5 ●幸せな時●
「じゃぁね。太陽」
「あぁ、じゃぁなー♪」
いつものように『コト』を終えて、それぞれの帰路に着いた。
それぞれのって言っても結構近くだけど・・・・
腕時計をちらっと見る。5時45分・・・もう帰ってっかなー・・・
通学鞄を脇に挟んで、走って家に向かった。
歩道を歩いているおばあちゃんや大学生ぐらいの男の人が走っている俺の方を物珍しそうに見ていた。
その視線を全部無視して、とにかく走った。
俺は走るのが好きだ。
走っている時だけは何もかも忘れていられる。嫌なことも嬉しかったことも楽しいことも・・・消え去ってほしいことも
ただ手と足を一定のテンポで動かしているだけで何もかも忘れられる。
そんな夢のような時間が走っている時だ。
そんな時が少しでもあるこの世も捨てたものではないんじゃないかと思う。
カンカンカンカン
家の少し前で、見慣れた踏み切りに差し掛かった。
電車が通るため黄色と黒のストライプの棒が俺の前に下りてきた。
そのため、ここに居る全員が同じ場所で静止する。止まってしまった。俺の手足は・・・これでいつも夢から覚める。つかの間の夢から
ふいに強い風が吹いてきて昔から馴染みのある電車が俺の前を通った。
この強い風が少し心地よかった。周りの人間は肌寒い上に強い風で不愉快そうだったが、これなら 寒い ということだけが頭を支配する。髪が顔に掛かったとか・・・そんなことを考えていられる。それだけで俺は心地良い。
寒さで怒れるということは、実は幸せなことなんだと思う。
棒が元の位置に戻り、一斉に全員が動き出す。
こんな光景を見ていると、棒1本で数人の人間を一斉に支配出来るんだなと思った。
もしかしたら、人間が1番簡単な生物なのかも知れない。
そんなことを考えながらまた走り出す。
目と鼻の先の家まで
案の定1,2分で着いた。
蜘蛛の巣の張っている木造2階建ての安アパート。ここが俺と日向の家。ここには俺達と管理人さん、大学生の力兄さん、OLでよくグチを聞かされる、美香子さんが住んでいる。住んでる人は少ないけど、すごく居心地の良い所だ。
みんな良い人だし、良くして貰っていると思う。
誰の部屋からか、シチューの良い臭いがしてきた。急にお腹が空いてきて、2階の部屋に駆け上がる。
205号室の見慣れた古ぼけた表札を見て、扉を開ける。
日向が帰ってきているのか、鍵のつっかえがなく自然と扉が開いた。
ゆっくりと扉を閉める。
「ただいまー!」
日向が帰ってきているのを確かめようと、普通より大きめの声を玄関から出す。
「おかえり。遅かったじゃん。」
日向が俺の声を聞きつけて、リビングと言うほど広くもしゃれた物でもないが、そこから顔を出した。
「心と公園行ってたから!」
あぁと言って顔を引っ込める日向。だが、すぐにまた日向の顔が見える。
廊下と言える廊下もなく、台所と5畳ほどの部屋があるだけだから当たり前だけど♪
長く住んでいると自然とここが好きになるから不思議だ。
「ご飯すぐ作るからねん♪日向ちゃん♪」
「兄貴キモい。飯なら美香子さんがシチュー一緒に食べようって言ってたけど?」
あのシチューの匂いは美香子さんとこだったか!
ラッキー一食浮いた♪今日の晩御飯に心を躍らせていた時。ふいにさっきのシチューの匂いがしてきた。
「美香子さん来たんじゃねぇ?」
「だな♪ラッキーラッキー」
そんな俺を見ながら、苦笑している日向。
やっぱりどんな時間よりも幸せを感じる時間はこんな瞬間だとあらためて思った。
おひさしでーす^^
更新さぼりまんですんませぇーん!!
受験終わったんで、がっちゃぴーんって感じにがんばしょーですよ!!
とにかくまたまたよろしくです^^