幼女はクランに参加する④
「来たぞぉ!! 魔物の群れだぁー!! 後方支援組は射程に入ったらすぐに先制攻撃をしかけろぉー!!」
先頭に立つ隊長が声を張る。大きな声は部隊の士気を高めるが、それだけが理由ではない。大群による足音がけたたましく鳴り響き、声がかき消されそうだからだ。
砂煙を巻き上げながら進んでくる最前列の魔物は十体。しかし、その後ろにいる魔物は砂煙に隠れてすでに見えにくくなっていた。
「100体以上いるわね」
後方支援組の、そのさらに後ろで待機するナナがポツリと呟いた。
高台の上で待機していた後方支援組の冒険者が武器を掲げる。弓を引き矢を構え、魔法使いは杖を突き出す。しかし、みんなの手はガタガタと震えていた。
「やってやるーー!! 喰らえぇーー!!」
弓を構えていた一人の冒険者が大きく吠えて矢を放った! その矢は放物線を描き、先頭を走る魔物の頭に見事命中する。
それを引き金に、一斉攻撃が始まった。高台から魔法と弓矢の攻撃が降り注ぎ、最前列の魔物は地面に転がる。しかし、その後ろの砂埃からはまた新たな十体の魔物が顔を出し、倒れた魔物なんて気にもしないで突撃をかけていた。
その進行は止まらない。けたたましい足音も、大群による大地の揺れも全く変わらなかった。
「次は俺達の番だぁーー!! いいかお前ら! 俺達はここの大陸で魔物退治を幾度となく繰り返し、ギルドランクを上げてきた! ここにいる魔物の特徴なんて嫌と言うほど頭にしみ込んでいる! この程度の数なんてクソみてぇなもんだ! 行くぞぉーー!! 俺に続けええぇー!!」
隊長が槍を振り上げ走り出し、その後を追うように残り12名の前衛組が突撃を始めた。
戦士の咆哮が高く響き、魔物の爪や角と激しくぶつかり合う衝撃音がこだまする。
今まさに、冒険者と魔物の大きな闘いが幕を開けたのだった。
「み、みなさん大丈夫ですよね?」
ユリスが両手を握りしめながらそう言った。
「ん……結構頑張ってるわね。魔物の群れを流れるように討伐してる」
そうナナが答えた。
「あのモヒーカーンとか言うモヒカン頭、武器はモーニングスター。自分の武器のリーチを活かしてしっかりと距離を見極めながら戦ってるわ。レベルは150くらいかしら。ツンツン頭のハリーだっけ? 彼もなかなかやるわね。得物の剣はリーチが短いけど、それ以上に思い切りが良い。大胆に踏み込んで魔物の弱点を的確につき、仕留めた瞬間に次の魔物へとターゲットを移してる。レベルは180くらいかな」
やる事がないナナは前衛の解説を始めていた。
「あのブータンっていう盾役の人もすごいわね。巨大な盾で魔物を足止めして、その間に別の冒険者が攻撃をするその作戦はシンプルながらに効果は大きい。そして何よりもあの隊長がこの戦いを支えている。驚くべき点は冷静な判断力と視野の広さだわ。魔物が流れ込みそうな位置を的確に把握して、守りの薄い所へ自然に移動しながら敵を討ってる。押し寄せる魔物で崩れそうになってる味方を流れるようにサポートしているからこそ、この少ない人数でも持ちこたえている。得物の槍捌きも中々のものね。レベル200……いやもっと高いかな? 私達のメンツで言ったらリリと同じくらいの強さかしら?」
ナナの言う通り、魔物の大群が押し寄せる中、冒険者達は負けていなかった。後衛が遠距離攻撃で押し寄せる魔物を出来るだけ削り、前衛の隊長率いる冒険者が鬼気迫る勢いで魔物をなぎ倒していた。
「こ、この調子なら勝てるんじゃないですか!?」
ユリスが期待を胸にそう聞いた。
しかし――
「無理ね。魔物の数が多すぎる。一人当たり20体倒せば勝てそうだけど、それが難しそう……あのモヒカン頭は実力の半分くらいしか出せてないもの。モーニングスターは強力だけど、この乱戦ではかえって不利ね。周りに仲間がいるせいで振り回せないでいる。敵を数体薙ぎ払う事も出来ず、一体ずつぶつけて、手繰り寄せるを繰り返している。ハリーは思い切りが良いけど力が足りないわね。敵を切り伏せるのに全力で剣を振るっている。あれじゃあすぐにスタミナがなくなって動けなくなるわ。……確かここら辺の魔物って平均レベルが100くらいだったわよね? 今言ったギルドランク一級クラスの人は魔物20体くらい討伐できるかもしれないけど、他のギルドランク二級クラスは無理。このままだともうすぐ魔物の数に押し切られるわよ」
ナナの言う通りであった。
今はなんとか凌げているものの、魔物の勢いは留まる事を知らない。少しずつ後退しながら魔物の数を減らす前衛組だが、かなりギリギリの闘いで今にも飲み込まれそうであった。
「おい! お前らしゃべってないで少しは手伝え! 残ってる矢を全部持ってこい!」
イライラした様子で弓を射る冒険者がナナに言った。
相当焦っている事は一目瞭然であった。
「こっちは魔力が切れそうだ。魔法薬の準備を頼む!」
「俺もだ!」
魔法使いからも次々と要望が飛び交っていた。
荷物から予備の矢を取り出す時間も、魔法薬を一飲みする時間も、僅か一秒たりとも無駄には出来ない。そんな極限状態で混乱する冒険者も出る中で、ユリスは静かに口を開いた。
「……ナナちゃんなら、この状況を打開できますか?」
「まぁ……多分ね」
周りの冒険者が喚き散らす中で、二人は向き合い、静かに言葉を交わす。
「ナナちゃんは、ここのクランの人達が嫌いですか?」
「……別に。子供扱いされるのなんて慣れっこだし」
最初は思い通りにいかなくて躍起になっていた。けれど、今はそれほど怒りを感じてはいない。
「ナナちゃんは、死人が出ても平気ですか?」
「そんな訳ないじゃない。胸くそ悪くなるだけよ……」
魔界では弱者は死んでいった。けれど、だからと言って死体に慣れている訳ではない。
「ナナちゃんは、命令違反で隊長さんに怒られるのが怖いですか?」
「全然。部下の実力も把握できない人に何を言われても、ただ呆れるだけね」
怒られるくらいならクランを抜ければいい。そんな考えが頭の中をよぎっていた。
「ならナナちゃん、私のお願いを聞いて下さい。私はここの人達を助けたい! 誰も死んでほしくない! だから……みんなの助太刀に行ってください!」
「了~解、ご主人様♪」
なんとなく、その言葉を待っていた。
どこか、ユリスがそう言ってくれると信じていた。
だから……ナナは思い切り地面を踏みしめる!
「おいお前ら! いつまでしゃべって――」
ギュン!!
振り返る冒険者の横をナナが駆け抜ける!
とてつもなく速く、音速を超えるスピードで過ぎたその場所には突風が巻き起こり、冒険者は言葉を失っていた。
ダン!
ナナが高台から跳んだ!
冒険者が放つ矢のような放物線は描かない。まるで弾丸のように、一直線に狙いを定めた魔物に向かって跳んで行く。そこは正に、モヒカン頭の冒険者が魔物に襲われているところであった。
「しまっ――」
モヒカン男の動きが止まる。流れ込む魔物の数に押し切られ、一気に距離を詰められたのだ。今まさに牙を剥く牛のような魔物を前に、どうすべきか頭の回転が追いつかない状況だった。だが。
――ボグゥ!!
弾丸のように飛んできたナナが、その魔物に蹴りを入れていた。
斜め30度の角度からぶつかった魔物は地面に叩きつけられるように転がりながら、周囲の魔物を巻き込んで転がっていく。
ナナは空中でクルリと一回転をしながらその場に着地を決め、ついに前衛に降り立つのだった。




