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ポートレイト  作者: 岸田龍庵
血の呪いとわたし
16/68

その16

この章は、ややたるいです。たるみの部分です

なので、こういう章タイトルにしてみました

 美術室に入ったのなんて一体どれくらいぶりだろう。図書室同様に私にはあまり(えん)のない場所だ。

 しかもこの美術室は超有名美大の美術室。

 ちょっと()()()()ではない感じもする。

 それにしてもカビ臭いっていうのかな、絵の具の臭いなのかな、この臭いは。広海の部屋も奇妙な臭いがしていたけど、それともまた違う。



 部屋はガランとしていた。テーブルはなかった。壁に沿って椅子が並んであって、部屋の真ん中に石膏(せっこう)の模型がある。

 ギリシャ彫刻みたいなの。それが無造作に置いてある。

 無造作に置いてあるとしか私たちには見えないのだけれども、何か芸術的な意味があるんだろうなって思ってしまう。

 それだけ美術室とか美大ってところは、なんか普通ではない空気がいっぱいだ。



 来てしまった。

 祐子が言った「今度」の場に。

 ま、(ひま)だからいいんだけれど。最近見たいと思うような映画もやってないし。

 結局の所、どっちでもいいわけだったりする。

 祐子に「来るよね?」と、さも行くのが当たり前のように言われてしまったし、特に断るようなことでもないから来ただけだった。それに今日は絵のモデルという話はないし。



 今日の待ち合わせ場所は水野恭一の絵を描く作業室。

 祐子と私の、

「どうして速く絵を描くことを身につけられたのか」と言う疑問に応えてくれる場所がここだった。そして私達は10分くらい待っている。

「静かだね」

「うん」

 ここの学校はいつ来ても、どこに行っても静かだ。

 人がいない静かさじゃなくて、人がいるのだけれど静かなのだ。ザワザワしたところが一つもない。

 変な例えかも知れないけど、私たちの通っている普通の大学はロックバンドのライブハウスで、ここの美大はクラシックのコンサートホールみたいな雰囲気。こんな所なら芸術も簡単に出来るんだろうな。と言うより、こんな所だからこそ芸術が出来るんだろう。




 なんてことをぼんやり考えていたら、部屋の奥の方から水野恭一が出てきた。

 なにやらアルバムみたいなものを何冊も抱えている。

「おまたせ」結構重たいらしい。声が苦しそう。それを私たちの足下にドサリと置くと、「ちょっと見ていてくれる?」そういって今度は美術室の外に消えてしまった。

「行っちゃった」

「行ってもうた」

 相変わらず水野恭一の行動は素早い。

「見ていい、言うてるから見よ」祐子は水野恭一が置いていったアルバムみたいな分厚い本を手に取った。私も手にしてみる。

「アルバムや」

「アルバムだね」

 こういう時にスケッチブックとか出してくれると「やっぱり絵描きなのね」と思うけれども、出てきたのはどうみても「アルバム」。

 それも写真を収めておく上等な代物。

 とはいえ、このアルバムの中に答えはあるわけだから、さっそく見てみることにした。



 アルバムには写真は入っていなかった。絵が張り付けてあった。

 ペンか鉛筆だけの簡単な白黒の絵。描いてあったのは男の人だった。

 縦縞のシャツを来て半ズボンの男の人が口を大きく開けて、両手を広げて走っている。年齢は、私たちと同じか少し上くらい

 不思議なもので、白黒の絵なんだけれどもパッと見色つきの絵のように見える。

 青と黒の縞々のシャツを着た男の人。

 絵と言ったけど、やっぱり絵よりも写真って感じがするのはどうしてだろう。



 その次のページは、やっぱり男の人で同じ服装の、同じ男の人の別の、大きな口をあけて叫んでいる様子だ。

 やっぱり絵よりも写真に見える。

 連写というのだろうか。同じ人の動きを一定の間隔を置いて描いている。

 とてもリアルで、私や祐子に描いて見せたような簡単さはどこにもなくて、線も沢山引いてあって、本当に写真のように見える。表情、動作、どれをとっても今にも動き出しそう。

「上手いねえ」思わず言葉が出てしまった。

 そんなことを簡単に言わせてしまう、上手い絵が続いている。




 どれもリアルな叫ぶ男たち。喜ぶ男たち。多分、何かのスポーツ選手だとは思うのだけれど、それが何かわからない。

 野球にしてはバットを持っていないし、ラグビーの人にしてはシャツの縞模様が違う。

 確かラグビーは横縞のはず。

 この絵の走っている人のシャツは縦縞だ。走っているけれども陸上選手のユニフォームには見えない。

「これ、サッカーやん」と言ったのは祐子。

 サッカー?言われてみればサッカーに見えなくもない。走っているし、バットも持っていない。でも、肝心のボールが見えない。

「そうなの?」パラパラとアルバムの先をめくっていくと、あった。ボールがあって、右足を振りかぶっている男の人。

「サッカーだね」納得した。

 今にも「シュート」って、テレビの実況が聞こえてきそうな感じの絵。


「祐子、良くわかったね?」

「兄貴がテレビ占領して見てたから、しゃーないから見てた」言いながら祐子はパラパラとアルバムの続きをめくっていた。

 サッカーをする人の絵がアルバムを埋めている。

 しかし見れば見るほど写真に思えて仕方がない。

 スポーツ新聞の紙面を飾っていても全然違和感がない写真のような絵。

 水野恭一が描く絵は、白黒なのに不思議と色があるように見える。

 黒はもちろん、服の色もなんとなくわかってしまうのは、ただただ不思議だった。



 サッカーなんて全然知らない。

 でも、サッカーを知らない私でも、スポーツの躍動感みたいなものはとても良く伝わってくる。

 さらにめくって見る。出てくる出てくる、サッカー選手のオンパレード。

 ただ、不思議なのは顔をくしゃくしゃにして喜んでいたり、飛び跳ねていたり、同じチームの人と抱き合っている絵ばっかり。

 試合中の、さっき見たような「シュート」の絵はほとんどない。

 かと思えば同じチームの人同士で肩を組んで、とっても真剣な顔の絵がたくさんあったり。


 どうせ描くならシュートの方が格好いいと思うのは素人考えだろうか?

読了ありがとうございました。


今後もごひいきによろしくお願いします。

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