幼女は頭を悩ませる②
それから数十分後。食材集めの各担当が帰ってきて、すぐに料理に取り掛かる。リリアラが炎の魔法で火を起こせば、あとはユリスが料理をするといった流れだ。もちろん子供達も手伝ったりするわけだが、そんな中でナナはボーっとリリアラの事を考えていた。
「ナナお姉ちゃん……」
ナナはビクリ反応する。リリアラの事を考えていたところに本人から声をかけられ驚いていた。
「ちょっと話があるの……」
元気のない口調でそう言うリリアラの後をついて行き、二人は人気のない場所まで移動した。
「えっと、どうしたのリリ」
「……あのね、はっきりと言ってほしいの。ナナお姉ちゃんは、私のこと邪魔?」
そのセリフにナナは息苦しさを感じた。
胸が締め付けられるような痛みが広がり、どうしてリリがそんな悲しい事を言うのかが分からなかった。
「邪魔だなんて……そんな事あるわけないじゃない」
「嘘!! だってナナお姉ちゃんから、もうポカポカした感情を感じないの!! 私の事、嫌いになったんでしょ!?」
リリアラが悲痛に叫ぶ。
ナナが必死に感情を押し殺しているその行為が、リリアラから見れば酷く嫌われたという結果につながったのだ。
「そ、それは……そうじゃなくて……」
「私知ってるの。ナナお姉ちゃんはユリスお姉ちゃんの事が好きなの。だから私がその間に入るのが邪魔になるの!!」
「へ!?」
全く予想しなかった答えが返ってきた事に、ナナの口から変な声が漏れた。
「あ、あの……ちょっと何を言ってるのか……」
「とぼけなくていいの! 全部わかってるから! 私、もう二人の邪魔したりしないから。さよなら!!」
そう言ってリリアラは涙を散らして走り出す。
「ちょ、ちょっと待って! リリは何か勘違いしてるわ!!」
慌ててナナはリリアラの後を追う。
「ついてこないで!! 私がいなくなれば全てが解決するの!」
「いやいやいや、あまりの急展開にもはや置いてけぼりにされそうだわ!!」
すれ違う想い。
渦巻く誤解。
そして、複雑に絡み合う三角関係!!
二人はなんとも、痴情のもつれとも言えなくもない微妙な愛憎劇を繰り広げていた。
そこへ……
「ナナちゃんどこですか~。ご飯が出来ましたよ~、って、わぷっ!?」
小屋の周りをグルグルと回っている最中に、二人を呼びに来たユリスとリリアラがぶつかってしまった。
「一体どうしたんですか……って、リリちゃん泣いてます!? も~ナナちゃんったら、リリちゃんの事をイジメちゃダメじゃないですか~」
「イジメてないわよ!! 私はただ……」
もうどう収集をつけていいのかわからなくなってきたナナは、一思いに本音を明かす事にした。
「その……リリとユリスがケンカしてるようだったから仲直りしてほしかっただけよ!!」
ユリスが言葉を失い、その目をまん丸くしていた。
同じようにリリアラも、その口をポカンと開けっ放しにして小首を傾げていた。
「えっと……別に私、ユリスお姉ちゃんとケンカなんてしてないよ?」
「え? あれ?」
今度はナナが首を傾げる。
「その……ナナちゃんはどうして私とリリちゃんがケンカをしてるって思ったんですか?」
「だ、だって……昨日のカミナリで怖がってたリリが、眠れないって私の部屋にきたんだもん。普通はユリスの部屋に行くでしょ?」
意味が分からないという風に、再びリリアラとユリスが首を傾げた。
「普通はそうでしょ? だってユリスの方が優しいし、甘えたくなるし、一緒に寝るなら私よりもユリスでしょ? 私なんて戦うしか能がないのよ? そんな私の部屋に来るって事は、ユリスとケンカをしているっ事で――」
「――ナナお姉ちゃんが好きだからだよ!!」
ナナの言葉を遮ってリリアラが叫んだ。
そんなリリアラの真剣な表情に、ナナは言葉を失っていた。
「なんでわからないの!? ナナお姉ちゃんのそばが良かったの! もちろんユリスお姉ちゃんも好きだよ? けど私はナナお姉ちゃんと一緒が良かったの!! ナナお姉ちゃんの方が良かったの!! あ~もう、なんかバカバカしくなってきたの!!」
「はぁ~……ナナちゃんってそういうとこニブいですよね……」
もう行こ! っと、リリアラは手を引いてユリスと一緒に歩き出す。
そんな二人にナナは慌ててついて行った。
「あ、あの、なんか私勘違いしてたみたいね。あはは、とんだ早とちりってね~」
笑って誤魔化すナナに、リリアラは頬っぺたを膨らませたままだ。
「おまけに私がカミナリで一人で眠れなかった事までユリスお姉ちゃんにバラして……もうナナお姉ちゃんなんて知らないから!! ふ~んだ!!」
「ご、ごめんね? いや~私もそんな風に想われてたなんて知らなかったもんだから……」
謝ってはいるものの、ナナの表情はニヤけたままだ。リリアラにそこまで好かれているとは思っていなかっただけに、それほどまでの好意が素直に嬉しかったのだ。
「も~! なにヘラヘラしてるの!? 私はこんなに怒ってるのに!! もうナナお姉ちゃんなんて大嫌いなんだから!!」
「あああああごめんなさいごめんなさい! 本当に許して。私リリに嫌われたら立ち直れないわ。本当よ? 今ならもう分かるでしょ?」
ナナはすでに押し殺していた感情を元に戻していた。
すなわち、リリアラを愛おしいと感じる気持ちも、怒らせてしまった事に対する戸惑いも、全部ダダ洩れである。
「ん……ポカポカする」
「ね? 私もリリのこと大好きよ。なんでも言う事聞いてあげる。だから許してぇ」
立ち止まり、難しい顔で考え込むリリアラだが、ボソッと小さな声で一つの条件を出した。
「じゃあ、今日はずっとナナお姉ちゃんの背中にくっついたままで過ごすの」
「オーケー! お安い御用よ、どんとこい!」
シャカシャカとナナの背中によじ登るリリアラを、落とさないようにしっかりと固定する。
「あら~。そうやってナナちゃんから引っ付いて離れない姿を見るのも久しぶりですね」
と、ユリスがクスクスと笑っていた。
「私、本当にナナお姉ちゃんに嫌われたと思ってすごぐ寂しかったんだから……」
「ん、ごめんね」
「……ナナお姉ちゃん大好きなの……」
「ん、私もよ」
ギュッとしがみ付くリリアラの体温を感じながら、ナナはユリスと一緒に食事に向かうのだった。
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「……なんか、リリがそうやってナナに引っ付いてんの久しぶりに見るなぁ」
食事の時も、その後の自由時間の時も、背中から離れないリリを見てフィーネがそう言った。
「これはナナお姉ちゃんに対する罰ゲームなの」
「なんだそりゃ?」
一体何があったのかと、怪訝そうな表情を浮かべるフィーネだった。
「まぁ、私がリリを怒らせちゃってね……」
そう答えるナナを見て、ユリスはただクスクスと笑っていた。
「そんな事よりも! 私はついに人の好意というものがわかるようになったわ! もう誰も私の事を鈍感だなんて言わせない! むしろ敏感な女として認識される事になるのよ!!」
背中にリリをくっつけたまま、ナナはドヤ顔で胸を張っていた。
するとフィーネがジト目のまま、確かめるべく問題を出題してきた。
「ほ~。そんじゃあさ、私って少し前まで頬っぺたに傷が残ってたじゃん? 紅月のおっさんとやり合った時にできた傷。あれはなんで回復させずに残したままだったか分かるか?」
「へ? カッコいいからじゃないの? フィーネってそういう本の中の主人公みたいなのに憧れているような所があるから」
違うの? と言いたげな表情でナナが答えると、フィーネはワナワナと震え出す。
「ちっげーよバカ! 私がどんな想いで戦ったと……あ~もう知らん!!」
「え? え?」
プンスカと怒ってその場を立ち去るフィーネに、ナナはただ戸惑うばかりだ。
「ナナちゃんってほんとニブいですよね……」
「フィーネお姉ちゃん可哀そう……」
「え? え? え?」
その後、ナナがフィーネの機嫌を直すのにおよそ二時間はかかったのであった……




