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ポートレイト  作者: 岸田龍庵
モデルのわたし
59/68

その59

 一年前の私と、今の私。

 おばあちゃんとおじいちゃんの話を聞いて思った。

 もしかすると、私と恭一は離ればなれになるかもしれない。

 おばあちゃんとおじいちゃんが離ればなれになったように。

 おばあちゃんとおじいちゃんは再会できた。

 じゃあ、私と恭一は?

 離れ離れになったでも再会出来るのだろうか?

 再会は出来ると思う。離れ離れになっていた広海と私が再会できたように。

 でも、私と恭一は元の私たちに戻れるのだろうか?

 恭一は、一体どう思っているんだろう?

 私は?

 私は、私たちのこれからのことをどう思っているんだろう?

 一年前の私は、楽しそうに踊っているだけだった。









 シモキタ。といえば古着屋さん。そんなイメージしかない。

 吉祥寺から一本で行けるのだけれども、下北沢にはあまり行くことはない。

 でも、今日はシモキタのライブハウスに行く。友達に聞いた話だと下北沢はライブハウスがたくさんあるのでも有名らしい。

「今日はライブを楽しもう」という雰囲気じゃない。なんせリクルートスーツだし。

 それでも私はライブハウスに行く。

 なんで下北沢で、なんでライブハウスかというと、最近ちょっと気になるというか、聞き捨てならない(うわさ)を聞いたからだ。




 ライブハウスに絵描きが出没しているらしい。

 ものすごい速技の持ち主で、ライブの様子をリアルに描写して、お客に()()()として持って帰ってもらう。出没しているのは祐子のバンドがいつも使っているライブハウス。




 ・・・・・・・・・・・・・・。

 恭一に間違いない。こんな特技を持った絵描きがそうそういるわけがない。また写真じゃないというのがいいのだろう。

 絵というのが、手描きというのが。世界に一枚しかないというのがプレミアちっくで良いのだろう。

 祐子と恭一に接点がないわけがない。

 お互いに携帯番号も知っているわけだし、会おうと思えばいつでも会えるはず。それは別に構わない。

 恭一と私はつき合っているけれども、恭一と祐子はお友達だから。




 別に二人の行動を、特に恭一の行動をいちいち制限する気はまるでない。

 彼は絵描きなのだし、絵描きに制限は禁物、と私は思っている。

 だけど、そうだけど。

 隠すことないじゃん。

 何で隠さなくちゃいけないの?私も誘ってくれてもいいじゃない。

 恭一が卒業制作を()()()()()()にしておいて、下北沢の夜をぶらついているというのが、さらに気にくわない。

 自分一人で戦うとか言っておきながら、こっそり祐子に会っているのも腹が立つ。

 そりゃ、一人でキャンバスに向かっていれば気晴らしをしたくはなるだろう。

 だったら私も誘ってよ。なんで誘わないの。しかも祐子が出ているバンドのライブでしょ?




 たくさんの「()()」が私の知らない所で渦巻いていた。




 そんなわけで、

 いつもよりも気合い充分の私なんだが、ライブハウスの前で足が止まってしまった。

 だって、出てくる子、入ってくる子、みんなかわいくて、ライブハウスな服装だからだ。

 私はといえばリクルートスーツ。

「営業の方ですか?」

 なんて言われたらかなりショック。

 なかなか入れない。

 これってこの間の祐子とまった一緒だ。祐子はリクルーターだらけの喫茶店に入ってこなかった。





 私は、ライブハウスな服装だらけのライブハウスに入れるのか?

 もう、すべてが間違い。

 リクルートスーツじゃなくてTシャツだったら。ローヒールのビジネスシューズじゃなくてブーツだったら、すーっと入れちゃうんだけどね。

 でも、入らないと。ここに噂のすべてがあるんだから。

 なんか面接行くよりも緊張する。

 いつも面接の時は、ダメモトって頭があるけど、ここじゃ何が出て来るんだろう?

 ダメモトじゃこまるんだよね。

 噂は噂。そう願いたい。

 そう思いつつ扉を開けた。

 私は地下へと続く階段を下りた。




 祐子のバンドの名前はミックスジュース。

 時間的にもう始まっているはず。真っ暗で音が大きいのは映画館に似ている。でも、全然違うのよね雰囲気が。

 受付の人にチケットを出した時だって「なんか間違えてない?」みたいな顔された。

 そりゃ服装間違っているかも知れないけど、でもライブ来たの私は、バンド見るの、と言いたかったけど、黙って中に入った。

 音が押し寄せてきた。やたらとドラムの音ばかりが大きいバンドの音。

 暗い照明。オールスタンディングで、音が大きいわりにはあまり盛り上がってない。みんなカウンターで飲んでいたり、喋っていたり、明らかにバンドの演奏なんて聴いてない。

 バンドを聴く、というよりもライブハウスって場所の空気を楽しんでいるみたい。

 私たちのような映画好きが映画館に行くのを楽しんでいるのと同じように、ライブハウスを楽しんでいる。

 そう言えば、祐子と映画を見に行ったのはいつなのか、もう思い出せない。




 この服装だからかな、みんなの視線がちょっと気になる。やっぱり「なんだこいつ?」みたいな目を向けてくる。

 視線が気になるのは仕方ないとして、私はステージを見た。

 いた。

 初めて見るステージの祐子。

 必死に歌っている(あまり上手くない)ヴォーカルの向かって左側にいた。

 祐子も必死になってギターを弾いている。お客さんの方を見るよりも手元を見ている方が多いかも。

 それでも、

 自分の友達がステージにいる。こんなにスゴイことはない。

読了ありがとうございました。


今後もごひいきによろしくお願いします。

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