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ポートレイト  作者: 岸田龍庵
血の呪いとわたし
20/68

その20

単語が古いです

競泳用水着は今だと「スクミズ」というのでしょうか

古いままにしてあります。

 銭湯みたい。

 カポーン、と音が響いてもおかしくないような、そんな雰囲気が温水プールにはある、と思うのは私だけかな?



 プールに来るのなんて久しぶり。海で泳ぐことはあったけど、泳ぐための場所のプールに来るのは滅多にない。

 水着もちょっと悩んだ。いくら何でも海に行く時と同じ物じゃいかんだろう。と、変に派手な水着で水野恭一を挑発していると思われるのもなんだし。色々悩んだあげくに派手でも地味でもない、あたりさわりのない水着にした。

 水野恭一画伯(がはく)は、こんどは泳いだ後の「水も(したた)る」私を描きたいらしい。

 彼が選ぶ場所ってスポーツ関係が多い。

 今度はサッカーやってくれなんでいうんじゃないだろうか。




 運動は嫌いじゃないんだけどね、泳ぎはあまり得意じゃない。いい加減なクロールと、平泳ぎが出来るくらいで、飛び込みもあまり上手くないんだよね。下手に調子に乗って飛び込みなんかしようものなら、お腹打ってお風呂に入る時にヒリヒリする。

 私の隣のレーンを豪快なバタフライが爆走している。これは祐子。

 祐子がこんな泳ぎが上手いなんて知らなかった。祐子は水中ターンを決めるとまたまた豪快に泳いでいる。

 ここまで来ると「上手い」を通り越して「本格派」だ。人のまばらな夜のプールで祐子はギャラリーの視線を集めていた。



 みんなの視線を集めていたのは泳ぎっぷりだけじゃなかった。

 祐子ったら、すごいおっぱい。服の上から見ても確かに「デカイなあ」と思っていたけど水着になるとこれまたダイナマイト。おまけに競泳用の水着ときているもんだから男たちの変な願望をそそるらしい。

 監視員の場所に座っている水野恭一も祐子ばっかり見ている。とてもわかりやすい男子の反応。

 そういう所は普通の男となんにも変わりないらしい。プールだからか、さすがにスケッチブックは持ってきてはいない。もし、持っていたら「変な人」だと思われるからだろうし。そうでなくても彼は立派に変な人だと思うけど。



 疲れちゃった。



 私はレーンを横切ってプールから上がった。プールサイドの端っこにあるベンチにかけた。

 祐子は祐子で今度はクロールで泳いでいる。完全に水泳モードみたい。もうモデルとかは頭にないみたいだ。

 先週の駒沢公園千五百メートルマラソンの時は祐子が一番ヘロヘロだったのに、水泳だと体力が続くように出来ているみたい。一体、何回ターンしたんだろうか。

 私はしばらくの間、行ったり来たりしている祐子を頬杖(ほほづえ)ついて眺めていた。



「泳がないの?」

 水野恭一だった。

「疲れちゃった」と弱々しく笑って見せた。でも本当に疲れていた。そんなに泳いでいないのに。

「あんまり泳ぎ得意じゃないんだ?」

 ちょっと今日はあまり気が進まなかった。モデルイコール水着っていうのも安直だと思ったし、なんで絵のモデルなのに水泳なのかちょっと意味がわかんないし。祐子が行こうっていうから来たのであって、祐子についてきたのよね今日は。

 泳がないの?なんて言っている水野恭一こそ、泳いだような感じがない。乾いている。ふーん、毛深いんだ。すね毛がぎっちり。

 知らない間に、彼のそんなところを観察している私。

 でも、いいよね。

 水野恭一は私の知らない所で、私を観察していたんだし、私も彼を観察しても構わないでしょう。

 でも、

 なんで、彼の事を観察しているんだろう、私は。



「猪俣さん、泳ぎ上手いね」

 水野恭一は行ったり来たりしている祐子を見ていた。

「水泳でもやってたのかな?」

 そうなのかな?そういえば祐子のことはあまり知らない。というよりも知っていることの方が少ないんじゃないだろうか。知っていることと言えば関西出身で、映画好きだとか。こんなデータはあまり知っていることには入らないか。

「泳いでくるね」

 水野恭一はスタスタ歩いてプールに近づいていった。格好良くすいーっと飛び込むの、かと思いきや、お風呂に入る見たいに静かにポチャンと水にはいると、平泳ぎで、しずかーにレーンの向こうに消えていった。

 サッカーの名選手もあまり泳ぎは得意じゃなさそうだった。

 今日はヒマだ。今日の主役は完全に祐子で、私は出る場所もない。大体これのどこが絵のモデルなのかが良くわからない。これじゃあ、ただ、単に泳ぎにきただけじゃん。

 祐子はまだ豪快に泳いでいた。



「はよ、踊りいや」

「祐子こそ踊りなさいよ」

 今度は困った。とっても困った。真剣困った。マジ困った。

 いくらなんでも今度は無理だ。走ったり、お笑いを見たりするのはまだ出来る。でも、いきなり踊れって言われても。

 ダンサーじゃないんだから。



 水野恭一のご注文は、いよいよ意味不明になってきた。



 お笑いコント、コミックムービー、マラソン、スイミングの次は、ダンスだった。

 いくら何でもそれは無理だ。これまで踊りといえば、それこそフォークダンスみたいなものしかやったことがない。マラソンはなんとかいけた。水泳は祐子の独壇場。なんせ元水泳部だったそうだ

 ダンスは無理。

 この日、水野恭一が用意した場所は、一番最初につれてこられた小さなホール。コントとコミックムービーを見た恭一の大学のホール。最初の時と違うのは私たちがステージに上がっていることだった。恭一は、いきなり音楽をかけて言った。

「さあ、自由に動いてみて!」水野恭一の言葉に私たちは顔を見合わせてしまった。



 自由に動いて、なんて言われたって、

 そんなの無理だ。



 音楽は、なんというかハウスというのかテクノというのかユーロビートというのか。まあダンスミュージック系なんだが、それでも無理だ。それこそダンサーじゃないんだから。

 水野恭一が音楽をかけてからもう十五分。その間私たちは、ただ立っているだけだった。

 それしか出来ない。

「アカン」先に折れたのは祐子だった。「今日はダメや。ダンスなんて踊れへん。今日は降りる」

 言うが早く、祐子はステージを降りてしまった。

「今日は勘弁してえや。ダンスなんてダンサーじゃないから無理」そう、ちょっと吐き捨てるように言って祐子は帰ってしまった。

 祐子が帰ってしまったホールで、水野恭一が持ってきたユーロビートが間抜けに響いていた。

読了ありがとうございました。


今後もごひいきによろしくお願いします。

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