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幼女の異世界転移録  作者:
強者激突編
44/64

幼女はクランに参加する⑧

「隊長! 岩石地帯に入ります!」


 クラン一行は南下を続け、人が立ち寄らない岩石地帯へと入り込んだ。突然変異の巨大な魔物が入り込んだのを見たという情報があった場所である。

 ゴツゴツとした岩山だらけの場所を静かに進んでいく。昨日、大量に襲ってきた魔物を倒したせいか、これまでに一度も魔物と出くわす事はなかった。


「全員止まれ! 右方向に洞窟がある!」


 隊長が全体の歩みを止める。見ると、10メートルほどの高さのある広い洞窟があった。


「でけぇ穴だな……巨大な魔物のねぐらには丁度いいんじゃねぇか?」

「けどよ、中に入って大丈夫か? 視界は悪いし崩れでもしたら……」


 モヒーカーンとハリーが躊躇っていた。隊長でさえ躊躇っている。なぜならば、メンバーは松明のような物をなにも持ってきていないのだ。

 使えるのは火の魔法を使える魔法使いだけだが、率先して入ろうとする者はいない。


「ナナちゃん、気配でわかりませんか?」


 ユリスがそう訊ねる。


「ん~……今のところ感じないわね。結構深いのかな? とりあえず私に任せて」


 そう言ってナナが前に出た。

 大きな洞窟を前にして手のひらを前に突き出し、何かを掴むように拳を握る!


――「インストール! スライム!!」


 ドクン!

 ナナの体の中で何かが脈打つ。


「わぁ~! スライムの能力は初めて見ますね! 七盟友最後の種族だけに期待が高まります!」


 なぜかユリスが嬉しそうに目を輝かせていた。


「あのね、今まで使わなかったのはそれだけ使いどころが難しいからなの。別に出し惜しみしていた訳じゃないわ。しかもスライムって体の原型が無いから、自分で使おうとすると体が溶けてしまいそうで気持ち悪いのよね……」


 うんざりした表情でナナが人差し指を前に突き出した。その先端からジワリと水が滲みだし、ポタリと地面に落ちていく。

 ポタポタと人差し指から垂れる水は多くなり、その下には野球ボールほどの大きさとなった水の塊がうねうねと蠢いていた。


「私の体の水分で作ったスライムよ。これは私の意思で動かせるし、知覚を共有しているから周囲の様子もバッチリわかる」


 そう言ってナナは、近くに落ちていた棒っ切れを拾ってスライムの頭に突き刺した。


「誰か、この棒の先端に火を付けて。松明の代わりにするから」


 一人の魔法使いが呪文を唱え炎を生み出し、言われた通りに棒を燃やした。

 ナナが生んだスライムは棒を倒さないように地面を這って進んでいく。ボールがころころと転がるような速度で洞窟の奥へと消えていった。


「洞窟の中はナナに任せる! 我々は念のため周囲を警戒しつつ、ここで待機だ! ただし、洞窟の入り口正面に立つな! 何が飛び出してくるかわからないからな!!」


 隊長の指示のもと、クランメンバーは周囲に散開する。

 ナナも洞窟の入り口から右側の岩場に、ユリスと一緒になって腰を下ろした。

 今、ナナの意識は洞窟を進むスライムに集中している。頭に突き刺した棒きれが燃える乏しい光で照らされるのは、割と広い空間だ。

 特に何もなく一直線に続く深い洞穴。そんな中をスライムは進んでいく。

 魔物はいない。あるのは下に散らばる石ころばかりだ。

 不意にナナは、スライムを通じて風を感じた。洞窟の奥から外に吹き抜けるような風だ。だが、この洞窟はどこかの外へは繋がっていないと確信していた。なぜならば、どこか外に繋がっているのであれば、常に洞窟の中は風が吹き抜けているからだ。

 風によって松明の代わりにしている火が消えそうになり、周囲を照らす灯りが一瞬ぼやける。その時だった……


 ——ズウウウゥゥン!!


 地面が揺れた。

 洞窟の外にまで振動が伝わるほどの、大きな揺れ。


「なんだ!? 地震か!?」


 しかしナナが立ち上がって首を振る。


「違う。私のスライムが大きい生き物に踏みつぶされた。みんな戦闘準備して!」


 冒険者がすぐに武器を構え、洞窟の入り口を取り囲むように陣形を組む。

 すると、また地面が揺れた。

 ズウン、ズウンと、一定の感覚で地面が揺れる。


「これ、魔物が歩いてる振動かよ……」


 地面の揺れが、音が、次第に大きくなる。

 そしてついに、洞窟から巨大な影が姿を現した。

 その大きさは高さ10メートルの洞窟に頭が付きそうなほど大きく、真っ黒な鱗で覆われていた。言ってしまえば超巨大な黒トカゲである。ただ二足歩行で歩く姿はドラゴンを彷彿させる。ただその足は野太く、ガッチリとしていて寸胴のようであった。


「ギャオオオオオオオオオン!!」


 冒険者を視界に捉えた黒トカゲが大きく吠えた。その咆哮に、メンバーは皆すくみあがっていた。


「ねぇ、あれなんて言う種族なの?」


 思考まで止まりかけていた隊長に、平然とした顔のナナが問いかけた。

 そのおかげか、我に返った隊長が必死で声を絞り出す。


「あ、ああ、ヴェインという種族によく似ている。もちろんこんなに大きくはないが……」

「ふ~ん。ヴェインっていうんだ。ぶさカワイイわね。魔界で言う太ったドラゴニアみたい!」


 面白いものを見つけた子供のようにはしゃぐナナを見て、隊長は冷静さを取り戻していく。そして――


「全員、目標を囲め! 陣形を乱すな!!」


 そう呼びかける。

 恐怖で後ずさりをしていたメンバーは、覇気のある声に武器を構えて敵を睨みつけた。


「よぉし! 全員突撃ぃー!!」


 隊長が飛び出したのを合図に、取り囲んでいたメンバー全員が武器を振りかぶり突撃を開始した。だが次の瞬間。


「え……?」


 メンバーの足取りが重くなったかと思えば、次々と地面へと倒れ込んでいく。


「な、なんだ……こりゃ……」

「鎧が……軽装が重い……」


 ヴェインを取り囲んだ冒険者は、一人残らず地面へと這いつくばってしまった。

 体を持ち上げようとしても、着ているものが、小手が、武器が地面に張り付いて動かない。


「なんだこれは……磁力……? いや、違う……」


 隊長が必死にもがく。そして気が付いた。装備だけではなく、自分の手足すら重い事に。


「重力か!? まさかこいつ、重力を操って重くしている!?」


 隊長のサングラスさえ地面にめり込んでいくほどの重圧がかかっていた。

 そしてヴェインの、獲物を見る狂気の瞳と隊長の目が合った。

 ヴェインは一歩、その足を前に出した。大地を踏みしめると、その地面に伝わる振動と揺れが直に伝わってくる。


「自分にだけ重圧がかからないなんて……反則だろう……」


 だがそれは違った。一歩踏み出したその足は地にめり込み、その揺れも最初の比ではなかった。重力は等しく、ヴェインも含めてその場の全員にかかっていたのだ。

 ただその寸胴のように太い足で支え、その筋肉で動かしているのだ。


「ナナ! 動けるか!? お前なら……」


 必死になって、斜め後方で待機していたナナの方向へ顔を向けた!


「ぎにゃーー!? 重い重い! ユリスどいてぇ~!」

「あわわわ……ごめんなさい! でも体が重くてうまく動けません!」


 倒れる時に重なったのか、なぜかユリスがナナの上に覆いかぶさり二人でもがいていた……


 ——ズウウウゥゥン!


 また一歩、ヴェインが歩みを進める。真正面でへばり付いている隊長から視線を逸らさずに、唸り声を上げながら近付いていく。

 その恐怖から隊長の体は震え、顔からは血の気が引いていた。

 目の前まできたヴェインが足を上げる。そのまま踏み潰そうとして、寸胴のような足に体重をかけ落下させた。


――「インストール! ヘカトンケイル!!」


 ドスン! と、低い音が鳴り響く。

 もはやこれまでかと、ギュッと目を閉じていた隊長だが、自分の体になんのダメージも無い事に疑問を持ち、ゆっくりと目を開く。

 そこには信じられない光景が広がっていた。

 隊長の目の前で、ナナがヴェインの足を片手で支えていたのだ。


「隊長さん、下から私のスカートの中、覗かないでよね」


 軽く、そして涼しい声が聞こえてきた。

 だが彼はそれどころではない。今でも物凄い重圧で顔が地面に押し付けられているのだ。今、彼が見えているのは生まれたての小鹿のように細い足首だけだ。

 こんな細い足でなぜ支える事が出来るのか、全く理解できなかった。


「足元の地盤がしっかりとしててよかった。下手したら地面の中に埋もれちゃうかと思った」


 現にナナの足は、足首までは地面にめり込んでいるがそれ以上は沈みそうにない。

 そして、そんなしっかりと固定された足に力を込め、ナナが体に力を込めた。

 まず、踏みつぶそうとするヴェインの足の裏に五本の指をめり込ませる。ブシュ! っと、鮮血が飛び散るが、そんなものはまるで気にもしないでヴェインの体を振り回し始めた!

 まるでジャイアントスイングをかけるように、遠心力でヴェインの体が浮かび上がるほど回してから、ナナはその手を放した。すると、ヴェインを取り囲んでいた冒険者の頭上を飛び越えて遠くの岩山まで飛ばされていく。

 激突したヴェインはガラガラと崩れた岩山に埋もれていく。そんな様子を、周囲の倒れ込んでいる冒険者達は唖然とした表情で見つめていた。


「みんなにはちょっと荷が重そうだから、ここからは私がやるわね。いいでしょ隊長さん」

「あ、ああ……頼む……」


 そう返事をするしかなかった。

 そしてナナはトテトテとヴェインの所へ走りだす。その足音は軽快なリズムだ。いつの間にか、重力が元に戻っていた。


「隊長……頭を強打した奴がいます」

「隊長、武器と地面との間に指を挟まれました……」


 隊長の周りでは冒険者が身を起こし、次々と被害を報告する。


「落ち着け、すぐに回復させる! ユリス、重症の者から順に回復を頼む!」

「わかりました!」


 ユリスはすぐに行動を始める。そんな中で隊長は、ナナとヴェインの方向から目が離せなかった。


「うりゃ~~~~! いっくよ~~~!」


 ヴェインのところへ走り込むナナ。だが、崩れた岩に埋もれながらも、ヴェインが四つん這いでこちらを睨みつけているのに気が付いた。


「っ!?」


 その瞬間、ヴェインが勢いよく飛び出した!

 その強大な筋力で、ナナに向かって物凄いスピードで突っ込んで行く。

 そしてヴェインにとっては虫のように小さいナナを、その鉤爪かぎづめのような鋭い爪で地面を抉りながらすくい上げるように攻撃を仕掛ける。

 ナナは冷静に見極め、ヴェインの爪を受け止めた。しかし、アッパーカットのように振り上げる攻撃でナナの足は地面から離れ、空中に放り出されてしまった。


「うわわわわわっ!?」


 地面に足がつかなければ、いくら力が強くとも踏ん張りようがない。ナナはそのまま吹き飛ばされて、最初にヴェインが出てきた洞窟の隣の岩肌に激突した。

 今度はナナが、ガラガラと岩に埋もれていく。


「うわっ! 歪持ちがやられた!」

「ま、まじかよ!」


 冒険者が慌てふためく。だが、崩れた岩を押しのけてナナが這い出てきた。


「いててて……もう怒った。今度はこっちの番!」


 そう言って勢いよく駆け出していく。割と元気な様子に、再び冒険者達は唖然としていた。

 ナナが突っ込もうとすると、ヴェインが大きく跳躍した。ちょうどナナが通過する地点に落下して一気に踏みつぶそうしている。

 ヴェインが落下を始めたその瞬間、再び周囲の重力が増加した。


「残念、私には効かないわよ!」


 およそ十倍。それだけ重力に変化が生じたものの、逆にナナは加速していく。

 落下するその位置を一気に通り過ぎると、ヴェインは何もない地面へ着地した。


 ——ズドオオオオオオオオン!!


 まるで隕石が激突したかのような衝撃音と共に、周囲に砂埃が舞い上がる。

 重力が増加したにも関わらず、その舞い上がる煙は高く昇っていた。それだけの衝撃だったのだ。

 ナナは踵を返して、未だ治まらない砂煙の中へ突撃して行く。そしてその小さな体で体当たりをかました。


 ——ボグゥゥ!!


 ヴェインの背中に全力でぶつかると、まるで砲弾が直撃したかのような鈍い音と共にヴェインが吹き飛ばされた。

 自分自身にも降りかかる重力の中、その巨体は転がり、先ほどナナが激突した岩肌へ突っ込んで行く。

 崩れる岩が重力を加えて落下してくると、10キロ、20キロの重さの岩はその十倍となる。それらが頭から降り注ぐ事で、ついにヴェインは動かなくなった。

 周囲の重力場も消え、冒険者達は息を呑みながら様子を伺った。


「ナナちゃん、大丈夫ですか? 怪我してませんか?」


 両手を広げて駆け寄るナナに、ユリスが真っ先にそう聞いた。


「大丈夫だいじょーぶ! それよりもさ、私いいこと思いついちゃった!」

「なんですか?」

「この子、ウチで飼わない?」


 その場の冒険者全員が、ギョッとした表情でナナを見つめた。


「私、一度ペットを飼ってみたかったのよね~。この子、バルバラン大陸まで運べないかな?」

「ええ~っと……船に乗りますかね……?」


 もはやどう答えていいのかわからないユリスであった……


「ねぇ隊長さん、隊長さんはこの子を討伐したいんでしょ? 私がこの子を引き取れば解決じゃない?」

「むむ!? え~っと……んん!?」


 もはやどう答えていいのか分からない隊長であった。


「じゃあ後はこの子を従えればオーケーね!」


 もはや勝手に話を進めて行くナナであった。


「どう? 私の方が強い事がわかった? おとなしく私のペットになるのなら、殺さないであげる!」


 ぐったりと倒れているヴェインの目の前まで行き、ナナは説得を始めた。


「嫌だって言うならあなたをここで殺さなきゃいけないわ。でも私のペットになれば可愛がってあげる。名前ももう決めてあるのよ。ポチっていうの! ペットの名前はポチっていうのが定番なんだって! 前に聞いたことがあるもの!」


 ペラペラとヴェインに話しかけるナナに、周りの冒険者達は止めるタイミングを失っていた。

 当のヴェインでさえ諦めたかのようにおとなしく、ただナナの言葉に耳を傾けていた。


「じゃあ決まりね! 今日からあなたは私のペットよ! 名前はポチね!」


 どうやら勝手に決まったらしい。


「さてと、それじゃあ早速私達の住処に連れてってあげるわね。……そんな訳だから、私達もう帰っていいかしら?」

「え? あ、あぁ、わかった。後の報告は我々がやっておこう」


 隊長がそう答える。

 しかし、ナナは全く別の所を見つめていた。


「違う。隊長さんに言った訳じゃないわ。さっきから私達の周りでコソコソしてる奴等に言ってるのよ」


 ナナは睨みつけるように遠くを見つめていた。

 冒険者達はナナの視線を追ってみる。しかし、そこには岩場が連なるばかりで誰もいない。


「出てこないならこっちから行ってあげようか? 殺気を隠しきれてないから大体の場所もわかるのよ?」


 そう言って、一歩前に踏み出したその瞬間だった。

 ナナの頭の中で警鐘が鳴り響く。危険が迫ってきていると……回避しろと直感が告げていた。

 風を切る音だけが耳に入り、目に見えない何かが迫っていると確信したナナが大声で叫んだ!


「みんな伏せて!!」


 そしてユリスを抱きかかえて思い切り横へ跳ぶ。

 ナナの余裕のない叫び声に、冒険者達も身を屈ませていた。


 ——ドスン……


 嫌な音だけが耳に入ってきた。

 すぐさま身を起こしたナナの目に飛び込んで来たのは、血を吐き出すヴェインの姿だった。

 その体には大きな風穴が開いており、貫通していることがすぐにわかった。


「ユリス、回復してあげて!」


 周囲の気配を探りながらナナが叫ぶ。


「は、はい! ヒール!!」


 ユリスがすぐに回復魔法をかけるが、その表情は青ざめていった。

 ユリスの回復魔法は、使うと相手の体の状態がわかるようになっている。どこを損傷して、どこを修復するのかが頭の中に流れ込んでくるのだ。

 そんなユリスに送られくる情報は、心臓をごっそりと撃ち抜かれているという情報だった。


「ナナちゃん……ごめんなさい……もう……」


 回復魔法をかけ続けながら、ユリスが俯く。

 即死してもおかしくない状態のヴェインが、ゆっくりと瞳を閉じていくのをただただ見つめるナナは、その激情に身を焼かれそうになっていた。

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