その60
バンドと言えばライブハウス ライブハウスといえば、お手製チケット&デモテープ
今はプロモーションは、デモテープよりもYouTubeの方が流行っている気がしますが、しかし、お話の時代は平成の初期なので、こんな感じです。
祐子、別人みたい。一応リズムに合わせて体を動かしている。演奏が上手いのかどうかはわからないけど、楽しさだけは伝わってくる。
この調子じゃ私が来ていることもわからないだろうな。
バンドのメンバーは知らない人ばかり。
ドラムは男の人。ヴォーカルと祐子の隣の隅っこのキーボードは女の子。ヴォーカルを挟んで祐子の反対側のベースの人は男の子なのか女の子なのかわからない中性的な感じ。
どういう仲間なんだろう?なんてバンドの人たちを眺めていたら曲が終わった。
ステージ前に密集しているあまり多くないお客さんだけが盛り上がっている。
「おおきにおおきに、ありがとう」
なるほど。東京に居る関西の友達のなんだな、きっと。
「ほな、次」
簡単なおしゃべりを挟んで曲が始まった。
イントロは祐子からだった。
音が低い。ギターの音じゃないよね。
この低い音ってベースだよね。
祐子ってギターやってるんじゃなかったっけ?
あれ?
私は今まで祐子がギターをやっているということは知っていた。
でもベースに変わったなんて聞いてないんだけど。
良く見ると祐子が持っている楽器は弦が四本だ。
弦が四本の楽器ってベースだよね。今度、兄貴に聞いてみよう。
ちょっと待って。
確か恭一は祐子がベースをやっていること知っていたよね。だってこの前会った時に祐子はベースやっているんだってなんて言っていた。
あれ?
なんで恭一が知っていて、私が知らないのかな?
怖くなった。何が怖くなったって、認めることを。
祐子と恭一は会っている。私の知らない所で。
私の知らないことを二人は知っている。
でも、
私はライブハウスの中を探した。
恭一は、ここにいるのいないの?
恭一はいない。絵描きみたいな男の人もいない。
何がどうなっているの?
落ち着いて京子。
そりゃ恭一だって祐子に電話くらいするでしょ。
祐子だって恭一に「ライブ来て」みたいなお誘いの電話はするでしょ。
そうよ。会うのよ。私がいなくても。
じゃあなんで二人は私に隠しているわけ?
充満するタバコの煙。
チカチカ光る照明。
大音響。
私はカウンターで飲み物を頼んだ。チケットを持っていると飲み物一杯はタダらしい。
私はコーラを頼んだ。店員というのか、注文を受けた男の人は、やる気がないのか、たかがコーラ一杯なのに結構待たされた。
コーラを待っている間、カウンターに平積みにしてあるデモテープが目に入った。
その中の一つが目に入った。
「ミックスジュース」
そのバンドの文字が見えたから。手に取って見て、ミックスジュースの文字は見えなくなった。
ジャケットの絵。
祐子だ。
ベースを弾いている楽しそうな祐子。
パッと見、写真だと思ってしまうリアルな絵。
こういうアマチュアバンドのデザインを専門にしている人はいるかもしれない。
でも、でも。
間違いなく恭一の絵だ。
私が恭一の絵を見間違えるはずがない。
何で恭一の絵ががここにあるの?
やっと出てきたひったくってコーラをいっきに飲んだ。冷たいコーラがいきなり流れてきたから喉がびっくりしてむせてしまった。
喉が暴れている。体が熱い。ブルブル震えている。
見られていた。
「変なヤツだ」
「スーツの変なヤツ」
そんな視線が私に集まっていた。私よりもおかしな格好をした男や、女の子たちから私はジロジロ見られていた。
やっぱり間違いだった。
この服装でとか、この靴でとかではなく、私がここに居ることが間違いだった。
私は祐子のバンドのデモテープをひっつかむようにして階段を駆け上がった。
駅はどっち?
夕方のラッシュの人混みが邪魔だった。
どいてほしかった。
私の前から誰も消えてなくなってほしかった。
急がなきゃ。
恭一のところに急がなきゃ。
祐子のバンドのデモテープを持って急がなきゃ。
恐い。
恭一の部屋に行くのが恐い。
祐子のバンドのデモテープを持って聞きに行くのが恐い。
でも、恭一しかいない。
私の疑問に答えてくれるのは恭一しかいなかった。
だから恭一のところに行かなくちゃ。
切符はきちんと買ったのだろう。
普通に改札も通ったのだろう。
駆け込み乗車はしなかったかな?
バスの乗り場は間違えていなかったみたい。
ともかく私は恭一の部屋の前に立っていた。
読了ありがとうございました。
今後もごひいきによろしくお願いします。




