その9
100アクセス達成!
アクセスしてくださった方々、重ね重ねありがとうございます。
「じゃあ、見てくれ?」と鞄からノートとシャーペンを出して見せた。
私は祐子と顔を見合わせた。
「ここに真っ白けの紙とペンがありますねえ」と手品師みたいにパラパラと白いノートをめくって見せた。
「確認してみて」と水野恭一は自分の鞄から出したノートを私たちに差し出した。
私と祐子は顔を見合わせた。
差しだされたノートに手を出したのは祐子だった。ノートをパラパラとめくる。私ものぞき込んでみたけど、確かにノートは全部白紙だった。
祐子は無言でノートを返した。
「全部白紙だったね?」水野恭一の問いに私と祐子は曖昧に頷いた。多分、私と祐子はこの時、思い切り不審な目を水野恭一に向けていたと思う。
「それじゃ、描きます」水野恭一は私たちのことなどほったらかしでペンを動かし始めた。
あっという間だった。
絵が浮かび上がった。
「ウソやろ」の口をしている祐子の絵だった。
「はい、できました」描き上がったページを破って、水野恭一は私たちの前に提出してみせた。
私と祐子はポカンとした。ポカンとするしかなかった。手品だった。お絵かき手品。あっさり過ぎて手品のように見えない手品。
「ウソやろ」祐子は紙を何回もひっくりかえして「ウソやろ」を連発した。「信じられへん」とも言っていた。そして、「スゴイやん」と誉め言葉に変わっていた。「ホンマや。ホンマに描いたんやで」顔がくしゃくしゃに笑っていた。あれほど不審な目をしていた祐子が、水野恭一を誉めている。
「気に入っていただけましたか?」
「気に入った気に入った、むっちゃ気に入った」祐子はすっかりはしゃいでいた。
私は横目で祐子を睨んだ。
一体、何を考えているのか。この喫茶店に入る前にはさんざんストーカーだなんて言っていた男に、今ははしゃいでいる。神経の構造が良くわからない。
「どこで覚えたん?こんなの」などと祐子は逆に水野恭一と会話をしている。
ムカッときた。なんか腹が立つとか、納得がいかない。
「ドン」と私はテーブルを思い切り叩いた。
祐子も水野恭一も固まっている。
「ちょっと祐子」怒鳴っていた。
「なにぃ?」
「あんた、何考えているの?こんな絵一枚に大はしゃぎして!それにあんた!」
私は水野恭一を指さした。
「あんたは一体何がしたいの?」私は描き上がったばかりの祐子の絵をバシバシ叩いた。
「何するん?私の絵」
「うるさい、この酢蛸!」私は怒鳴った。この時、私はとても怖い顔をしていたはず。その証拠に祐子も向かいの席の水野恭一まで引いていた。どうやら私は怒ると本当に怖く見えるらしい。
「こんなストーカーみたいなことまでして、私をこんな所まで引きずり回して」
「私達なんやけど京子」
「お黙り!」
「頼む!」動いたのは水野恭一だった。テーブルにひれ伏していた。土下座していた。
「絵のモデルになってくれないか!」
えっ?
「モデルになってください」水野恭一はもう一度言った。
「モデル」という言葉が私の頭の中でグルグルと回り始めた。
「モデルって絵のモデルってこと?」助け船を出してくれたのかはわからないけど、祐子が水野恭一に聞いたのは私には助け船になった。
「そう、絵のモデル」
「そんなん言うために、こんな面倒な事したん?」
祐子の質問に水野恭一は良くわからない笑いを作っていた。
「ちょっと回りくどくなっちゃったけど」水野恭一は頭を掻いていた。
「モデルになってくれ」という事を言うために、水野恭一はこんな面倒なことをしたのか?たったその一言だけのために。
「無理かな、ええと嵐山さんだっけ?」水野恭一は初めて私を名前で呼んだ。
無理とかなんとかより、今返事をしろというのが無理だ。今の私の頭の中では「モデル」という言葉がグルグル回っているだけだからだ。
「そんな怖い顔しないで」
水野恭一の言葉にハッとした。
「それじゃ、あの映画のマリア様みたいじゃないか。そんな怖い顔じゃなくて、俺は笑顔の嵐山京子を描いてみたいと思っているんだ」
この水野恭一という、未だに正体が良くわからない普通の男が本当の事を言っているのか、ウソをついているのかわからない。
ただ、
「笑顔の嵐山京子を描きたい」
その言葉が私の頭の中を、グルグル回り始めた。
読了ありがとうございました。
今後もごひいきによろしくお願いします。