1 ●2人の少年●
「ふっざけんじゃねぇよ!!」
「まったくだ!IQ200だか、なんだか知らねぇが・・・調子乗ってんじゃねぇよ!!」
金曜日の午後、後1時間で授業も終わりという頃。
明日から学校という枠にはめられた生活から少し離れられることに胸を躍らせている生徒が多いことだろう。
そう言う俺もその中の1人だ。そんな時間に今日1番の大声が『津上大付属高等学校』1年特別学能力クラスに響き渡った。
うるさいなぁ・・・そんな感情しか俺は湧いてこない。
大声を上げている生徒はこのクラスでは浮いた存在の2人 岩伊廉太郎と木釜一縷だ。このクラスは格段に他の生徒とは能力が違う者が集められている。俺は何故自分がこのクラスなのか未だ不思議でしょうがない。それほどまでに学があるわけでもないのに・・・
そんな俺とは対照的に1週間前転校してきた、上ノ原千夜はIQ200の天才少年だ。
その千夜が今まさに悪態を吐かれているのだ。
だが、千夜はそんなことまったくと言っていいほど気にも留めていない。
それが2人の闘争心を煽っているようでもあった。
「なんとか言ったらどうなんだよ!!」
「お前口ねぇのかよ!IQ200のくせに喋り方忘れたのか?」
「そりゃ傑作だな!!」
岩伊と木釜の言葉はだんだんと磨がれた刃物のように鋭くなってくる。
普通の人なら言葉は発さなくとも、顔色の1つでも変えるだろう。
だが、千夜は眉1つとして動かさない。依然その顔は異国の文字で書かれた本に集中しているようだ。
まるで2人などここには居ないとでも言っているようだった。
「お前・・・いい加減にしろよ!」
「どんだけ人をこ馬鹿にしたら気が済むんだよ!!」
千夜の動じない凛とした態度にますます腹がたったようだ。
この2人にしたら、IQ200というだけで馬鹿にされてると言うのだろう。ぶっちゃけ被害妄想もいいとこだ。
それに付き合わされる千夜も気の毒だなと思う。
それに・・・それだけの理由でこの2人は行き過ぎだ。矛盾としかいいようがない。IQ200なんて千夜のせいじゃないだろう。
そう思い始めたらなんだか腹がたってきた。これは俺の悪い癖だなぁ・・・・と思いつつも直らないだろうと開き直る。だって、これが俺だから
「おい!お前らがいい加減にしろよ!!」
あぁ・・・やってしまった・・・・
しょうがないけど・・・・
「あぁ!?なんだよ、沢篠こいつの味方すんのかよ!?」
岩伊のでかいドスの利いた声。だが、さほど恐怖は感じない。
むしろ子供のようだと思う。自分の思いどうりに行かないから駄々をこね、あげく人に八つ当たりをする。まんま幼稚園児だ。嫌・・・幼稚園児より下かも・・・
少し俺の口から笑いが漏れた。
「何笑ってんだよ!?」
それに目敏く気付いた木釜。やべぇ、マズった?
「俺は元々こんな顔なの!お分かり?」
「てめぇ!ふざけんじゃねぇよ!!」
「ふざけてないって!木釜も岩伊もまず落ち着けよ!」
どうどうと牛を落ち着ける闘牛士のように手を上下させる。
それがますます火に油を注いだのか胸ぐらを掴まれた。
「なめてんのか!?俺たちを!」
俺たちって2人しかいないじゃん!と岩伊の言葉に空しく突っ込みを入れる。
俺、殴られんの?
そう思った瞬間、岩伊の拳が俺の顔をめがけて飛んできた。半ば殴られることを諦めていたその時
「あんたらいい加減にしなさいよ。」
その声で岩伊の拳が止まった。助かった?ラッキー。未だ胸ぐらにかかっている手を振り払って、その聞き覚えのある声の主の方を見る。
それは、椅子から立ち上がることもせずに岩伊と木釜を睨んでいた。その目は名刀のように鋭く、強い目だった。
「心、サンキュー!」
小声で手を顔の前で合わせ礼を言った。心は口パクで『別にあんたのためじゃない』との返答。
「んだよ、八波・・・お前まで邪魔すんのかよ!」
「何言ってんのよ。五月蠅いのよ さっきから、迷惑なの。私は自分のために言ったの。」
木釜の言葉に椅子から立ち上がり、顔色1つ変えず答える心。窓から吹く風が心の長い黒髪を揺らした。
何か木釜が言い返そうとしたのと同時に、最後の授業の始まりの予鈴が鳴った。