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ポートレイト  作者: 岸田龍庵
血の呪いとわたし
17/68

その17

物事を始める続けるにはいろいろ理由があります。


写真のような絵を描く水野恭一にも、絵を描く理由があります

「なんで、これって叫んでいる絵ばかりなのかな?みんな叫んでばっかり」

「ホンマや」言いながら祐子はさらにアルバムの先をめくる。

「みーんなゴールパフォーマンスばっかりやん」

「ゴールパフォーマンス?」

「せや、サッカー選手はみーんな点入れたらスゴイ喜ぶんやで、もう頭おかしいんちゃうかってくらい喜ぶんや。見てると結構おもろいで」などと言った。

 ふ~ん。それじゃあここにある絵のほとんどは点を取った後の絵なわけか。でも、どうして「シュート」じゃなくて「ゴールしてみんな大喜び」のほうの絵を描くのだろう。



 やっぱりスポーツだったらプレー中でしょ。

 特に格好いい絵を描くとしたらシュートってことになるんじゃないのかな?

 不思議。

 絵が上手いというのは分かるけど、その絵を描く対象の選び方が良くわからない。

 何かしら理由があるとは思うけど。



 ポーン、ポーン。



 と、音が近づいてくる。どう聞いてもボールを蹴ったり叩いたりしている音だ。

 音は廊下を通って部屋に入ってきた。水野恭一と一緒に。

 サッカーボールを上手い具合に足でお手玉?しながら水野恭一は入ってきた。

 ボールは右足、右膝、左太股、左足、ポーンと蹴り上げられて頭、スルリと滑り落ちて背中、背中からさらに滑り落ちで左の踵から蹴り上げられて、また左太股に戻ってくる。その動きに見とれている間に、水野恭一は私たちの正面でボールをお手玉していた。

 私と祐子は水野恭一の曲芸にすっかり見とれていた。ボールはまるで体とゴムヒモでつながっているみたいに彼の周りを飛び跳ねている。

 ポーン。

 高く蹴り上げられたボールは天井すれすれまで上がって落ちてくる。ボールの落下地点に振りかぶっている水野恭一の左足があった。

 私と祐子は思わず、身を寄せ合った。

 この(ひと)、シュートするつもりだ。ところが振りかぶった左足は思い切り空振りした。床にバウンドしたボールは水野恭一の手の中に収まっていた。



 ポカン。

 そんな間があった。



「うまいやん」ポカンとした間を縮めたのは祐子だ。

「サッカーやっとたん?」

「高一までね」そういって水野恭一はまたまたサッカーボールを足でお手玉しはじめた。「学校もだけど、自分でも結構イイ線行ってると思ったんだよ」そして彼はボールを左足の甲に乗せた。上手くバランスを取っているからかなかなか落ちない。

「いろいろあって辞めちゃったんだ」



 ふ~ん。

 サッカーと水野恭一の間には、そんな接点があったんだ。あれだけお手玉(リフティングとか言うんだよね)が上手いのも納得がいく。

 でも、そんなに上手いのに、どうして辞めてしまったんだろう。なんで絵描き転向したのだろう。

「なんで辞めたんサッカー?」と、ズケズケ聞けるところが関西人なんだろうか。確かに彼のボールの扱い方を見ればそうとう上手なサッカー選手だったのは想像出来る。でも、辞めたのにはなんか理由があるわけで、それは成績に響くとか、ケガをしたとかいろいろ詮索されたくない部分のはず。

「相手チームのディフェンダーにものすごいタックルをされて、足首を壊してしまったんだ。それが響いてね。復帰したときには浦島太郎だったんだ」




 私の心配とは関係なしに話は進んでいく。

 水野恭一もボールをお手玉しながら言うものだから、悲壮感がない。

 お手玉に合わせてリズミカルに言っている。

 それに足首を壊した、なんて簡単に言っている。「壊された」の間違いじゃないのかしらん。

「それっきりサッカーはやれなくなったんだ。やっても自分が思い描くプレーができないからね。だけど、諦めきれなくてね、試合ばっかり見ていたんだ。そんな時にふと、絵を描いてみたんだ。サッカー選手の絵をね。それが始まり」


 大好きなサッカーを続けられなくなった。

 でも、サッカーは好きだ。

 そのサッカーを、()()書いた

 それが、水野恭一が絵を描く理由だと、彼本人は言った。



「でも、相手チームの人恨んだりしたやろ?」

「とんでもない」言ってから水野恭一は手の中にボールを収めた。

「後で聞いたら、そのディフェンダーはこう言ったんだ。『水野のドリブルを止めるにはファウルをするしかなかったんだ』って。それってスゴイ誉め言葉だよ。もう反則をするしか止めることが出来ないっていうんだからね」水野恭一は言った。

「むしろ俺を止めたディフェンダーの方が気の毒だったね。それから彼はタックルすることが怖くなって結局サッカーを辞めてしまったというからね。

 確かに、大ケガでサッカー出来なくなったのは残念だけど、そこから先に僕は絵を描くっていう楽しみを見つけることが出来たんだ。

 もし、僕がサッカーを続けていれば、ここにはいないからね」



 う~ん。

 なんていうのかお坊さんのお説教みたいに関心するんだけど、なんていうのかな、感情がこもっていないっていうのか。

 私たちと感情の次元が違う人と話しているような感じ。 そりゃ、確かに人生、一つでもかけるボタンが違っていたら私はここにいいないし、祐子とも友達になっていないんだろうけど、そうじゃないでしょ。

 なんかもっとあるだろ。

 水野恭一の口から出てくる優等生な発言がどうも気に入らない。

 というよりも彼の優等生な発言が、出てくれば出てくるほど彼の、水野恭一という人物が見えてこないっていうのかな。



 だって、もしかしたら、相手にケガさせられなかったら、サッカーを辞めるようなことにならなかったら、この絵の中で叫んでいるのは自分かも知れないんだよ。



 もしサッカー続けていたら美大にいなくて、有名なサッカーチームで、自分の叫んでいる顔が全国中継で流れているかもしれないんだよ。

 悔しくないのかな。悔しいだろう普通?

 その「たられば」を他人事のように喋る水野恭一の心の動きがわからない。

「なんで、シュートはないの?」

 またしても私の頭の中とは別の次元で行動している祐子は話しを進めてしまっている。

読了ありがとうございました。


今後もごひいきによろしくお願いします。

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