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ポートレイト  作者: 岸田龍庵
恭一とわたし
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その7

 警察の人は困った顔をしていた。実際、困った顔をしているだけだと思うけど。

「あなたの言うことはわかるのよ」応対してくれた婦警さんは申し訳なさそうに言った。

「警察はねえ、何か事が起きないと動けないのよ。特に何かされた訳じゃないのでしょ?夜、誰かにつけられていたとか、のぞき見されているとか」

 私は喋るよりも前に首を横に振った。


 冗談じゃない。


 というよりも、そういうことが起きないうちに何とかしてもらおうと思って警察に来たのだから。

「何もされていないんじゃ、警察も調べるだけの理由がないのよ」もっともなことを婦警さんは申し訳ないように言った。そして私の似顔絵を見て、

「良く描けているじゃない」などといった。

 それでおしまいだった。




「なんやの、あのブッサイクなおばはん」警察を出るなり文句をぶちまけたのは祐子だった。

「あんなけったくそ悪いブサイク警官じゃストーカーも寄りつかへんわ」こういうときの関西弁パワーは恐ろしい。まるで悪口を言うために作られたような言語に聞こえてしまうのは私が「関東の人間」だからだろうか。

 ともかく頼みの綱と思っていた警察は全く当てにならなかった。言われてみれば警察の人の方が正しくもある。


 実際、私は謎のお絵かきストーカーからはなんの被害も受けていない。


 せいぜいあくびしている姿を絵に描かれたということくらいなのだから。

 痴漢されたり、つけられたり、何かしらの嫌がらせを受けたわけでもない。逆に嫌がらせを受ければ警察の人は捜査してくれる。というのが警察の人の言い分なんだけど、嫌がらせをされるのは困る。

 と、歩きながら考え中の私の周りから、祐子が消えた。

 祐子を探してキョロキョロしてみると、私の遠く後ろの方で腕組みをしていた。なにやら考え中の様子だった。



「こうなったらウチらでなんとかするしかないで」

 って「どういうこと?」と祐子に聞いた。

「警察当てにならへんのやろ、そしたらウチらがお絵かきストーカーひっつかまえて警察に突き出してやんねん」祐子はものすごい鼻息を荒くしている。どうやら警察の丁寧だけど当たり障りのない対応に腹を立てているに違いなかった。

 祐子がむかつくのはわかる。私もちょっと腹立ったけど。

「女の私たちでどうにもならないでしょ」

「やるしかないで、やるしか」

 祐子は鼻息荒く、実に自信満面だった。






「どうせ、こんな事だろうと思った」

「そんな事、言わんといてや」

 その日、「こと」を起こそうと思って準備をしてきた祐子と待ち合わせた場所での最初の私の言葉。

 祐子が用意してきたのはいわゆる変装グッズ。

 トレンチコートだのタータンチェックのハンチングキャップだのマスクだのサングラスだの。

 どういうツテを使ったのか知らないけれど、演劇部から借りてきたらしい。どうせ借りてくるなら男手を借りて来いっちゅうの、まったく。




 祐子の考えは、学校の最寄り駅の吉祥寺駅から変装をして似顔絵ストーカーっぽい怪しい人物を尾行して捕まえると言うものだった。

 どう考えても映画の見すぎ。というより映画でもこんなチープな変装することなんかないし。むしろコントだ。

「ほな、準備しよ」祐子の押せ押せムードに乗せられて二人して公衆トイレに入って着替える。

 着替え終わった私たちはどの角度から見ても「()()()()人たち」以外の何者でもなかった。これじゃどっちがストーカーなのかわからない。おまけにおもいっきり「変身してます」って感じ。



「はい、これ」と祐子は紙切れを出した。「注意事項やで。ちゃんと読んどいてな」

 私は手渡された祐子が考えた「注意事項」なるものを見た。


 ①相手は紙と鉛筆を持っている

 ②目をそらす人間は怪しい

 ③キョロキョロしている人間は怪しい。

 ④一人で行動しない

 ⑤危なくなったら逃げる

 などと、注意書きがあった。


 祐子ってノリだけで生きているように見えるけど、意外に用意周到なんだね、とちょっと感心した。変装はイケてないけどね。

 私たちは祐子が持ってきた怪しげな格好のままで、いつもの通学路で学校へ向かった。




「よう嵐山。なんだその格好」なんてバスの中で見破られる始末。

「バレバレじゃない祐子」わざわざひそひそ話をする私。

「ええの。変装してるって見せることが大切なんやから」という祐子。

 わかるようなわからないような。まあ、祐子の行動力には関心するけど。

 怪しい人物を尾行するっていっても、これじゃあ私たちも立派に怪しい人物だ。

 見たまんまのヘンテコな衣装の私たちを乗せた、ほぼ満員のバスは、いつものように私たちの大学前のバス停に着いてしまった。学生集団がのんびりと降り口に移動する。



「隠れて」移動する集団をよそに祐子が私の頭を押さえつけ、椅子に潜り込む。

「なんでよ、変装の意味ないじゃない」

「ええから京子はあっち」

 私は祐子に言われるまま一番後ろの座席にうずくまった。通路をはさんで祐子が反対側の座席に隠れる。

 程なくしてウチの大学の学生はほとんどが降りた。がらんとした車内の一番後ろの座席にうずくまっている私たちを残して。

 学生の大群が降りきってからしばらくは静かだった。待ち時間、それも押し黙って動かない待ち時間はなんと長いのだろう。

「待ち伏せするの?」向かいの祐子に小声で言った。

 祐子は頷いた。

「今日、いるの?」もちろんお絵かきストーカーが今日いるかどうかだ。

「そんなん知らん」祐子はあっさり言った。


 帽子がズリ落ちそうになった。


 よくよく考えてみると、今日のこの時間にお絵かきストーカーがバス待ちしている事は、当のお絵かきストーカー以外は知らないはず。

「知らないって、毎日こんな事するんじゃないでしょうね?」

「それしかないやろ」

「ウソでしょ」毎日こんな怪しい格好を続けると思うと知恵熱が出てきそうになった。

 と、

 乗ってきた。足取りも軽やかに。ふわりとバスのステップを登ってきた。男が乗ってきた。

読了ありがとうございました。


今後もごひいきによろしくお願いします。

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