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ポートレイト  作者: 岸田龍庵
血の呪いとわたし
18/68

その18

「一番絵になるのはシュートだよね。でも僕はシュートよりもゴールパフォーマンスの方が好きなんだ」

「なして?」

「サッカーって点が入りにくいスポーツなんだ」

「そうなん?」

「サッカーは点を取るプロセスは色々あるけれど、一点を取るのがとても難しい。その貴重な一点にみんな大喜びする姿が僕には良くわかるんだ」



 水野恭一にしてみればゴールを入れた後の方が絵になりやすい。それがシュートの場面よりも絵になりやすいということか。

 だんだん、謎が解けてくる。水野恭一という絵描きのナゾが。

 絵になりやすいものを絵に描く。

 それが水野恭一という絵描き。

 といっても私が知りたいと思っているほとんどの疑問はわかっていないし、彼の口からも直接答えは出て来てない。




「あなたは私をどのように見ているの?」



 水野恭一が言ったことをそのまま私に置き換えれば、彼は絵になりやすいから私を描いている。絵になりやすい私の場面を描いている、ということになる。

 それが当たっているのかはわからない。

 ただ、今日の水野恭一の話を聞いてみるに、「()()()」ではないだろうということはなんとなくわかる。

 サッカーにしろ、絵にしろ、彼はとても正面からぶつかっているような感じはわかった。




 でも、

 何か違う。私の知っている絵描きとは何か違う。



 私の知っている絵描き。今は日本には居ない私の親友の絵描きは、もっと気分屋だった。

 そう、沖田広海。

 絵になりやすいとか、見栄(みば)えが良いとか、そんな理由で彼女は絵を描いていないはず。

 沖田広海本人も理解できない理由があって、本人には到底押さえきれない衝動があって、絵を描くという行為に突っ走るのだと思う。少なくとも私の親友の沖田広海はそういうタイプの絵描きだった。



 水野恭一は違う。

 何も絵描きはみんなが私の知っているタイプじゃなきゃダメってことはないけど、私には水野恭一が絵を描く理由が解らない。

 サッカーが出来なくなったから絵を描くようになったとしか思えない。別にそれが本人の満足になるのなら私は何にも言わない。でもそれで、そんな理由で本当に満足なんだろうか。

 何故、絵を描くのか?何故、私をモデルに選んだのか?

 それが私にはまったくわからない。




 話せば話すほど、知れば知るほど水野恭一という人間が見えてこない。

 それは水野恭一という絵描きが見えないのと同じだ。

 私が水野恭一のモデルになることに今ひとつ乗る気にならない理由がわかった。同時に私が図書館で絵描きの調べものをした理由もわかってきた。

 多分、こういうことは口で言ってもわからない事だと思うし、言葉では伝わらないような事柄なんだろう。

 でも、伝わってくるはず。少なくとも絵描きという感情優先型の人間だったら何か伝わってくるものがあるはず。

 それがない。

 水野恭一が描く絵がそうだ。彼の描く絵は上手い。写真みたい。

 でも、それ以上のモノが伝わってこない。

 楽しさとか悔しさとか明るさとか暗さとか。

 彼の描く絵の私の絵は、どこからどう見ても私で、サッカー選手はやっぱりサッカー選手。それ以上でも以下でもなかったりする。

 まるで()()()()()みたいに。



 ウチの学校の美術部の部長さんが「絵ではなく写真」と言ったのがなんとなくわかる。

 水野恭一は目の前にあるモノをそのまま映し出してしまう鏡のようだ。鏡は何も言わない。ただ反射するだけ。鏡の前にあるモノをそのまま見せるだけだ。良く見せようともしないし、ウソもつかない。ただ、ありのままを反射するだけだ。

 水野恭一本人もそんな感じがする。

 水野恭一からは何も伝わってこない。水野恭一のことを、彼の描いた物を見たり、聞いたりすればするほど彼の姿が見えない。鏡の先にある彼の姿が見えない。

 見えないというよりも透明なのだろう。私には透明に見える。キレイに透き通っていて何も見えない。




 私の友達の沖田広海はいろいろな色をしていた。赤だったり、白だったり、まぶしく光っていたり、黒い時もあった。

 でも、水野恭一はいつも透明だ。

 透き通って何も見えない。彼の姿がどこを探しても見つからない。

 ふと思った。

 どうして私は水野恭一の姿を探そうとするのだろう?どうして私は彼の姿を見たいのだろう?

 これって、水野恭一に気があるってこと?

 私のもやもやとした心とは別の所で、元サッカー選手の水野恭一と、にわかサッカー通の祐子は外国のサッカー話で盛り上がっていた。

読了ありがとうございました。


今後もごひいきによろしくお願いします。

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