幼女は奴隷を解放する①
未だに一話を何文字にするか迷ってます。
キリがいいところで区切るので、今回は少し短いですが、その分すぐに更新するようにします。
「うわ~ん! ミオお姉ちゃん足が速すぎて見失っちゃうのぉ~」
凄まじい速さで森の茂みに消えていくミオを、リリアラとフィーネが追っていた。
「まずい! あいつ気配消すの上手過ぎるから、一度見えなくなるとマジで見つけらんなくなるぞ! リリ、死ぬ気で追え~」
「うわ~ん!」
今日は三人で鬼ごっこと、そこからの不意打ちをアリとした修行を行っていた。しかし、そんな様子を小屋の二階から眺めていたナナは口をあんぐりと開けていた。
「ねぇユリス、あの三人、何やってるの?」
「何って、いつも通りの修行じゃないですか」
当たり前の事を聞かれたユリスは首を傾げている。
「そうじゃないわよ! なんでミオがいるのかって聞いてんの! この前別れたよね!? なんかこう、感動的な感じで別々に暮らす事にしたわよね!?」
「でもナナちゃん言ったじゃなですか。いつでも戻ってきなさいって」
「うん言った。確かに言ったよ? けど戻ってくるの早すぎてビックリしたわ!!」
そう。ミオはフレイムウルフに着いて行った次の日には、みんなと一緒に修行をしていた。
「リリ、足で敵わないのなら頭を使うッス。相手の行動を先読みするんスよ。フィーネ、ミオを休ませちゃだめッス。常に動いてプレッシャーを与え続けるッス」
トトラがコーチとなって二人にアドバイスを送っていた。
「ミオちゃん言ってました。フレイムウルフの狩りを手伝って、みんなお腹がいっぱいになったらお昼寝を始めるので、その間は暇になるって。だからそういう時間を利用して修行に戻ってくるんだそうです」
「ま、うまくやってるならいいけどね」
二人がミオに翻弄されている様子を二階から眺める。だが驚くべきところはそこだけではない。いつも二人に追われて怯えながら逃げ回っていたミオだが、今日はなんだか生き生きとしていた。
どうやらナナの作戦は良い方向へと向かったらしい。帰る場所がフレイムウルフである事。故に自分の意思で人間へ近づいたり、離れたりできる事。そういった環境がミオの心を軽くしているのかもしれない。
こうして、ミオがフレイムウルフと共に暮らし始めて一週間が経過した。好きなタイミングでナナ達の所へ戻っては修行に参加するミオだが、確実にみんなとの距離は近くなっていった。
そしてこの生活を始めてから約一ヶ月が経過した頃、ついにフィーネが約束通り、レベル200を超える事に成功する。
この辺で一番強い魔物は『オメガザウルス』。体長5メートル以上の見た目が恐竜のような大きな魔物だ。この魔物のレベルは約220と言われ、この魔物とフィーネが一騎打ちをした結果、なんとかフィーネが勝利を収めたのであった。故に、フィーネのレベルは推定230と言う事になった。
そしてこの事からナナは、以前から企てていた計画を実行する事を決意する。
そう、奴隷解放作戦である!
「え~、ではこれより、奴隷解放作戦の作戦会議を始めるわ!」
二階にある一室。ミオを除く五人がテーブルを囲み、物々しい雰囲気の中で会議は始まった。この会議を取り仕切るのはもちろんナナである。
「では、ドルンの街から奴隷を解放するのに、いい考えがある人は手を挙げて!!」
シーン……
誰も手を挙げない。
「あのさ、ちょっといいか?」
フィーネが小さく手を挙げた。
「はいフィーネ!」
「もしかして作戦って全然決まってねーの? え? 私達が考えんの?」
「当たり前じゃない。だって私、法律とか全然わかんないもの」
「いやいやいや、私だってわかんねーよ!! 作戦を考えるとか絶対無理!」
ブンブンと両手を振って拒否するフィーネ。
ナナは仕方なく、リリアラをターゲットにした。
「リリはどうかしら? 何かいい作戦はない?」
「あるわけねーだろ! リリはこの中で一番子供だぞ!」
困惑しているリリアラに変わって、フィーネが答えていた。
「仕方ないわね。じゃあトトラ。全ての作戦はあなたに任せるわ」
全部トトラにぶん投げる事になった……
「ええ~!? んっと……師匠が街にいる奴隷を回収して、妨害してくる冒険者は全部薙ぎ払えばいいんじゃないッスか?」
「それはダメです!」
トトラの強引な作戦を否定したのはユリスであった。
「ナナちゃんは世界中から危険視されています。私はこの誤解を解きたいんです! だからこれ以上ナナちゃんに悪評がつくような行動はさせたくありません!」
「でも、そんな事を言ったら奴隷解放なんてできないッスよ……」
「でも私は奴隷も助けてあげたいんです!」
無茶苦茶だった……
そしてこの会議の難航である……
「ふふふ。どうやら皆様、お困りのようですね」
突然屋根裏部屋から声が聞こえた。カパッと入り口が開いたかと思えば、そこから顔を覗かせたのはミオであった。
「忍者かお前は!」
フィーネが驚きながらツッコミを入れる。
「おお!? 警戒レベルを下げているとはいえ、私やリリに気付かれずに屋根裏部屋に隠れていたなんてやるじゃない!」
「ありがとうございますナナ様。これも大自然で生きていく為に培われた能力です」
ナナに褒めらてドヤ顔を披露するミオであった。
「で? ミオには何かいい作戦でもあるの?」
「はい。フレイムウルフを使って街を混乱させるのはどうでしょう? 魔物が街へ侵入したとあれば人々は逃げ惑うはず。その混乱に乗じて奴隷を連れ去るのでございます!」
ドヤァ! 褒めて褒めて!
そう言わんばかりの表情であったと言えた。だが、
「ん~……けどあの街の冒険者って、レベル200超えている人もいるのよ? 確かフレイムウルフってレベル190くらいだったわよね? 殺されちゃうかもしれないけどいいの?」
「……え!?」
「それにミオってフレイムウルフの中でも新入りで序列が低いんじゃない? そんなお願い聞いてもらえるの?」
「あ~……」
パタン……
屋根裏部屋への戸をそっと閉じて、ミオは隠れてしまった。
「そろそろ拒絶反応が出てきましたので失礼させてもらいます。けど安心してください。話はここで聞いていますので」
「都合の良い体質になったなオイ!!」
フィーネのツッコミと共に会議は再び振り出しに戻っていた。
「ああ~! もう大人の意見が聞きたい! この中に大人っていないの!? っていうかみんな何歳なの!? 私11歳!」
ナナを筆頭に、それぞれの年齢を確認する事になった。結果――
ミオ、11歳。
トトラ、11歳。
フィーネ、10歳。
リリアラ、8歳。
そしてユリス、12歳。
「ふっふっふ。どうやらこの中で、私が一番の大人。もといお姉さんのようですね」
不敵な笑みを見てナナは瞬時に悟った。これはマズい……と。
「そうですか。私の作戦が聞きたいですか。いいでしょう。久しぶりに参謀としての作戦をお見せしましょう!」
――あ、これダメなパターンだ……
ナナからすれば嫌な予感しかしなかった。
「実は前から作戦を考えていたんです。けど、この作戦はちょっと危険なので使うべきか迷っていました。けど、他にいい作戦がないのであれば仕方がありません。この作戦で行きましょう! その名も、『謎の首謀者大作戦!!』」
ユリスの作戦名を聞いて、一同の反応はバラバラだった。
期待。
不安。
尊敬。
疑問。
興味。
様々な感情が混じり合う中で、その作戦の全貌が明らかとなった。