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ポートレイト  作者: 岸田龍庵
私の絵とわたし
64/68

その64

 私はこの絵を見せたかった。

 それは祐子じゃなくてその他大勢の誰でもなかった。

 誰に見せたかったかといえばアオヤマ・スミレだった。

 私はアオヤマ・スミレに、この絵を見て欲しくてここに絵を持ってきたということが今になってやっとわかった。

 混乱が収まった私の頭が出した答え。




 私はアオヤマ・スミレにこの絵を()めて欲しかった。

 人目に見られることもなく、おばあちゃんの家で眠っていた「私の絵」を誉めて欲しくて、私は絵を持ってきた。

 私はあまり絵とかの価値はわからないけど、私の周りで唯一「絵の価値」がわかっているアオヤマ・スミレに観て欲しかった。

 アオヤマ・スミレが絵を観た以上、もうこの場所に居る必要はなかった。絵は誰かに見てもらうからこそ価値があるものだと思う。この絵はアオヤマ・スミレが観たことで、その役目が終わった。

 私は天女の絵をキチンと風呂敷に包んだ。おばあちゃんの家から持ってきた元の形に戻した。

 絵の包みを脇に抱え持つ。

 もうこの学校に来ることは多分ない。

 何回も何回も来た恭一の学校に。








 都心に行くのはとても久しぶり。卒業の準備も就職の準備も整ってしまって、やることはとても減っていた。することを見つける方が難い。

 珍しく大雪の日であちこちの交通機関がマヒしていた。私は最寄り駅に行くまでに二回転んだ。都会の人間は雪には弱い。

 アオヤマ・スミレに呼び出されたのは二月に入ってすぐだった。



 

 四谷にあるアオヤマ・スミレの画廊。小さい画廊の前は入り口しか雪かきをしていなかった。

「ごめんなさいね、呼び出して」

 今日のアオヤマ・スミレは彼女にしては珍しくシンプルな服装だった。

 ブルージーンズにオフホワイトのセーター。足下は乗馬ブーツ。くるくるの金髪を後ろで一つにまとめている。隣のキレイなお姉さん、そんな感じ。

 画廊の中はあまり暖かくなかった。むしろ寒い感じ。あまり暖かくしたり、冷やすと絵に良くないのだろう。絵に(うと)い私でもそれくらいのことはわかる。




 アオヤマ・スミレと会うのは恭一の学校の学園祭以来だ。あれからなんの連絡もなかったし、私も()()卒論だ、()()卒業旅行だと忙しくしていた。

()()()()、止めたんですね」

 就職活動が終わって、私は黒髪でいることを止めた。

 アオヤマ・スミレにとっては日本人は黒髪ってイメージが強いのだろう。髪は自然と元の色に戻っていった。

 赤毛に戻って、なんか軽くなったような気がした。ためこんでいたわけじゃないのだけれども、私の中から色々なものが消えていった。

 やっぱり私には生まれつきの赤毛が良く似合う。




「キョウイチは来月には日本を出ます」

 と、アオヤマ・スミレに言われたのは、彼女が出してくれた紅茶を飲んだ時だった。紅茶が逆流してくるようなそんなショックがあった。

 恭一が海外に行くことを私は知らなかった。

 アオヤマ・スミレが「恭一が日本を出る」ということ言ったからには、彼は海外留学生に選ばれたということ。私はそのことも知らなかった。

 アオヤマ・スミレに聞かされて初めて知った。




 今まで私は恭一のことを何でも知っているはずだった。

 どんなことでも一番先に知っている、教えてもらえる立場にいた。

 旅行に行ったこと、髪を切ったこと、新しいCDを買ったこと、風邪ひいたこと、風邪が治ったこと。何でも知っているはずだった。

 でも、私は恭一が日本を出ることは知らなかった。




 多分、アオヤマ・スミレに呼び出されることがなければ、アオヤマ・スミレに聞かされなければ、私は()()()()を知らないままでいたはず。

 アオヤマ・スミレがそのことを私に言ったのは、私が恭一の動向を知らないのをわかっていて言ったに違いなかった。そうでなければ、アオヤマ・スミレはこんなことを言う必要がない。

 私と恭一にとっては当然知っていることだから。それをあえて私に言ったのは、彼女は恭一と私のことに何があったかを知っているからだろう。




 実際、私たちの間には何もなかった。

 少なくとも学園祭から先はなかった。 

 あれから私は恭一と会っていない。連絡もなかった。

 終わったわけではなかったけど、自然消滅に近い感じ。

 でも恭一に会った所で、今更何を話すというのだろう。恭一と何を話せばいいのか私にはわからなかった。

 アオヤマ・スミレはそのことも知っているはず。




 アオヤマ・スミレは何でも知っている。それが彼女たちの組織のやり方だからだ。

 だからといってその裏情報を元に彼女たちが何か脅迫(きょうはく)()()()のことをするかと言えばそうでもない。

 ただ、知っているだけ。その証拠に私も広海も恭一も彼女たちの組織から直接被害を受けたことはない。お互いに利用し利用されている関係のように思えた。

 もっとも、アオヤマ・スミレがそこまで私たちとの関係を考えているかというと疑問が残る。相変わらずアオヤマ・スミレはオープンなように見えて謎が多い人物で、所属している組織もよくわからない。

読了ありがとうございました。


今後もごひいきによろしくお願いします。

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