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幼女の異世界転移録  作者:
強者激突編
41/64

幼女はクランに参加する➄

「チビッ子!? なんでここに!?」


 モヒカン男が驚愕しているが、ナナはあえて無視をする。すでに目の前には数体もの魔物が押し寄せているのだ。呑気に答えているヒマは無い。

 ナナは自分の中に宿る力を選ぶ。そんな時だった。

 ドクン! と、一つの遺伝子が大きく呼応した。

 ヴァルキリー。この遺伝子が、この状況下で激しく脈打っているのだ。


「なぁに? 使ってほしいの?」


 別に遺伝子が意思を持っているわけではない。体に刻まれた本能が、経験が、知識が、遺伝子レベルで訴えるのだ。自分を使えと。


「……いいよ。一緒にがんばろ、ヴァルキリー」


 手を伸ばし、その力を掴み取る。

 だがその時にはすでに、目の前に三体もの魔物が同時に襲い掛かっていた。


「チビッ子危ねぇ!!」


 モヒカン男が叫ぶ。だが――

 ズバッ!!

 一瞬にして三体の魔物は横から両断されていた。

 上半身と下半身に分かれ地面に転がる。そして、ナナの右手には光り輝く黄金の剣が握られていた。

 振り切った剣を、今度は逆方向へ薙ぎ払う。すると光る剣は刀身が伸び、前方から攻めてくる8体の魔物を両断した。


 ――11。


 ナナはそのまま剣を振り回し、敵へと斬り込んでいく。クランメンバーが必死に押し留め、今にも決壊しそうだった防衛線は崩れるどころか、逆にナナが斬り込む事でモリモリと押し返していた。


 ――23。30。38。


 右から薙ぎ払い7体の魔物を斬り伏せて、左から斬り払い9体の魔物を両断する。


 ――45。54。


 ピョンと、ナナの横薙ぎの攻撃を回避する魔物がいた。大きなウサギのような魔物は空中に跳び上がり、そのままナナに向かって襲い掛かる。だが……

 クイッと手首を回すだけで、ナナの持つ光の剣は軌道を変える。そしてあっという間に空中に跳んだ魔物をそのまま両断した。ヴァルキリーの気功術で作り出した剣は重さがない。体の小さなナナでも針を扱うかのように軽々と振り回せるのだ。


 ――55。


 真っ二つになったウサギの魔物はナナを避けるように地面へ落ちる。そんな魔物の死体をものともせずに、ナナはさらに魔物の群れに突撃しては剣を振るった。


 ――88。95。104。


 ヴァルキリーの気功術は練度が高く、その練り上げられた剣は鋭い切れ味を誇り、高い殺傷能力があると言われている。故に、ヴァルキリーは手加減が苦手とされていた。その凄まじい切れ味で全てを両断してしまうからである。

 魔界では攻撃力が高い種族に、巨人族であるヘカトンケイルがあげられるが、ヴァルキリーはそれに次いで上位の攻撃力を誇っている。


 ――144。152。161。


 そして何より、ヴァルキリーは誰かを守る事を生きがいとする珍しい種族である。自分が尽くすべき主人を選び、その者の剣となり、盾となり、その身を捧げるのだ。


 ――199。208。215。


 そのヴァルキリーの遺伝子が強く呼応していた。誰かを守るために戦うのであれば、自分を使えと。

 遠慮がいらないのであれば、本気で振るわせろと。

 

 ——264。272。281!


「そう言えば、思い出した……」


 すでにナナから離れた場所にて、ツンツン頭のハリーがそう呟いた。


「何がだ?」


 周りにほとんど魔物が居なくなった事で、モヒカン男も手を止めてハリーに近付いた。


「あいつ、剣美の代わりとして来たって言ってたろ? ちょうど一ヶ月くらい前にさ、剣美がいびつ持ち討伐任務に選ばれた事があってさ、誰もがその勝利を疑わなかったんだ。けどさ、その後に剣美は負けたって噂が広がって、何かの間違いだって思ってたんだけど、その剣美がみんなに言って回っていたらしいんだよ。『歪持ちは年端もいかない幼女だ』とか、『この世界にとって何の問題もないから討伐する必要は無い』とか。それに『とんでもない強さだから手を出すな』とも聞いた。俺はさ、剣美が情けをかけて戦わなかったと思い込んでいたんだが、あの噂が本当だとしたら……」


 モヒカン男がゴクリと息を呑んだ。


「おいおい……じゃあ何か? あいつが今、この世界を騒がせている賞金首の歪持ちで、レベルが5000あるってのも本当の話だってのか?」


 二人はナナが突撃して行った先を見つめる。

 ゴロゴロと転がる死体。血に染まった大地。そして今もなお、彼女の近くから血しぶきが飛び交うのが見えた。

 大量の魔物が移動する際に起こる砂煙は血を浴びて、赤黒い霧のようになっている。

 ここまで聞こえてくるのは体を両断された魔物の断末魔と、肉を切り裂きく気味の悪い音。そして魔物が地面に転がる重低音。

 魔物にとっては悪魔のような強さで襲ってくるナナの闘いを、その場の冒険者は言葉を無くして見つめていた。


「お前らぁ、何をボケっと見ているんだ!! 俺達の仕事はまだ終わってない!!」


 隊長が叫び、その場の全員がハッと我に返った。


「剣美の代理が押し返してくれたおかげで今は我々の優勢だ! だが、中央から突き進んで行くことでその両側に生き残りがいる! 我々は剣美の代理が討ち漏らした左右の敵を殲滅させる!! 最後まで気を抜くなぁ!!」


 隊長の動き出し、それに続いて続々と周りの冒険者が動き出す。

 かなりの極限状態だったために、簡単には気持ちが切れたりはしない。むしろナナの勢いに乗っかるように、高く叫びながら駆け出していく。

 勝利を目前としてテンションが上がりきった冒険者は、ごっそりと数の減った魔物にトドメを刺そうと我先にと立ち向かっていった。

 歪持ちだと疑っていたモヒカン頭とツンツン頭も、この時には魔物を討伐するのが先決だと頭の中を空っぽにして、魔物の動きだけに集中していた。

 と、その時。


 ——ズシン。ズシン。


 大きな地響きと共に巨大な影がナナの前に現れた。


「鬼ガメだー!! 鬼ガメが現れたぞー!!」


 ナナの後方で、討ち漏らしを狙っていた冒険者が声を上げる。

 巨大な亀の形をしたその魔物は、大きさが4メートルはあった。


「おーいチビッ子! そいつはヤベェ。硬さが半端ねぇんだ。一旦戻って――」


 ズバァーン!!


 ナナが光る剣を両手で構え、全力で振り下ろすと亀の魔物は真っ二つとなる。

 まさに一刀両断。そのゴツゴツとした巨大な甲羅を、まるで果物を二つに切り分けるかのようにあっさりと切り裂いていた。


「――戻って……対策を……その~……」


 言い終わる前に魔物が倒された事で、モヒカンの男は言葉に困っていた。

 すると、ナナはクルリと踵を返して戻ってきた。


「あれ? 本当に戻ってきたぞ? どうしたんだ?」


 まだ全ての魔物を倒しきってはいないはずだが、ナナが突然後退を始めた。


「お、おい……あいつ魔物を引きつれて戻ってくるぞ? ど、どうすんだよ!?」


 一部の冒険者はナナの行動で軽くパニックを起こしている。

 それでもナナは止まらない。モヒカン頭のそばまで走ってくると、慌てふためく彼の足元に光る剣を突き刺した!


「え……? お前、何をやって……」


 モヒカン頭はナナの行動の意味がわからず困惑していた。だが、ナナが突き刺した剣を持ち上げるようにして地面から取り出すと、その表情は一変した。

 なんとその剣には巨大なモグラのような魔物が突き刺さっていたのだ。


「地獄の案内役、ヘルモグラ!? 激レア魔物モンスターじゃねぇか!」

「これで300体っと!」


 光の剣を振り回し、ナナは強引に魔物から剣を引き抜いた。

 そして再び走り出そうとしているナナに、モヒカン頭は慌てて呼び止める。


「ちょ、ちょっと待て! お前、どうやってコイツの位置を特定したんだ!?」

「どうやってって……普通に地面から音はするし振動もするし、モロバレじゃない。私の住んでる所だと、もっと静かに近寄ってくるミミズみたいな魔物がいるわよ。あなた達は気配が読めなさすぎ。強くなる前にもっと敵の気配を感じ取れるようにした方がいいわ」


 それだけを言い残し、ナナは再び残った魔物に向かって駆け出して行った。

 あとに残されたのは呆然と立ち尽くすモヒカン頭と、彼を心配して駆け寄るツンツン頭だった。


「おいモヒーカーン、大丈夫か!?」

「……なぁ、ハリー」

「あん?」


 気が抜けたような声で、モヒカン頭は静かに言った。


「確かバルバラン大陸に、レベル200くらいの化け物ミミズがいたよな。地面から人を襲うタイプの……」

「あぁ、ある意味、あの大陸だとその魔物が一番怖いんだよな」


 モヒカン頭は、視線でナナを追ったまま続けた。


「歪持ちがいるのも、確かバルバラン大陸だったよな?」

「そうらしいな」

「……あぁ、俺は確信したぜ。あいつが剣美でも勝てなかった歪持ちだ!」


 すでに大半の魔物が地面に転がるその場所で、ようやくそんな答えを見つける者が出るのであった。

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