2 ◆好奇心◆
「ふっざけんじゃねぇよ!!」
「まったくだ!IQ200だか、なんだか知らねぇが・・・調子乗ってんじゃねぇよ!!」
五月蠅い。雑音にしか聞こえない。
本当にこの汚いのは、人間なのか?
転校してきて、1週間・・・これと言った感想はないし、新鮮さもない。
この学校『津上大付属高等学校』の特別学能力クラスにもこんな人間はいるんだな。むしろそれが新鮮に感じる。
この学校は、レベルが高いと聞いていたのだがな・・・・間違いだったか
害虫が延々と何かをほざいているが、そんなもの相手にするほど馬鹿ではない。
というより、そんなことはどうでもいい。
耳がそいつらを拒絶しているかのように、まったくそいつらの声は入ってこない。
だから俺は、昨日見つけた面白そうなイギリスの遺跡の本に自然に集中する。
窓から入ってくる風が少し肌寒い。
今は10月その上窓際の席、当然と言えば当然だ。
その風で、本のページが俺の意思と関係なく、捲れそうになるのを左手で阻止する。
「おい!お前らがいい加減にしろよ!!」
悪意の篭っていない、先ほどの奴とはまったく別物の声に俺の体は少し反応した。これは、人間の条件反射だろう。
反射と言うやつだ。
こいつ・・・・確か沢篠太陽と言う名だっただろう。脳を回転させ、記憶を転校した日に合わせる。1秒かからずに思い出す。
こいつの言葉から察するに、こいつら2人、岩伊廉太郎と木釜一縷は延々と繰り返し俺に悪態を吐いていたのだろう。暇な奴らだな
それが原因で、口を挟んできたのなら、こいつ・・・沢篠太陽は相当なお人よしだな。
ありがた迷惑、空回り、偽善者、おせっかい、これらの言葉がよく当てはまる。
馬鹿じゃないか?
自分以外の人間にここまでする奴はただの馬鹿だ。
間違いなく、頭を働かせなくとも殴られることは目に見えているだろう。
そこまで頭が悪いようには見えないがな・・・・
むしろ、このクラスでは1,2を争うほど頭が良いだろう。
本人に自覚はないと見えるがな。
おそらく、自分がこのクラスに居ることを疑問に思っているだろう。
才能に気付いていない非凡者という所だろう。
「ふざけんな!!」
馬鹿でかい声が聞こえてきて、顔をそれが見えるぐらいに上げる。
案の定、殴られそうになっている沢篠太陽。
もはや殴られることを覚悟しているようだ。やはり、こいつは頭が良い。
ここで見苦しく抵抗や、許しを請うようであれば、後にこいつら2人に下僕のように使われることだろう。
ここで、何事もないようにしておけば後々楽だ。
それに、沢篠太陽は殴られることを予期しながらも口を出したのだ。
根性・・・・というより、これは沢篠太陽の条件反射なのだろう。
他の人間にはない、沢篠太陽だけの条件反射だ。
「あんたらいい加減にしなさいよ。」
仲裁に入るかのように、その声は聞こえてきた。
その声の方に少し目をやる。その女は、立ち上がることもせずに、ただ冷淡な目で2人を睨んでいた。強い目 とも言うのかもしれない
この女は確か、八波心。沢篠太陽と1,2を争う頭を持つ女。
少しして、沢篠太陽の掠れた小声が聞こえてきた。八波にお礼を言う声だ。
八波の応答は口パクだった。おそらく、『あんたのためじゃない』と言っているのだろう。
この2人はただのクラスメートよりは親しいらしい。
俺は、このクラスでは沢篠太陽 八波心の2人に少しの興味を抱いている。好奇心と言った方が正しいかもしれない・・・なんとも言えない感情。
この感情はまったく初めてのモノだ。
この2人には何かある。
はっきりとはしないが、俺の動物的本能がそう語っているようだった。
ふいに強い風が吹いてきた。
本が一気に捲り上げられる。まるで俺の好奇心を煽るかのように・・・・・
今日最後の授業の始まりを告げる予鈴が不気味なほど大きく教室に鳴り響いた。