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ポートレイト  作者: 岸田龍庵
マリアさまとわたし
3/68

その3

基本的に偶数日に投稿して参ります

 スポーツ系のクラブが幅を利かせているウチの学校の学園祭はちんまりとしている。美術部とか、演劇部の出展もあることはあるのだが、スポーツ系のクラブが出している食べ物屋台に押されているカンがある。

 もっとも、ウチの学校の食べ物屋台はおいしい。周りに食べ物屋がないからか、運動部だからなのか、たこ焼きにしろ、お好み焼きにしろ焼きそばにしろおいしい。

 ところが祐子に言わせると、たこ焼きもお好み焼きも焼きそばも、どれもおいしくないらしい。たこ焼きお好み焼き焼きそばは関西が本場らしいので、「アカン」とまくし立てていた。



 そんな屋台を食べ歩きしながら私達は一応学園祭を楽しんだ。といよりも、楽しむことで「あの映画」が上映されていることを忘れようとしていた。

 美術部も見に行ったし、演劇も見に行った。バンドも見に行った。後で知ったことだけど、どうして演劇部の人に「マリア」の出演を依頼しなかったのかが判明した。

 どうやら演劇部と映画研究会は犬猿の仲らしく、お互いが相手を指さして「芸術性の欠片もない」などとけなしあっている間柄らしい。

 演劇部の舞台を見に行ったけど、彼等もどっこいどっこいのような気がしたのは私だけではないはず。




 私達が知らんぷりしているのをヨソに、映画研究会は渾身(こんしん)の大作「路地裏の天使」を上映していた。

 ところが、私や祐子の思惑と裏腹に、映画研究会のブースは盛況だった。


「下らなくておもしろい」


 これが一般学生の感想らしかった。ストーリーも映像もさっぱりわからないが下らないのがおもしろい。

「下らない」

 これを聞いて私はちょっとフクザツな気持ちになってしまった。自分の初めての主演映画の一番高い評価が「下らない」。

 私はちょっと弁護してやりたい気になった。

「下らないってどういうことよ」と。

 それを止めたのは祐子だった。

「やめとき、それこそ下らんわ」

 祐子は吐き捨てるように言った。



 祐子の言う通りだった。これ以上あの作品にかかわるのはよそう。あの映画は嵐山京子主演の映画なんかじゃない。

 「マリア」の主演映画なのだ。

 そして忘れよう。

 その通りに私は忘れていった。

 私にとって幸運なことに、マリア=嵐山京子というのがわかった人はほとんどいなかった。





 学園祭が終わるのと同時に、私と祐子は映画研究会を辞めて「路地裏のマリア」は無関係になるはずだった。

 ところが、

 忘れた頃にそれはやってきた。


 学園祭が終わって、秋も終わりに近かったある日。

 私と祐子は中野をブラブラしていた。

 学校がある吉祥寺を始め中央線沿線はヒマをつぶすには最適だった。新宿のように大がかりじゃないし、まったく未開の地でもない。学生さんがブラブラしてぴったりな街だと私は思う。

 私と祐子は相変わらず連んでいた。私達の映画館通いは更に加速した。時間さえあれば祐子と二人で映画館の前に立っていた。



 もう、とにかく映画だった。よっぽど暇だったのかも知れないけどとにかく映画映画の毎日だった。カラオケだの飲み会だのに出ることが少なくなって祐子と一緒の時間だけが増えていった。

 映画館の前で待ち合わせ。山盛りのポップコーンとドリンクを持って映画を見に行くのが私たちにとって当たり前になっていた。

 その私たちが足を運んだのは中野だった。



 中野の北口アーケードの近くに映画館がある。といってもそんな大規模なモノではなく、いわゆるミニシアターという場所だ。

 私達はあまりミニシアターには足を運ばない。私達の好きな映画は、それこそ有楽町マリオンとかパンテオンといった所じゃないとやっていないような娯楽大作ばかりだからだ。

 ミニシアターでやっている映画のほとんどは芸術性の高い、一回見ただけでは理解不能な映画ばかりだからだと娯楽映画好きの私たちは思っていた。

 その私達がどうしてこの映画館に足を運んだかというと、駅前の看板に「路地裏の天使上映中」なんて文字を発見したからだ。



「これって」私と祐子は捨て看板の前で動けなかった。

 私達は顔を見合わせた

「どういうことや?」

 まさか、あの「路地裏のマリア」じゃないよね。多分、二人して同じことを思っていたはず。もちろん、そんなことはありえない。

 だけど・・・・。


「行こう」と私は言った。


「行くって、見に行くってこと」

 私は曖昧に、でも頷いて見せた。

「やめときって」と祐子は言った。

 祐子の言うことは正しい。もし違っていても「マリア様」には関わらない方が良い。

「もう、やめときぃ」祐子は私を引っ張って止めようとする。

「見るだけだって」私は祐子もろとも引きずっていた。「違うかもしれないじゃん。同名の映画かもよ」

 映画館に向かいながら、私はどうせならば「あの映画」であって欲しいという気持ちと、違って欲しいという気持ちの半分半分だった。

 間違いならば間違いでいいわけだから。


 もし、あの映画を客観的に見ることが出来るのなら、それはそれで収穫だと思う。とはいえ、下らないと評されたアマチュア映画がミニシアターとはいえ世間一般で上映されているのだから大したもんだ。


 はたして映画館の前にやってきた。

読了ありがとうございました。

まだ続きます。

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