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ポートレイト  作者: 岸田龍庵
金ピカ仏陀とわたし
29/68

その29

「あなたは?見たい絵でもあるの?」と言ってからアオヤマ・スミレは私の顔をジーっと見て、

「そう言えば、あなたに似た絵があったわね」とも言った。と言うことはこの外国人は恭一の絵を見たということになる。

「それ、どこにありました?」

「へっ?」アオヤマ・スミレの声のトーンが上がった。

「それを見に来たの?」不思議そうにアオヤマ・スミレは言った。

「ええ、そうなんです」

「オゥ」と興味なさそうにアオヤマ・スミレは「ちょっと待って下さい」と赤いカバーの手帳を出してパラパラとめくった。

 


 やはりチェックをしているんだ。

 どんな絵があって、誰が描いているかって。



「ええと、サギョウ室ですね」

 サギョウ室?作業室?あの暗くて(くさ)い所に恭一は居るの?

 恭一の居場所もそうなんだけど、それよりも、アオヤマ・スミレの恭一の絵の感想を聞いてみたい。

 謎の組織の人、そうは言っても一応、沖田広海が持っている才能を見い出した人だし。

 そのアオヤマ・スミレが恭一の絵をどうやって見立てたのか、それにちょっと興味があった。それを聞こうと思ったら、




「ほな、行こか」と祐子が先に立ち上がってしまった。

「えええ?ちょっと」祐子を止めようと思うよりも早く祐子は私を引っ張って、私はそれに引っ張られるままだった。

「アオヤマさん、すいません失礼します」久しぶりに再会だったのに、それを言うのが精一杯だった。

 にこやかに笑うアオヤマ・スミレが手を振る姿が遠ざかって行く。

「誰?今のガイジンさん?」先を行く祐子が聞いてくる。怒っているようには思えないけど、すごく急いでいる祐子。

「アオヤマさんていってね」と言った所で続きが出てこなかった。

 彼女のことを人に説明するのは結構面倒くさい。彼女の事は知っている事よりも、知らない事の方が多い。

「絵のディーラーさんなの」という簡単な説明をした。

「そうなんや」祐子は興味なさそう。

 それにしても、なんで祐子はこんなに急いでいるのだろう?




 作業室に向かう私たちとすれ違う人達が多くなってきた。反対に私たちと同じ方向に向かっている人は誰もいない。

 もう、みんな帰る所なんだ。ほんとうに、作業室なんかに展示してあるのだろうか?

 急いで着いたわりには「どうしたものだろうか」と思ってしまった。作業室の扉は閉まったままで、ご丁寧に「関係者以外立入禁止」の紙が()ってあった。




「関係者以外立入禁止だって」祐子が言った。

「そうだね」としか応えようがない。作業室の周りはよりいつもと同じように静かだ。

 絵の展示会場になっていた講堂にあったような人はたくさんいるけど静かな雰囲気とは全く違う。人気のない静かさだ。シーンって感じ。

 恭一が必死になって展示用の絵を描いていた時と同じ。完全な締め出しの様子。

 本当にこんな所に恭一は絵を展示しているのだろうか?

 それにアオヤマ・スミレはこの「関係者以外立入禁止」のドアを蹴破(けや)って中に入っていったのだろうか?

 アオヤマ・スミレは、ここに恭一の絵があることをどうやって知ったのだろう?

「ホンマにここにあるん?」祐子は私に聞いてきた。

 知らないよそんなこと。

 ひょっとしてアオヤマ・スミレに(だま)されたのかもしれない。というよりも彼女はまったく違う場所を教えようとして、間違えたのかも知れない。日本語の読み間違い。




 私の顔、ドアノブと、祐子は目配せした。

(開けてくれない?)。そんな感じ。

 私は小さく首を振った。

「あんたがやりなさいよ」小声で言った。

「イヤや、そんなん」祐子も小声。「ここじゃないんちゃう?」

 そんなこと知らないよう。

 私はそっと「関係者以外立入禁止」のドアに耳を当ててみた。

「シーン」。中に人が居るとは思えない。

 私が耳を当て終えると、今度は祐子がこそ~っとドアノブに手を掛けた。

 しずか~に握るとゆっくり回してから手前に引っ張った。

 開いた。




 私たちは二人して、声を出さずに口だけで「開いた」と言った。「関係者以外立入禁止」のドアは全部開いた。

 むわぁっと絵の具の臭いが(ただ)ってくるのはこの前と同じ。ただ、中は暗い。奥の方にかすかに明かりが()れているのが見える。

「人、居るんだ」と私は口を動かした。

 恭一?それとも?

 私たちはもう一回顔を見合わせた。多分、二人とも考えていることは一緒だ。

「あんたが先に入りなさいよ」だ。

 私はグーを作った。ジャンケンで決めよう。祐子もうなずいた。

 結果はパーで私の勝ち。

 祐子はぷく~っと(ふく)れて不満顔になるともう一度暗い作業室の方を向いた。

「すんませ~ん。誰もおらんの~」

 お店じゃないんだから。

「誰かおらんの~」祐子はもう一回言った。

 すると、



「ゴソ」っという音が聞こえた。私たちは顔を見合わせた。やっぱり誰か居る。

「水野君、おるの?」祐子はもう一度声を掛けた。

「ああ、いるよ」声と一緒に部屋の明かりが点いた。ガランとした作業室。そこに恭一が一人だけ立っていた。

「久しぶり」私はわざとらしく言ってみた。

「うん、久しぶり」恭一は口裏合わせみたいに言った。眠たそうな顔をしていたけど、今日はヒゲが()ってあった。(さわ)やかでハキハキした水野恭一に戻っていた。

読了ありがとうございました。


今後もごひいきによろしくお願いします。

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