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ポートレイト  作者: 岸田龍庵
暑い夏とわたし
46/68

その46

すでに投稿済みの回(その42と43)の内容が大きく重複いたしましたことですが、修正作業をしました。


また重複回を削除し初回投稿その44を43に改め、以降の部数番号の繰り上げをしました。


大変お見苦しい点、または作業がずさんであったこと、重ね重ねお詫び申し上げます。


以降、このようなことがないように努めますので、よろしくお願いします。

「次の作品展で」アオヤマ・スミレは言った。「判断します。彼がユニオンのプロジェクトに相応しい人材かどうか」キリっと言った。

 次の作品展。ということは、何の問題もなければ恭一の大学生活最後の展示会がそのまま試験ということになる。

 結構、苛酷(かこく)かもしれない。

「それをミズノ・キョウイチに伝えて下さい。私も毎年毎年、人材探しに苦労をしています。特に最近は画一化教育だかなんだかが進んでいて、どこの教育機関でも良い人材がいません。だからといって、推薦(すいせん)された人材で満足するような妥協はしません。サムライらしく真剣勝負で挑んできてください」




 アオヤマ・スミレの返事に私はうなずいた。

 頷くので精一杯だった。

 商談、じゃないのかもしれないけど、なんかこういう話ってとても疲れる。

 就職活動に似ているような。

 それを見透かしたのか、アオヤマ・スミレから「フワッ」と何かが抜け出て行ったような気がした。




「さ、ビジネスの話しは終わりです。ワインでも飲みますか?」アオヤマ・スミレは立ち上がって画廊の奥に消えると、いろいろ持ってきた。

 ワイングラス二客、ものすごい臭い(おみやげに貰ったクサヤの干物の臭いみたい)のチーズにクラッカー、それに赤ワイン。すごい高いワインなんだろうなと、この画廊を見ていると思ってしまう。

 昼間っからワインというのもなんだと思ったけど私はアオヤマ・スミレが出してくれたワインを頂いた。

 断ってもアオヤマ・スミレはなんとも思わないだろうけど、私にはお願い事をしにきたという意識というか、下手にでなくちゃみたいな考えがあって出されるままに飲んでしまった。

 こういう所って日本人ぽいと思った。

 ワインの味なんかちっともわからなかった。強烈なチーズの臭いもそのうちに気にならなくなった。

 考えていた。

 ずっと考え事をしていた。

 アオヤマ・スミレに言われた一言が頭の中でぐるぐる回っていた。




「あなた達は離ればなれになって暮らさなければなりません」




 そういうことなんだよね。

 恭一がアオヤマ・スミレの組織の留学生になったら、恭一は海外に勉強に行く。

 私は日本で就職をする。

 当然、離ればなれになる。




 私は社会人。

 恭一は留学生。

 私は働きに出て、恭一は勉強を続ける。




 何もかもが変わる。環境は当然だし、生活時間帯にお休みの日、時差も距離もある。

 そんな状況になってしまったら頻繁に会うことなんて出来るのだろうか?

 沖田広海が留学に行ってから、あれだけ仲が良かった彼女と会ったのは、たったの一回だけだ。広海と再会するまでに、二年かかった。

 たった一回会うだけで私と広海は二年もかかった。




 じゃあ、私と恭一は?

 やはり再会までに二年もかかってしまうのだろうか?

 私は、二年も恭一の事を待てるのだろうか?

 と、いうよりも恭一はこの事をわかっているのだろうか?

 海外に留学に行くという事は、日本で働く私とは離ればなれになるって事を。




 別に、私は日本で働かなくちゃいけないわけじゃない。思い切ったことをすれば、恭一についていってしまえばいい。




 でも、そんなの無理だ。

 画家でもない、勉強中の恭一についてゆく。

 日本ではない土地へ。

 ちっとも現実的じゃない。

 私が恭一の留学先についていくなんて無理がある。




 恭一はわかっているのだろうか?

 謎の組織が自分を画家への道に連れていってくれることじゃなくて、私達が離ればなれになることを。

 私はわかっていたのだろうか?

 恭一がアオヤマ・スミレの組織の一員になるということは、私と恭一は離ればなれになるという事が。




 私は、というよりも私と恭一は自ら進んで離ればなれになろうとしている。




 それが将来のために大切なことだとわかっていても。

 でも、でも。

 もっと大切なことがあるんじゃないの?

 海外に行く。

 就職をする。

 そんな事じゃなくて、私たち自身のことが。





 最後までアオヤマ・スミレのワインの味はわからなかった。

 でもバッチリ酔った。私は恭一の家の方へ行く電車に乗った。家とは反対方向の黄色い電車。

 すっかり夕方のラッシュになっていた。その中で酔っぱらっているのは私だけだった。頭が痛かった。

 でも私は恭一には言っておきたかった。




 アオヤマ・スミレの試験を受けられるということじゃなくて、私たちが離ればなれになることを。




 いつものように恭一の家までのバスに乗る。いつもはバスの道のりが楽しいのだけれど、今はとてもうっとうしく思えた。

 早く着いて。なんでも良いから早く着いて欲しい。

 何を焦っていたのかはわからないけど、早く恭一に伝えたかった。

 バスを降りると走って恭一の部屋に行った。私は何回も何回もインターホンを押していた。でも恭一は出てこなかった。

 何でこんな大事な時にいないの?

 めまいがする。回っていた。私の周りは私の知らないところでグルグル回っていた。





「おい、京子」

 肩を揺さぶられていた。

 目の前に恭一がいた。恭一が肩を揺さぶって私をのぞき込んでいた。

「どうしたんだ急に?」

 聞きたかった恭一の声。

 見たかった恭一の顔。

 触れたかった恭一の手。

 今まで探していたモノが私の目の前にあった。

 色々、伝えなきゃいけないことがたくさんあったはず。

 私は恭一に抱きつくことしか出来なかった。





「ねえ恭一?」

「何だ?酔ってるのか?」

「恭一、もし試験に、試験に受かったら」

「えっ?」

「海外に行くの?勉強をしに海外に行くの?私と離ればなれになっても?」

 それを言うのがやっとだった。

読了ありがとうございました。


今後もごひいきによろしくお願いします。

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