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幼女の異世界転移録  作者:
強者激突編
28/64

幼女は仲間に匿われる①

「うえ~ん、体中が痛いよぅ~……」


 ベッドの上でうつ伏せになっているナナが泣き言を喚いていた。

 ドルンの街で三鬼との闘いの後、ナナは全てをフィーネに託し倒れ込んでしまった。フィーネは地面に転がる三鬼を拘束して、領主であるガルドフに引き渡し、ナナを負ぶって拠点まで引き返して来た次第である。

 この拠点に帰ろうという行為はナナの意思であった。


「ったく……突然倒れたからビックリしたけど、ただの筋肉痛かよ……」


 フィーネが呆れ半分でそう言った。けれど、実際に一番取り乱していたのはフィーネであった。この拠点に転がり込んで来た時には、ナナが死んでしまうのではないかという勢いでユリスに助けを求めていた。


「ただの筋肉痛じゃないもん……すっごく痛いもん……」


 頬を膨らませながらナナがそう言った。

 ライカンスロープの遺伝子と、転身の使い過ぎによる力の反動。それによってナナの元の体には酷い筋肉痛、もとい、負荷が掛かっていた。

 これにはユリスの回復魔法も効果は薄く、故にナナは、現在自分のベッドの上で安静中である。


「全く……こんな状態で戻ってくるだなんて。わたくしに討伐してくれと言っているようなものですわよ?」


 剣美も呆れた様子でそう言った。ナナに頼まれて拠点を今まで守っていたのだ。


「うおっ!? そう言えば剣美はナナを倒しに来たんだった!! やらせねぇぞ!!」


 フィーネがナナを庇うように立ち塞がって拳を構える。


「はぁ~……もういいですわ。わたくしの任務は、『この世界を脅かす歪持ちの討伐』ですわ。ナナさんがこの世界を脅かす存在だとはとても思えません。だからこの任務は内容の不備によって破棄しますわ」

「ありがと剣美。あなたなら分かってくれるって信じてた」


 嬉しそうにお礼を言うナナを見ると、剣美の顔は赤くなっていった。


「か、勘違いしないでくださる!? もしもあなたが悪さを働きましたら、その時こそわたくしが討伐してさしあげますわ!!」

「ツンデレか!!」


 フィーネが全力でツッコんでいた。


「それにしても師匠はやっぱりすごいッス! 三鬼を二人も相手にして勝っちゃうなんてマジリスペクトッス! 師匠、相手のレベルって聞いたッスか?」


 トトラが興奮しながらそう訊ねた。

 トトラはレベルという概念にかなりご執心で、一体どこまで上がるものなのか、という疑問を永遠のテーマにしているらしい。そのせいでナナ本人よりも、ナナのレベルが気がかりのようであった。


「お兄さんの方にしか聞いてないけど、確かレベル1300って言ってたわね。多分弟さんも似たようなもんでしょ」

「マジッスか!? って事は、師匠のレベルはもはや3000超えは間違いなしッスね! 4000か……5000以上かもしれないッス! もうこの世界に師匠のレベルを計れるだけの相手はいないッスね」


 感慨深いようにトトラは一人で頷いている。しかしナナはそんなトトラに首を振るのであった。


「そんな事ないと思うけど……魔界じゃ私よりも強い奴は沢山いたし、この世界でもいると思うわよ?」


 そんなセリフに一番早く反応したのは意外にも剣美であった。


「ナナさんの世界には、そんなに強い者が沢山いましたの!?」

「ええ、いたわよ」

「えっと……ナナさんの世界にいる強い相手を、この世界のレベルに置き換えて教えてくれませんこと?」


 剣美の質問に、ナナは少しずつ考えをまとめながら話し始めた。


「えっとね、私が住んでいた魔界では強さにランクがあって、下位、中位、上位、最上位の四段階にわかれていたわ。下位はあまり戦うのが得意ではない種族ね。けど自分の身を守るだけの能力とかは備わっていたから……レベル1~100くらいかな?」

「下位ですらレベル100もありますの!?」


 剣美だけではなく、その場の全員が興味を示しながら話を聞いていた。

 魔界の住人は下位とはいえ全くの無力ではない。今となっては覇権を握っているナナの種族、ヴァンピールも、その昔は下位種族であった。その頃のヴァンピールは『強制言語フォールスワード』という魔法を使っており、言葉に力を持たせて聞く相手を自在に操ったりもしていた訳だが、これはまた別のお話である。

 因みにヴァンピールはコウモリのような羽で空を飛べるが、人間とのハーフであるナナは羽もなければ強制言語も使えなかったりする。


「中位はどれくらいかな……? このバルバラン大陸の魔物くらいかな? レベル100~300くらいだと思うわ。そんで上位だけど……これが幅広いのよねぇ……上位は湖を蒸発させたり山を消し飛ばしたりできるから……」


 ナナが唸りながら考える。けれど考えれば考えるほど幅がまとまらなくなってきて、適当でもいいかという思考になっていた。


「仮に私のレベルがトトラの言う5000だとしたら、上位はレベル300~5000だと思うわ」

「ちょっと待て!? ナナのランクは上位なのか!? 最上位じゃなくて!?」


 フィーネが信じられないという勢いで聞いてきた。

 他のみんなも意外そうな顔をしている。


「そうね。多分私は上位止まりだと思う。だって最上位種族って、みんな世界を消滅させるだけの力をもった連中だもの。ユリスに召喚された時、私って瀕死だったでしょ? あの時って最上位種族のハーデスに修行を見てもらっていたんだけど、強かったわね~」


 ナナがしみじみ思い出している中、みんなが唖然としていた。


「その最上位種族ってどんな能力を持っていますの?」


 と、剣美が聞いた。


「そうね……『死神ハーデス』は魔界の生命を根こそぎ奪う事が出来るって言ってたし、『海神リヴァイアサン』は、水を操って世界を洗い流す事さえ出来るらしいわ。『毒の化身ヨルムンガンド』も世界を毒で満たす事が出来るし、『魔王サタン』は時を止め、時空を歪め、世界を破壊するだけの魔法が使えたみたいね。『破壊神バルバロッサ』も同じで、破壊の能力で世界を崩壊させることが出来るっぽい。だから最上位のレベルは……1万くらい?」


 その場のトトラを除く全員が青ざめていた。もはやこの世界の住人なら、レベルが一万とか言われても実感が無いのかもしれない。


「あれ? って事はジェイドも上位なのかしら? あ、ジェイドっていうのは私の教育係、兼修行相手ね。あいつは近接戦闘が鬼のように強かったけど、世界を滅ぼせるかって言ったらそんな事は無いと思うから……レベル9000くらい? あ、私のお母さんは最上位種族をいくつか取り込んでいるから1万5000くらいかな?」


 もはや誰もがイメージすらできないレベルであった。

 その中でもトトラは目を輝かながらこんな質問をしていた。


「師匠の修行相手のジェイドさんってそんなに強いんスか? 師匠が転身を使っても勝てないんスか?」

「……そう言えば、私って修行中はインストール能力は禁止されていたから試したことはないわね。転身を使えばもしかしたら結構いい勝負ができるかもしれない!」

「どの道わたくし達にとっては雲の上のような話ですわ」


 そう言って剣美は立ち上がる。そしてそのまま部屋から出て行こうとした。


「剣美、帰るの?」

「ええ。そうしますわ。もう時間止めの犯人も捕まえたし、わたくしがここにいる理由はありませんもの。わたくしがメインで動いているアイントロフ大陸に戻って、歪持ちはこの世界にとって危険な存在ではない事をさりげなく広めてみますわ」

「そうしてくれると助かるわ。ありがと」


 ベッドでうつ伏せのまま、ナナは手をパタパタと振った。

 相変わらずナナにお礼を言われると剣美は顔を赤くする。そして少しつっけんどんな態度を取って部屋を出て行くのであった。

 そうして部屋にはベッドに寝そべるナナと、看病をするユリス。そんな二人の様子を見守るトトラ、リリアラ、フィーネだけが残っていた。


「うえ~ん、体中が痛いよぅ~……」


 もう何度目かになる嘆きをナナは口に出す。するとユリスが閃いたようにポンと手を打った。


「そうです! 回復魔法が効かないなら、痛み止めの薬草を使ってみましょう! もしかしたらそっちの方が効果があるかもしれません! トトラちゃん、痛み止めの薬草を買いにドルンの街まで行きたいので、護衛をお願いできますか?」

「もちろんッスよ!」


 では早速、と、立ち上がろうとしたユリスだったが、そんなユリスの袖をナナはギュッと握っていた。そして、すごく切なそうな表情でユリスを上目目線で見つめる。


「ユリスは行っちゃダメ。その……ずっと私のそばにいてほしいの……」


 そんな風に頬を染めながら少し甘えるような声でおねだりすれば、ユリスが否定できるはずなんてなかった。


「わ、わかりました!! そばにいます! 私がナナちゃんの看病を永遠にやりますから!! 全部私に任せて下さいうぇへへへへ」


 目を輝かせ、息を荒くして、妙な笑みを浮かべながら同じベッドに潜り込む。


「じゃあユリスは私に回復魔法をかけて。根本的には治らないけど、かけてもらっている間は楽なのよね~」

「わかりました! 魔力が枯れ果てるまで癒し続けますね!」

「……いや、枯れ果てちゃダメだろ。誰が怪我するかわかんねーんだから……」


 フィーネのツッコミさえもスルーして、ユリスは同じベッドの中、ナナを抱きしめるように抱えながら回復魔法をかけ始めた。


「ふあぁ~……ユリスの回復魔法気持ちいい~……眠くなってくるわ~……」


 ナナはユリスに甘えるようにして目を閉じて、ユリスはそんな状況に幸せそうであった。


「痛み止めの薬草なら私一人でも買ってこれるッスよ。ついでにユリスの魔力が枯渇しないように魔法薬も買ってくるッス」

「あ、お願いしますトトラちゃん」


 そうしてトトラは一人で部屋を出て行く。

 ユリスに回復魔法をかけてもらっていたナナは、いつしか寝息を立てていた。


「……なぁ、ナナはもう寝てんだから、そろそろ離れてもいいんじゃね?」


 二人が抱き合っている姿を見かねたフィーネがそう言った。


「え~? でもほら、ナナちゃんってば私の服を掴んで離さないんです。これは起きるまで一緒に寝てるしかないですね~えへへへへ」

「む~……だったら回復魔法はもうかけなくてもいいだろ。どうせ寝てんだし、本当に魔力が無くなっちまうぞ?」

「いやでも、止めたら痛みで起きちゃうかもしれないじゃないですか~? 可哀そうですよ~んふふふふふ」


 ナナと一緒に添い寝をしているユリスはどこまでも嬉しそうだった。


「ムニャムニャ……ユリス~……」

「あ、聞きましたか? 今寝言で私の名前を呼びましたよ!? キャ~もう感激です~!!」

「うるせ~!! そんな騒いでたら結局ナナが起きるだろうが!! いいからもう離れろ~!!」


 フィーネがユリスを引き剥がそうと引っ張り、ユリスは必死になって抵抗していた。

 そんなよくわからない争いを繰り返していた時だった。フィーネの袖をクイックイっと引っ張る者がいた。


「ん? どうしたリリ」


 フィーネの袖を引っ張っているのはリリアラであった。


「フィーネお姉ちゃん、ちょっと話があるの」

「むぅ……仕方ねーなぁ」


 リリアラを無視する訳にもいかず、フィーネはリリアラに引っ張られて部屋を出る。部屋の外には多くの子供達が群がっており、一斉に二人に押しかけて来た。


「フィー姉ちゃん、ナナ姉ちゃんの容態はどう?」


 この子供達はナナ達がドルンの街から連れてきた奴隷だ。男女合わせて総勢24名。最初は親の元へ帰りたいと言う子供もいたが、なんだかんだで全員がここで暮らす事となり、一週間経った今では少しずつ生活に慣れてきているようであった。

 やはり子供達の認識で、ここでのリーダーはナナである。ユリスはみんなのお母さんというポジションのようで、フィーネは教育係であり、姉とか、先生といった立ち位置であった。


「大丈夫、ナナお姉ちゃんは今寝ちゃってるの。すぐに元気になるよ」


 リリアラがそう答えて子供達の混乱を抑える。

 子供達から見てリリアラは、一番年齢が低い事もあってなんでも相談できるような、そんな気軽に頼れる存在であった。

 子供達を落ち着かせ、フィーネとリリアラはやっと二人で話し合える状況となる。


「で、話ってなんだ?」

「うん、フィーネお姉ちゃんがユリスお姉ちゃんの事を羨ましそうに見てたせいで中々言い出せなかったんだけど……」

「私そんな羨ましそうだったか!?」


 ある意味でフィーネに衝撃が走っていた。


「今ちょうど100メートルくらい遠くかな? 戦う意思を明確に持っている人間がこっちに向かっているの」

「なっ!? それってまさか、剣美みたいにナナを討伐しに来た人間か!?」


 リリアラはまじめな表情で頷く。フィーネにまたしても衝撃が走り、その場は一気に緊張感が高まっていた。

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