表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ポートレイト  作者: 岸田龍庵
モデルのわたし
49/68

その49

8月の終わりから投稿を始めましたが、気が付けば冬になっていて、物語は終盤戦でございます。


今後もよろしくお願い致します。


「・・・・」

 恭一の部屋の前で、無言で出迎えられた私。

 やっぱりだ。こんな服装で来るんじゃなかった。

 どうしたもこうしたもない。だって就職活動中の服装だから。リクルートスーツが今の私の標準服。黒髪が今の私の髪色。

「似合ってない、よね?」

「雰囲気変わるね」恭一の()()()()な反応が気に入らなかった。昔なら、はっきりものを言っていた。

 恭一の部屋のドアの前でのこんなやりとり。昔じゃ考えられないやりとり。




「まあ、あがってよ」

 いつものように恭一は言った。

 私はすぐに首を横に振った。とても恭一の部屋に入れるような気分じゃないし、そんな服装でもない。

「どこか、行かない」

 どこでも良かった。恭一の部屋以外の場所だったらどこでも良かった。

「そうだね」恭一はちょっとしどろもどろになっていた。今まで、()()()()は見たことがないからだと思う。もちろん見せたこともない。

 恭一は部屋にひっこむと、二人で近所のコンビニに行く時の格好で出てきた。

 思いっきりおウチ全開の服装の恭一と歩くのはとても()()()()に思えた。





 黙って歩く。リクルートスーツの私と部屋着の恭一。恭一はスーツ姿の私を見て黙っていた。私は恭一の顔を見られない。 

 恭一はげっそり痩せていた。もともと痩せ形の上に、さらに痩せていた。

 (ほほ)()()()目の周りが盛り上がっているみたい。目は充血ではなく血走っている。顔色が悪すぎる。ヒゲだけは剃っているみたい。それが余計に青白い肌と、こけた頬を浮きだたせていた。






 怖かった。恭一の変わりようが。

 私は髪の色と着ている物が変わったくらいだけど、恭一は違う。

 別人だ。私が好きな水野恭一じゃない。

 私はここまで「変わった」恭一を知っている。一番最初の学園祭の時、恭一の学校の美術室まで忍び込んだ時の恭一がこんな感じだった。

 でも、あの時はこんなに恐ろしい恭一にはなっていなかった。まだちょっと無精ヒゲな恭一という感じだったけど、

 今は違う。まったく違う人。






 なんでここまで恭一は変わってしまったのか?理由はわかる。

 絵だ。

 試験の絵がうまくいっていないんだ。だからここまで恭一は変わってしまったんだ。

 スーツ姿の私に「雰囲気変わるね」と言ってくれるだけ恭一は優しいのかもしれない。私は怖くてそんなこと言えない。

 私たちは、ただただ歩いていた。

「どこかお店でも入る?」

「公園でいいよ」

 そんな感じの会話。服装もちぐはぐ。会話もちぐはぐ。

 結局、私達は公園のベンチに落ち着いた。昼間来たことのある公園。

 二人でベンチに座って、昼下がりののんびりとした時間を過ごした公園のベンチ。でも今は夜。とても静かだった。





 昔みたいに話が出来ない。昼下がりに、のんびりと過ごしていた時は会話がなくても平気だった。おしゃべりなんかしたくなかった。喋らなくても良かった。

 今は喋らなきゃ、何か喋らなきゃ。でも、なにも見つからない。今の私たちには話題がない。

 夜の公園がこんなに静かだなんて始めて知った。

「忙しい?就職活動?」

 恭一の問いに私は首を縦に振って答えた。

 ドラマみたいなセリフ。忙しい人間を捕まえて、わざとらしく「忙しい?」って聞くような言葉のやりとり。

 リクルートスーツ姿を見ればわかるだろうって。

 でも、言わなかった。言えなかった。

 今の私には恭一を責めるような言葉しか見つからない。

 恭一も黙ったままだ。

 多分、恭一も他の言葉が見つからないんだと思う。こういう時、言葉はとても不便だと思う。使えば使うほど気まずくなってくる。気の利いた言葉を使えば余計に雰囲気が悪くなっていく。





「最近」恭一が言った。「祐子ちゃんってどうしてる?」

「祐子?」祐子がどうしたっていうのだろう?

 それが話題なの?そんなことしか話題がないの今の私達には?

「バンドでベースやってるって聞いたけど」

 そんなこ事まで恭一は知っているんだ。私のことは「就職活動をしている」くらいしか知らないのに。

「みたいだね」私は仕方なしに相づちを打った。相づちしか打てなかった。

 全然楽しくない会話。

 今の私たちは、こんな会話しか出来ないのだろうか?

 今まで私たちはどんな風におしゃべりをしてきたのだろう?わからない。思い出せない。

 話題を変えたい。

 話題を変えなきゃ。

 恭一が私を呼んだ理由を聞かなきゃ。




「改まって用事って?」

 自分で言ってドキっとした。前は「改まる」必要なんてなかったはず。言いたいことを言って、とことんまで話して、話さないことがあっても何か別の方法で私達は会話をしていたはず。

 今まで私達ってどうやってお話していたんだっけ?それも思い出せない。

読了ありがとうございました。


今後もごひいきによろしくお願いします。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ