幼女は友を押し倒す
「じゃあ始めるわよ。ユリス、力を抜いて」
ドアをきっちりと閉めたナナの部屋から声が聞こえる。
「あの……服を着たままやるんですか?」
「ええ。汚さないようにやるから大丈夫よ」
そんなナナの部屋の前をフィーネが通りかかった。そして、部屋の中から聞こえる声に足を止める。
「あ、あの……優しくしてくださいね……?」
「怖気づいたの? ユリスからやろうって言いだしたのに?」
フィーネは耳を疑った。混乱する頭をなんとか落ち着かせようと一度深呼吸をしてからドアに耳を当てる。
「そうですけど……私、初めてで……」
「大丈夫、私に任せて。すごく気持ちよくしてあげるから」
中からはギシッとベッドの軋む音が聞こえてきた。
「あ、ああ! ナナちゃん、そんな所を舐めたらダメです!」
「けど、しっかりと濡らさないと痛いのよ? ほら、抵抗しないで」
フィーネは頭の中が再びパニックになっていた。
しかし仮に部屋に飛び込んだとして、もしも自分の勘違いだとしたらそれはとてつもなく恥ずかしい思いをする事になる。
「やぁ……声が……出ちゃ……ああっ!!」
「ふふっ、ユリス可愛い。ビクビクって体を震わせて、そんなに気持ちいいの?」
淫らな声を上げるユリスと、それを面白がるナナのやり取りに、フィーネは戸惑いと興奮を覚えていた。しかしそんな時……
「何してるの? フィーネお姉ちゃ――」
声を掛けてきたリリアラの口を瞬時に塞ぐ。バタバタともがくリリアラに、静かにするように人差し指を立ててジェスチャーで表現した。
「これくらいでいいかしら? じゃ、そろそろ行くわよ」
「はぁ……はぁ……はい、来てください……」
部屋の中から聞こえる怪しげな声に、いつしかリリアラも息を殺して聞き耳を立てていた。
「あ……ああっ! 入ってくる! ナナちゃんが入ってくるのが分かります! 何これ、凄い!! やああぁぁ……」
ひときわ大きな嬌声が響いた。
フィーネにとってはそこまでが我慢の限界であった。もう黙って聞いていられないと扉に手を当てる。
「だめ!! ナナちゃん、私もう……気持ちよすぎて力が入りません。いやぁ!? こんなの……おかしくなっちゃいます!! も、もうだめ、弾けちゃう!! きゃああああああああ」
もはや叫び声に等しいユリスの悲鳴を合図に、フィーネは一気に部屋の中へと突入した!
「だああああお前ら何やってんだ~~~!!」
勢いよく部屋へと入り、そのまま二人に掴みかかろうとした。
しかし、そこでフィーネが目にしたものとは……うつ伏せのユリスに覆いかぶさり、首筋に噛みついているナナの姿であった。それを目の当たりにしたフィーネはしばし硬直する。
そして、フィーネが突然入ってきた事にナナはユリスの首筋から八重歯を抜き、キョトンとした表情でフィーネを見つめていた。
「えっと……二人は今なにやってた……?」
「なにって……血を吸ってたんだけど?」
息を荒くしてぐったりとしているユリスをよそに、ナナは平然とそう答えていた。
「え~っと……舐めるとか濡らすとか聞こえたんだけど?」
「ええそうよ。だって血を吸うのにしっかりと舐めておかないと噛みついた時に痛いもの。ヴァンピールの唾液には麻酔の効果があるから」
フィーネが眉をピクピクと動かしながら複雑な表情を浮かべていた。
リリアラに至っては未だに顔を真っ赤にして部屋の外からコッソリと覗き込んでいる。
「ええ~っと……何で今日に限って血を吸ってたんだ?」
「それがね~、ユリスがどうしても血を吸ってくれって聞かなかったのよ。まぁ私も結構楽しかったからよかったんだけど」
プルプルとフィーネが小刻みに震え出す。そんなフィーネの心情なぞ全く理解せず、ナナは不思議そうに小首を傾げていた。
「紛らわしいんじゃああああああああ」
「ええ~~~~~~~!?」
いきなり怒り出したフィーネに、ナナはただただ戸惑うばかりであった……
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「それで、どうしてユリスお姉ちゃんはナナお姉ちゃんに血を吸ってほしかったの?」
ようやく落ち着いたであろうリリアラが、そんな質問を投げかけた。
「あ、はい。ナナちゃんって血を吸った相手の能力を自分に取り込める能力があるじゃないですか。それで、私の血を吸ったら私が使える回復魔法とかも全部使えるようになるのか実験をしていたんです」
ナナとユリスは顔を見合わせて、「ね~」っと全く同じタイミングで声を揃える。
「私、そもそもナナがヴァンピールっていう種族なの忘れてたわ……」
「それで? ナナお姉ちゃんはユリスお姉ちゃんの魔法を受け継ぐ事ができたの?」
フィーネは頭を抱えて影を落とし、リリアラは結果が気になるようで答えを急かしていた。
「残念ながら、ユリスの魔法を吸収する事は出来なかったわ。まぁ、こうなる事は大体わかってたけどね」
ナナが両手を広げて首を振る。するとリリアラはよりいっそう気になるといった様子で身を乗り出していた。
「ええ!? どうして無理だったの!?」
「えっとね、そもそも私が吸収できるのは遺伝子に深く刻まれた能力だけなのよ。例えば『ヘカトンケイル』。この巨人族は生まれた時から怪力をその体に宿しているし、『ドラゴニア』は、生まれた時から丈夫な鱗や尋常じゃない自然治癒能力を持っているわ。『ライカンスロープ』も、両親の遺伝子によって子供でも鋭い五感を有している。つまり私が吸収できるのはそういう種族からだけなの。『人間』って色んな技や魔法を使えるけど、それはあくまでも修行をして習得したものであって、そういう遺伝子レベル的にそこまで深く刻まれていない能力は引き出せないのよね」
ほほうっと、フィーネとリリアラが興味深そうに聞いている中で、ユリスは少しだけホッとしたような表情だった。
「でも、これで良かったのかもしれません。よ~く考えたら、ナナちゃんに回復魔法をコピーされると私の存在価値が無くなってしまいます。完全にいらない子ですよ私……」
それを聞いたナナは慌てた様子で口を開く。
「そ、そんな事ない! ユリスは私のそばにいてくれるだけでいいの!!」
「え? そうなんですか? 仮に何の役にも立たないとしても?」
「いいの!! だってユリスは私の……その……友達なんでしょ……?」
ポン! と、ナナの顔が真っ赤になった。それと同時に――
ポン! と、頭のてっぺんでお花が開いたかのように、ユリスの表情が満面の笑みへと変わる。
「もちろん友達ですよ!! ああ、ナナちゃんの方からそう言ってくれるなんて感激です!! もう一回! もう一回だけ言ってください!」
「やだ!! 恥ずかしいからもう言わない!!」
顔を背けるナナに抱き付いて、ユリスは耳元でボソボソと囁き始めた。
「私は、ナナちゃんのこと大好きですよ」
「っっ!?」
「ナナちゃんはどうですか? 私の事どう思ってるんですか?」
「ううぅ……」
抱き付いて離れないユリスから逃れようとするも、全く力が入っていないナナを面白がるようにユリスは耳元でささやき続けていた。
「血を吸ってる時はナナが責めるけど、普通の時はユリスが責めるんだな……」
そんな二人の様子を観察しながら、フィーネは呆れたようにそう結論付けていた。




