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ポートレイト  作者: 岸田龍庵
沖田広海とわたし
33/68

その33

「海が見える部屋」の続き物ということで、「海部屋」の主人公が出てきます。

「なんで、もっと前もって言ってくれないの!」

 久しぶりだというのに、こんな文句を言ってしまうなんて。

「ごめん、ごめん、急に決まってね」

 と、電話口から聞こえるのは、沖田広海の声。


 

 沖田広海。

 私の大親友。

 今は海外で暮らしている。



 ()()()()()から沖田広海は謎の団体(私は今でも謎だと思っている)の援助を受けて留学に行っている。その広海が二年ぶりに突然、日本に帰ってきというじゃない。

 しかも私に内緒、というより急に帰ってきた。




「帰って来たよ」みたいな事後の電話連絡。

 まあ、感動の再会なんてことにならないのは広海らしいといえばらしいかも。こういった絵に描いた展開を嫌うのは広海らしい。

 広海から連絡があったのは事後電話の三日後。

 私は学校だったから夕方に落ち合うことにした。広海の実家の最寄り駅のハンバーガーショップ。

 広海は、なんとボケボケしていた。

「丸二日、寝てたって」寝グセ丸出しの広海はあくびを連発した。夢の中です、って言う感じ。「実家に帰ると疲れるね」とも言った。

 多分、日本に帰ってきて安心するから緊張の糸が切れて良く眠れるんじゃないかな、とボケボケしている広海を見て思った。


 


 二年ぶりの広海はちょっと雰囲気が変わっていた。



 留学に行く前は、ピリピリしていた所がいつもあった。

 良く言えば繊細(せんさい)で悪く言えば神経質。

 絵を描いている時はもちろんだけど、遊んでいる時もボケっとしている時も、どこかピリピリしていた。



 そのピリピリがどこから来るかといえば、絵を描くという広海の宿命から来ているのかなと私は思っていた。



 広海は友達が多い方じゃなかった。いつも一緒にいるのは私だった。

 私は「沖田広海はこういう奴なんだろうな」って思っていたからいつも広海と連んでいれたのだろう。けど、他の友達はみんなわかっていたのじゃないだろうか。広海がいつもピリピリしている事を。

 その広海からピリピリしたものが消えていた。





 二年ぶりに会った広海はとてもスッキリしている。穏やかな空気が広海の周りにあった。穏やか過ぎて私は拍子抜けもしている。




 せっかく、広海が帰ってきたから友達を呼んでみた。たくさんはいないんだけど、広海の友達を。小学校、中学、高校、それに大学。地元の友達から、短かった広海の大学時代の友達。

 なかなか上手くいなかいもので結局私以外は広海の予定に合わなかった。みんなバイトだのサークルだの残業だのと言う理由だった。

 二人ぼっちの私たちは駅前の居酒屋に入った。

 ずいぶんご無沙汰だった場所。というより広海と一緒じゃないと来ない場所。だから広海がいないと、自然と足を運ばなくなる。そんな場所はたくさんある。

 何回も何回も行った海には、もうどれくらい行ってないだろう。




 海は、なんていうのかな、広海と一緒じゃないと行けない場所のような気がしている。だから行ってない。

 なんとなくだけどね、なんとなく。今夜の居酒屋もそんな場所の一つ。



 今日は広海が一緒だから少しだけ行動範囲が広くなっていた。



「眠い」と乾杯の後に広海はあくびをした。

「なーに、あくびばっかして」

「海外暮らしって結構疲れるね」ふわふわした笑い顔の広海。

 海外暮らし。

 私はしたことがないけど、日本での一人暮らしだって結構なかなか疲れるものじゃないだろうか?海外だったらなおさらでしょう。

「疲れ、取れない?」

「若いのにね」広海はふわふわ笑っている。

「でも、行って良かったと思うよ」

「ふ~ん」

「親もさあ、ちょっと理解してくれてる見たいよ。今までは『絵ばっか描いて何やってるの!勉強しなさいっ』って感じだったけど、今じゃ海外で暮らしているってのが相当プラスになってる見たいよ」

「へえ、そうなんだ」そんなもんなんかな?

「それに、アオヤマさん達もちゃんとフォローしてくれているのよ」

「あの外人さん?」アオヤマさんというのは広海の才能を見い出して海外留学させてしまった絵のディーラー。

 そういえば、恭一の学校の展示会でばったり会ったっけ。




「毎月、エージェントが来てビデオレター取らされるのよ」

「ビデオレター?なにそれ?」

「ウチの両親に送っているのよ。『おとーさん、おかーさん、私は元気でやってまーす』みたいなのをビデオで取ってウチの両親に見せてるのよ。そうすれば安心するでしょ」

「へえーしっかりしてんだねえ」ちょっと感心した。私は未だにアオヤマさんの団体は、いかがわしい団体だと思っていたから、そんな細やかな気配りをしているとは意外だった。

「しっかりしてるよ。留学支援って言ったって楽させない飢えさせない程度の支援なんだよ。全面的に『絵を描きなさい』じゃないのよ。絵を描くのだったら自分で時間作って画材買ってモチーフ見つけなさい、私たちは場所を提供しているの、少なくとも日本よりも良い環境。だから絵を描くためには努力なさい。って言う感じ」

「へえ、そうなんだ。てっきり留学だから絵ばかり描いているんだと思った」これまた意外。

読了ありがとうございました。


今後もごひいきによろしくお願いします。

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