


 すると獣は筋肉が膨れ上がる。

 巨大化とは別の、筋肉が増強して膨れ上がった肉体によって一回り大きくなっていた。


「ふはははは、こいつは俺の召喚獣だ。レベルの高い俺が呼んだ、レベルの高い召喚獣さ。さらに俺が強化魔法を重ねる事によってさらにレベルは高くなる。これでお前らも――」

「――ヒール!!」


 青白い光に包まれて、獣の召喚獣は元の体へと戻っていく。


「強化魔法をかけられたという体を回復させて、元の状態に戻しました」

「それ回復じゃねぇよおおおおお!!」


 仮面の男が全力で叫んでいた。すると……


「もういいだろう。こいつらはやばい。逃げるぞ!」


 ぶかぶかのローブを着た男がそう言った。最初にこの灰色の世界を作り出した結界の魔法を使う男である。


「あ、ああ、そうだな、脱出しよう。へへっ、じゃあな歪持ち、この世界で永遠に暮らすんだな!」


 仮面の男がそう言うと、ローブの男が魔法を発動させる。すると周囲の咎人全員が薄くなり消えていく。地面に横たわり気絶している咎人も同じだ。そうして、この灰色の世界にはナナとユリスだけが取り残された……


「ヒール!!」


 ユリスが灰色の世界の一部である足元に回復魔法をかけた。するとその部分が溶けるように消えていく。それは次第に広がって、ガラスが砕けるように世界全体が壊れていく。

 気付けば二人共、元の世界に戻っていた。

 二人の目の前には目を見開いて驚いている咎人がいて、周囲にはクランのメンバーが喜びに満ちた表情で出迎えてくれた。


「はああ!? なんでお前らは戻って来れるんだよ!!」


 深くローブを被った男が納得いかなそうにそう訊ねた。


「いやだから、結界に回復魔法をかけて、ただの魔力である状態まで回復させたからです。もしかして皆さん、回復魔法って初めて見るんですか?」

「だからそれ回復じゃねええええええ!!」


 悲痛な叫び声がこだまする。


「……お前達は逃げろ」


 カウボーイハットを被った男が筒を構えてそう言った。


「ここは俺が食い止める。お前達は逃げろ!」

「私から逃げられるとでも思っているの? 絶対に逃がさな――」


 ——ダァン!!


 言葉を遮って、目にも止まらぬ速さの弾丸がナナに迫る。しかし、ナナは額に直撃しそうなその弾丸を指で摘まんで動きを止めていた。


「その武器はもう何度も見たから慣れちゃった」

「……バカな、中の弾丸を俺の魔力で弾き出しす事で、音速のような速さで攻撃できる武器だぞ……」

「言っとくけど、そんな攻撃よりももっと早く動いて背後を取ってくる相手とか魔界じゃわんさかいるからね。別に遅いとは言わないけど、その程度じゃ何発撃っても私には当たらないわよ」


 ギリッと歯を噛みしめて、カウボーイハットの男性は連続で弾丸を撃ち込んだ。しかし、その全てをナナは指で摘まむ。中にはデコピンで弾丸の真下を叩き、軌道を逸らす芸当もやってのけた。


「お前ら、早く逃げろぉーー!!」


 カウボーイハットの男性が切に叫ぶと、他の咎人は慌てて逃げ出した。

 散らばるように散開して四方八方へと走り出した。


「逃がさないって言ったでしょ。インストール! ライカンスロープ!!」


 ナナが力を入れ替えて前のめりになる。

 再度カウボーイハットの男性が銃弾をナナに飛ばした。その弾丸がナナに届く前に――


――「転身!!」


 バチン!

 何かが弾けて、それと同時にナナの姿がフッと消える。

 ナナに飛ばした弾丸が一瞬でピタリと動きを止め、そのまま真下へ落下していく。


 ――ゴスン!


 一斉に各方向から鈍い音が響き渡った。


 ——カラン!


 そして動きが止まった弾丸が地面へ転がる。


 ——ドサリッ……


 ほぼ同時に、逃げようとしていた咎人が全員倒れ込んだ。

 時間と言う概念さえ超越したナナが、逃げようとする咎人を順番に攻撃して回ったのだ。

 逃げ惑う深くマントを羽織る男が、バンダナを巻いた男が、長髪の男が、顔を髪で隠した二人の兄弟が、仮面の男が、獣の召喚獣が、そして食い止めようとその場に残ったカウボーイハットの男性が、同時にその場へ倒れ込む。

 もはや、銃弾が地面へ落ちる前に勝負は終わっていたのだ……


 ——ズサァ……


 元の場所でナナが四つん這いのままブレーキをかけていた。

 その頭には獣の耳が生え、髪は白銀へと変わり、手足には文様が浮かび上がっている。スカートからスッと伸びる尻尾は左右に揺れていた。

 ライカンスロープの最大最強の奥の手、『転身』を行った姿である。

 自分の肉体をベースに、全く違う別の体へと変貌させるその奥義は、元の体に大きな負担をかけるために多用はできない。


「ふぅ……解除っと!」


 フッとナナの姿が元の体に戻っていく。

 クランメンバーはそんな様子を口を開けっぱなしで見つめていた。


「ナナちゃん、体は大丈夫ですか?」

「うん、この程度なら全く問題ないわね。ありがとユリス」


 周りには13人の咎人が倒れ伏し、ナナの背後には突然変異で巨大化したヴェインの死骸が横たわる。

 こうしてようやく、長いようで短かったナナのクラン参加という体験は終わりを告げる事となった。


 この後、咎人はユリスによって回復され、ナナの監視の元でヴェインのお墓を造らされていた。そうでもしないとナナの気が治まらなかったのだ。

 そしてクランメンバーと街へ帰る道中、ナナはずっと黙ったままだった。誰かが元気付けようと話しかければ笑って答えるが、会話が途切れるとすぐに俯いてしまう。さすがに自分の意思で手懐けようとした生き物を殺されたショックはすぐには拭いきれないのだろう。

 ナナはその日のうちに船に乗り、バルバラン大陸へと戻る事にした。クランメンバーは総出で見送り、この時ばかりはナナも手を振って別れを告げる。

 今回の旅は決して失ったものばかりではない。それだけは紛れもない事実であり、ナナもそれを理解している。ただ、今はまだ気持ちの整理がつかなかった……

 船が出航すると、ナナはデッキからボーっと景色を眺めていた。やはり、いつものような元気は無かった。


「あの……ナナちゃん、疲れてませんか?」


 ユリスが気を使って話しかける。


「別に平気……」


 海から視線を逸らさずに、ナナが素っ気なく答えた。

 ナナの覇気が全くない事を気に病んで、この時ユリスは一つの決断をした。


「決めました……今日だけは私がナナちゃんのペットになります!!」


 十秒ほど、無言の時間が流れる。

 この時ナナはツッコミを入れるだけの元気も気力も無かったため、どう捌いていいかわからなかったのだ。


「……ユリス、大丈夫?」

「大丈夫ですよ! 私だってペットの真似くらいできます! 任せて下さい!」

「大丈夫ってそういう意味じゃないわよ! 正気かって意味だから!」


 常軌を逸したユリスの言動にもはやツッコまずにはいられなくなっていた。


「ナナちゃんを慰められるのは私しかいません! 私ヒーラーですから! わんわん!」


 犬の真似をしながら、猫パンチを繰り出すユリスにどう反応していいのかわからないナナである。


「ヒーラーってそこまで体を張る職業なの……? そもそもユリスは友達だからペットとしてなんか見れないわよ……」

「わんわん! くぅ~んくぅ~ん」


 ユリスは構ってほしそうにナナにじゃれついていた。


「こ、こら……ダメだってば……そんな事したって無駄なんだから……」

「キャンキャン! すりすり……」


 甘えるようにナナに頬ずりをする。


「も~こいつめ~! わしゃわしゃわしゃ!!」

「きゅ~ん!?」


 犬を撫でまわす様にユリスの頭をこねくり回す。

 即落ちである……


「よ~しよしよし! 犬ユリス可愛い~♪」


 傍から見れば怪しい関係に見えるが、ひとまずナナは活気を取り戻したようだ。

 こうして、今回の騒動は幕を閉じるのであった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ