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ポートレイト  作者: 岸田龍庵
天女さまとわたし
23/68

その23

スマホが無い時代の話です

ガラケー(この言葉もない)のアドレス帳昨日もアヤシイ時代の話です

みんな、電話帳を持っていたはずの時代の話です

 きっかけは「画家とモデル」という関係からだったから少しは仕方ないかなとも思うけど、反面私たちは「画家とモデル」の関係から進展してなければ後退もしていないまま、半年も過ごしている。



 ひょっとしたら恭一は私じゃなくて「私の絵」と付き合っているんじゃないかなんて思うほどだったりする。



 私達は「仲の良いお友達」です、というレベルでもない。じゃあ、彼氏なの?というのでもない。

 こういう「どっちでもなくて、どっちもアリ」という関係はちょっと疲れる。

 お互いに、どこからは踏み込んでは行けないという線があって、お互いにその線を意識していて、かなりきわどいバランスお互いの関係が成り立っている。恭一と一緒にいるのは楽しいんだけどね。

 微妙なバランスを保ったまま、私たちは半年を楽しく過ごしてきた。

 そんな微妙なバランスの関係が崩れる時は、突然やってきた。

 それは梅雨が終わったばかりの、夏が始まったとても暑い日だった。






「秋の学園祭に君の絵を出展したい」と恭一が私と祐子の二人の前で言ったのが私たち三人のバランスを崩すキッカケだった。



 いつもよりも()()()()()くらい真剣な恭一。



 妙に声を張り上げて関心する祐子。

 どこを見ていたら良いのかわからない私。



 昼間でも薄暗い恭一の大学。いろいろな種類の絵の具のにおいが()()につっかかる。何回も来ているのに今でも慣れない空気。

 私たち三人の関係が一番緊迫した時じゃなかっただろうか。

 多分これからも、あのピリピリした時間があると思う。でもそれはイヤだった。

 何をどうしていいかわからない時間。あんなのがたくさんつもりつもって色々な関係が壊れて行くのだろうと思った。

 私が感じていた、私たちの微妙なバランスとは関係なしに、恭一の出展作品の制作は始まった。

 いつも三人でいつもと何も変わらない時間だった。

 紙に筆を走らせる恭一、笑ったり走ったり踊らされたり静かにたたずむモデルの私。ひたすら待っている祐子。

 ただ、その微妙なバランスの時間は三日で終わった。




「ありがとう」と恭一はお礼を言った。恭一が、絵のモデルの私に「ありがとう」と言ってくれたのはこれが初めてじゃないだろうか。

 今までの恭一は描いた絵を私に見せてくれた。今回はそれもなく「ありがとう」の一言だけで絵のモデルの仕事は終わってしまった。

「いい絵に仕上げて見せるからさ」そうして恭一はにっこりと笑った。

 それから二週間。私たちが三人で会うことはなかった。恭一からの連絡もない。祐子はどうなのか知らないけども私は少なくとも恭一には連絡していない。

 絵の仕上げに取りかかっているのだろうか。




 二週間。

 私は待った。ただ待っていた。

 学生だろうがなんだろうが水野恭一は絵描きなわけで、絵の製作に取りかかっている時はひたすら待つというのが私にはわかっている。

 親友の沖田広海がそれを教えてくれた。絵描きは絵を描いている時は全く違う人間になる。

 絵描きという生き物になる。

 絵描きが人に戻るまでは待つしかない。ひたすら待つ。それが絵描きとのつきあい方だと私は思っている。

 そして私はその通りに待った。

 そうこうしているうちに夏休みになった。

 祐子は大阪に帰って行った。夏休みだから、彼女は実家に帰省中だ。




 祐子はあっさり実家に里帰りしていった。短い一本の電話「これから大阪に帰るわ」だけで、祐子は東京を離れた。

 去年も、恭一と知り合う前も祐子はあっさりと里帰りをしていたはず。でも私には祐子があっさりしすぎのような気がした。

 私たち三人はバラバラになってしまった。

 ちょっと前まで何をするにも大抵は一緒だった私と恭一と祐子は、とても簡単にバラバラになってしまった。

 恭一は絵にかかりっきり、祐子は実家に帰ってしまって、私は置き去りにされた気分だった。短期のバイトを初めてみたけれども、どうも張り合いがないしつまらないので辞めてしまった。

 三人でいれば何もしていなくても普通に楽しく流れていた時間が、一人だとまったく止まってしまっていた。

 恭一からの連絡は何もない。わかってはいるけど待っているのはとてもくたびれる作業だった。

 祐子は、いつも私が絵を描かれている間にずっとこんなことしていたんだ。祐子ってとても辛抱強い。

 私は、祐子のように辛抱強くなかった。



 私は待つのを止めた。恭一の所に行こう。



 私たちの間に一体なにが起きたのか?私たち三人のきわどいバランスを崩す原因になった、恭一が描いた私の絵がどんなものなのか見たかった。




 そんなに重要なものなのだろうか?

 私たち三人にとって私の絵は?

 私たち三人が連むようになったキッカケを作ってくれたのは私の絵。

 でも私たちをバラバラにさせたのも私の絵だった。

 私の絵は、そんな大それたものなのだろうか?

 それを確かめたかった。

 だから私は動いた。




 まずは電話をしてみた。恭一の携帯へ。そういえば私一人で恭一の携帯に電話をするのは初めてだ。

 ちょっと手が震えてきちゃった。アドレス帳の「ミ」をめくる。

 恭一の携帯、登録もしていなかった。いつも連絡を取っていたのは祐子だった。

 一つ一つ番号を押す。間違っていないかな?

 長い呼び出し中。

 出て欲しいような、出ないで欲しいような。

「もしもし?」

 出た!

「ああ、嵐山さん?」

 恭一は今でも、私の事を「嵐山さん」と呼ぶ。

「今、どこ?」私は「元気?」も「こんにちは」も「久しぶりも」言わずに、どこにいるのかだけを聞いた。

「今?今って学校だけど」

「学校?」と私は聞き返しそうになった。でもやめた。

「わかった、じゃね」一方的に電話をして一方的に電話を切った。

 でも、内心「これで良し」と思った。長々と話をすると、ややこしい事になりそうな気がした。

 用件は短く。恭一がいつもそうだった。

 私は恭一の学校へ向かう。

 恭一の学校に私一人で行くというのは今日が初めてだった。

 電話をするのも初めてなら一人で学校に行くのも初めて。



 夏休み。

 バイトをしたり海へ行ったり山へ行ったり街で遊んだ夏祭りに行ったり花火をしたり見たりする夏休み。

 でも、恭一は学校で絵を描いている。私の絵。学祭に出す絵。



 恭一の学校に向かう電車に乗る。窓の景色をぼんやりと眺めている。今は見慣れてしまった町並みを見ながら思った。

 私は恭一の絵の仕上がりを待っていたわけじゃなかった。

 祐子に対して遠慮があった。一人で恭一の所に行くのはマズいだろうって。

 祐子は今は東京に居ない。



 ズルイ。



 もう一人の私がそう言っているかも知れなかった。でもズルイもへったくれもなかった。

 ただ、もう気が済むようにしよう。私の気が済むように。

 色々ハッキリさせよう。

 私たちは何なのか。

 私と恭一は一体何なのか。それがわかれば気が済む。ただそれだけだった。

「好き」の先に何があるのか?

 だから一人だけで恭一の学校に行った。

読了ありがとうございました。


今後もごひいきによろしくお願いします。

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