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幼女の異世界転移録  作者:
奴隷解放編
13/64

幼女は四獣と対決する②

「見事だ。だが白虎が敗れた以上、ここからは我々が一丸となり戦わせてもらうぞ。青龍、朱雀!」

「おうよ!」


 二人、背後に回り込もうとしている気配をナナは感じ取る。さて、目の前の大男か、背後の二人か、どちらを先に相手にしようかと考えている時に、自分の身に起きた違和感に気が付いた。


(え!? 足が動かない!?)


 ナナは自分の足元に目をやった。すると自分の足と大地が一体化するように張り付いているのが分かった。それだけではない、ビキビキと不気味な音をたてて、目の前の玄武が黒ずんでいく。墨を塗りたくられたかのように、全身が染まっていくのだ。そしてそれは彼だけに留まらない。その浸食は玄武の足元から地面にまで伸び、そしてナナの足にまで広がっていたのだ。黒く染まった大地と、それと一体化した自分の足を見てナナは気が付いた。


(これ、鉄だ。自分とその周りを鉄に変えてるんだわ)


 ナナが動けなくなったと事を確認して、後ろから青龍と朱雀が攻めてきた。


「さぁどうする? 動きたくば俺を倒すしかないぞ。しかしお前にできるか? 鋼鉄化した俺を倒す事が!!」


 全身鉄で覆われた玄武が心臓を守るように腕を組む。

 グズグズしてはいられない。背後からは二人が同時に攻めてくるのだ。ナナは瞬時に決断する。


――「インストール! ヘカトンケイル!!」


 拳を振りかぶる。

 強大な腕力を体に宿したナナが、玄武を睨み、狙いを定めた!


「余裕がないから本気でいくけど、死んだりしないでよ?」


 そう言って全身全霊の力を込めて、玄武の腹を殴りつけた!

 ベキベキベキ!

 表面の鉄が砕け散り、ナナの拳は玄武の腹へめり込んでいく。


「ぐはあああああぁぁ……」


 そのまま拳を振り切ると、地面と一体化した足元の鉄すらも砕け、玄武は吹き飛ばされて後方の岩山に激突した。

 鋼鉄化した背中からぶつかっていったせいだろう。岩山はガラガラと崩れ玄武は埋もれていった。


「玄武がやられた!? けどこの距離、もう避ける事はできねぇぞ!」


 真後ろにはすでに青龍が迫っていた。足元の鋼鉄化が解け、振り向いたナナは不思議な光景を見た。青龍の拳が光り輝き、竜のような形となっていたのだ。


「喰らえ俺の一撃必殺! 『ドラゴンストライクゥゥ!!』」


――「インストール! ヴァルキリー!!」


 ほとばしる閃光を纏わせた青龍の一撃。それをナナはしっかりと手のひらで受け止めた。が、青龍の拳に纏っていた光の粒子がナナの全身を突き抜ける。

 まるで光の波が襲い掛かるような光景に、青龍が勝ち誇ったようにほくそ笑んでいた。


「この程度なの? 大した事ないわね」


 しかし当のナナはまるでダメージを負っていない。そよ風に撫でられたかのように涼しい顔をしていた。


「な、なにいいいぃぃ!? この一撃は俺のオーラを纏わせた特殊な一撃。拳を止めたとしてもほとばしるオーラが全身を貫くガード不能技なんだ。怪力だからって止められるような技じゃねぇんだぞ!?」


 相変わらず説明口調で解説してくれる青龍に、ナナも拳を構えた。


「悪いけど、気を操れるのはあなただけじゃないのよ。私もそのすべを持っている!」


 そう言って、青龍に向かって拳を振るった。

 ナナの一撃は青龍の腹へヒットし、さらには同じような光り輝く粒子が青龍を包み込み、吹き飛ばしていく。


「ぐ、ぐわああああぁぁぁああ!!」


 断末魔のような叫び声をあげ、青龍は吹き飛ばされていった。

 ――ヴァルキリー。体内の気を自在に操る事が出来る種族で、練り上げた気で光の剣などを具現化させることも可能。針のように伸ばして使う事もできる上に、鋭く研ぎ澄ませればフィーネの枷を切り裂いた時のように鉄さえも切断させるほど鋭利にもできる。そのため、ヴァルキリーは極めて手加減が苦手とされている。

 青龍の一撃は体内の気を全身にまとわせて、鎧のようにして防ぎ切ったのである。


「そこまでだよ、お嬢さん!」


 朱雀が指で印を組み、力を込める。すると朱雀を中心に淡い光が広がっていき、ドーム状の結界が朱雀もろともナナを閉じ込めた。

 ナナは慌ててユリス達が籠る小屋を確認した。朱雀の結界はギリギリ小屋までは届いておらず、取り込まれてはいない。それにホッと胸をなで下ろすナナだが、結界の効果はすぐに出始めた。

 急激な温度の上昇。まさに結界内は灼熱地獄と化していた。

 さっさと朱雀を倒した方が身のためだと、一歩足を踏み出す。しかし、


「熱っつ!!」


 すでに周りの地面は溶岩のようにドロドロに溶けており、なぜかナナの足元だけが通常の地面となっていた。


「あっははは! 足を焼かれながら僕の元まで来るか、そこで丸焼きになるか選ぶがいい!」


 朱雀本人は汗一つかいていない。当然ではあるが、術者はこの結界の内部にいても平気なのだろう。

 ナナはユリスがこの結界にいない事に安心しきって、少しのんびりと攻略法を考えていた。だが……


「かはっ!?」


 突然体の中で焼けるような痛みが走り、右手で口を覆った。


「あ~っはっはっは! 呼吸したね? こんな灼熱の空間で呼吸したら肺が焼けただれるに決まってるだろう? さぁ、観念して降参したまえ。今ならまだ助かるかもしれないよ? けどあれれ? しゃべれないんだっけ? ぎゃははははは」


 最初に会った時のような爽やかな印象はどこへやら。苦しむ獲物を見て喜ぶような歪んだ感情をむき出しにしていた。


「……アンタには遠慮する必要はないみたいね……」


 未だ温度が上がり続けるこの空間で、ナナは朱雀を睨みつけて言い放つ。


「は~~? 遠慮? なに寝ぼけた事言ってんだよ。この状況で何ができる? できるんならやってみろよ! 遠慮する必要なんてない! やれるもんならなぁ!!」


 勝ち誇る朱雀に見せつけるように、ナナは大きく息を吸った!


――「インストール! ドラゴニア!!」


 ドクン! と、ナナの中で何かが覚醒する。

 そして一歩、前へ出る。真っ赤に染まった地面に足を付けても、ナナは平然としていた。


「な……なんだ!? 何が起きている!? 熱くないのか!?」


 うろたえる朱雀を憐みに満ちた目で見ながら、ナナはゆっくりと近付いていく。


「な、なぜだ!? 体の外も、中も、この熱さは人間じゃ耐えられないはずだ!! なのにどうして!?」


 ――ドラゴニア。魔界で最も守備力が高いとされる種族で、その鱗は物理だけでなく、各属性に対しても高い耐性を持っている。さらにドラゴニアは、戦闘時に竜化して戦うが、休む時や回復が必要な時は人化するという特性もある。人化すると体が小さくなるため細胞が活性化して、治癒力が上昇するのである。

 ナナがこの遺伝子を呼び起こすと、体に鱗が生える……訳ではないが、各属性に強い耐性を持ち、竜としての高い戦闘能力がプラスされ、さらに自然治癒力が大きく強化されるのである。これにより、焼けただれた肺も瞬時に回復していた。

 熱さをほとんど感じなくなった体でナナは朱雀に迫る。


「く、来るな!? 来るなああぁぁ!!」


 朱雀が自分で作り上げた結界の中を逃げ回る。

 ナナは熱で溶けた大地に思い切り足を踏みしめ、一気に加速した!

 ズサァ!!

 逃げ惑う朱雀の正面でブレーキをかけたナナが、その拳を固く握る。


「う、うわあああああああああああ!?」


 恐怖で泣き叫ぶ朱雀の顔面を、渾身の力で殴りつけた!!

 朱雀は空中で何回転も回りながら、自分で張った結界を突き抜けていく。そのまま地面へ落ちると惰性だせいで転がり続け、ようやく止まった頃には全身がボロボロになっていた。

 かくして攻めてきた四獣は全員が戦闘不能となり、この騒動は終結を迎えた。

「いいですか? ナナちゃんが回復してもいいって言ってくれたから、こうしてみなさん無事でいられるんですからね!」


 あのあとナナの許可を得て、ユリスは四獣の全員に回復魔法を施した。そして今はみんなを座らせてお説教タイムである。


「だからナナちゃんは至高の存在なんですよ! かわいいだけじゃなく、強さ、優しさ、愛らしさ、全てを兼ね揃えた奇跡の結晶なんです! 神と言っても過言ではありません!」


 否、お説教ではなく布教のようだ。

 それに対して四獣はうんざりした表情で聞いていた。回復してもらった手前、反論なんてできないのだろう。だがその中でも、白虎だけは大まじめな顔つきで頷いていた。


「よし、決めた! 私、歪持ちの弟子になる!」


 白虎の突然の発言に、他の四獣だけでなくユリスまでもが驚き固まっていた。


「ちょ……ちょっと待てー!? お前、四獣の仕事はどうすんだよ!? そもそも王様にはなんて報告すりゃいいんだ!?」


 青龍がツバを飛ばしながら叫び出した。


「問題ない。私、四獣辞めるから。王様にはてきとうに伝えておいて。大体私が四獣をやってたのって強い奴に会うためだったし、私が抜けてもすぐに補充できるでしょ」


 青龍も、他の二人も言葉を無くしていた。

 そして白虎はナナに頭を下げ始めた。


「頼む、私を弟子にしてくれ! いや、して下さいッス! 私はレベルがどこまで上がるものなのか知りたいんス! 師匠ならきっとすごいレベルを見せてくれそうな気がするッス!」

「誰が師匠よ……」


 言葉遣いを変え、勝手に師匠呼びされていた。


「強さを追い求めるのなら、私よりも強い相手が現れた場合、あなたは今みたいにすぐ尻尾を振るのかしら?」

「え……いや、それは……だ、大丈夫ッスよ! 私が知る限り、この世界にはもう師匠より強い相手はいないはずッス!」


 白虎が必死に取り繕おうとするのがバレバレだった。

 取りあえずナナは、白虎から情報を聞いてみようと考えた。


「じゃあ、私よりも強いか弱いかは別として、あなた的に強いと思う人ってこの世界にはどれだけいるの?」

「そうッスね……有名なのはやっぱり剣美けんびッスね。一応この世界で最強と言われてるッス。ギルドのランクで一級を持っている人は少ないッスけど、剣美はさらにその上、マスターランクと言う称号を貰ってるッス。確か数年前に師匠と同じ歪持ちの召喚獣が現れて、大混乱に陥った事があるッスよ。その時の事件を解決したのが剣美で、その時にマスターランクに昇格したらしいッスね。最近1000レベルに到達したって言う噂を耳にしたッス」

「「せ、1000レベル!?」」


 レベルが9しかないユリスと、最近強さにこだわりを見せているフィーネが度肝を抜いていた。


「まぁ四獣をまとめて相手にできる師匠の方が上のような気がするッスけどね。あと他に強い奴は……噂程度ッスけど、三鬼さんき陽炎かげろうっていうのもあるッスね。そもそも四獣って、武術大会で優勝した人が、現役の四獣への挑戦権を得て、指名した四獣と勝負するッスよ。それに勝つ事ができれば、その人が新しい四獣になれるってシステムなんスけど、これまでに四獣を倒したにも関わらず、黙って大会を去った人物が三人いるッス。その三人が伝説となって三鬼って呼ばれてるッスね。あくまでも噂ッスけど、大金を積まれて他の国のお偉いさんに引き取られたとか、そういう話もあるッスよ。武術大会は名誉のためだけに戦うのであって、優勝してもお金なんか出ないッスからね。勝ち上がってからガックリ来る人もいるみたいッス」

「なるほどね。じゃあ陽炎っていうのは?」

「陽炎の方がもっと信憑性が無いッスね。魔物が一番強いのはこの大陸ッスけど、たまに他の大陸でも突然変異で強い魔物が現れる事があるッスよ。で、近くの街のギルドが冒険者を集めて討伐隊を組むんスけど、いざ退治に出かけると、その魔物がすでに死んでいる事があるらしいんスよ。四獣でも冒険者でもない。名誉もお金も必要としない、未だ見ぬ凄腕の実力者がまだまだこの世界にはいるって一時期噂になったッス。まぁそれが三鬼による討伐かもしれないし、他の魔物の群れにやられただけかもしれないッスから、全然なんとも言えないんスけどね」


 そう言い終えて、白虎は期待の眼差しでナナを見つめる。

 これで自分を弟子に迎え入れて欲しいと言わんばかりのキラキラとした瞳だった。


「……はぁ、まぁいいわ。今は人手も足りないし、手伝ってくれるなら弟子にしてあげる」

「ほんとッスか!?」

「だけど絶っっっ対に揉め事は起こさない事! みんなと仲良くして、協力するの! わかった!?」

「もちろんッスよ~! やった~!!」


 白虎が飛び跳ねて喜んでいる。戦闘中の闘争心を剥き出しにしている時とは大違いで、今は八重歯を光らせながら飛び切りの笑顔を見せていた。


「それじゃあこれからよろしくね。白虎」


 ナナが軽く挨拶をする。


「あ、私もう四獣は辞めるんで、本名で呼んでほしいッス」

「あらそう? じゃああなた、なんて名前なの?」

「トトラッス!」


 ……あんまり変わらない……

 その場の全員がそう思っていた。

 こうして白虎、もといトトラを残して他の四獣は帰っていった。

 嵐のような騒動が過ぎ去り新たな仲間を迎えた一行は、心機一転して再び修行に励む日々を送る。もうこれで、しばらくは問題事なんかは起こらないだろう。じっくりと修行に打ち込めるだろう。誰もがそう思っていた。

 しかしこの時、すでに不穏な動きを見せる者がいた……


「おーいミオ、ちょっといいかー?」


 夕食を終え、各自が部屋へ戻った後の事だった。

 フィーネがミオの部屋にノックをしてから、中にいるミオに声をかけていた。


「え!? フィーネ様!? あ、あの……えっと……」

「ちょっと入るぞ」


 返事が返って来た事を合図に、フィーネはドアを開けた。ミオがたどたどしいのはいつもの事だし、特に何の問題もないと思っていた。

 ドアを開けると部屋の中は真っ暗だった。日が完全に落ちた時間帯、ランプに火を灯していないのだから当然と言えば当然である。


「あれ? なんだ、もう寝ようとしてたのか?」

「え? えぇ、まぁそうです。けど何か御用でしょうか?」


 暗い部屋の中、ミオの姿は良く見えない。けれど、部屋の中央に立っている事だけはわかった。


「いやさ、夜の修行に付き合ってもらおうかなって思ったんだけど、眠いならいいや」

「い、いえ、そういう事でしたらお付き合いします。少しだけ待っていてください」

「お、そうか? じゃあ外で待ってるよ」


 そう言ってフィーネはドアを閉めずに去っていく。

 ボタリ……

 ミオの足元に何かが垂れ落ちた。

 ミオが慌ててその液体を拭き取ろうと布で擦る。

 ヌチャ……

 しかしその布さえもすでにネットリと湿っていた。


「あぁ、もうこんなにしみこんでいたのですね……フィーネ様に会う前に、川で洗ってこないと……」


 予兆は確かにあった。けれど、それに気付く者は現時点で、誰もいないのであった。

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