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ポートレイト  作者: 岸田龍庵
笑顔のわたし
12/68

その12

「これから、舞台と映画を見て欲しいんだけど」


 舞台?映画?


 祐子はこっちを向いて「わけわからん」って顔をしている。

 なんでそんな物を見せられるのだろう?モデルにするために呼んだんじゃないの?

「モデルは?」聞いたのは祐子だ。

「今日は最初だから、舞台と映画を見てもらいたいんだ」とまたもや訳の分からないことを言った。

 どういうこと?



 スッと電気が消えた。真っ暗だ。

 私は思わず中腰になった。いつでも逃げ出せるように。

 祐子は大丈夫?

 明かりが点いた。舞台が映し出される。出囃子みたいな音楽が流れて、ステージの左右から小さな男と大きな男が出てきた。

「どーも、石けんシャンプーで~す」

 石けんシャンプーと自己紹介した男達は、コントを始めた。



 私の「どうなっちゃうんだろう」という心配をよそにコントは勝手に進んでいき、それはそれで結構おもしろいコントだ。

 私は椅子に座り直した。これはおもしろい。よくある日常をネタにしている。最初はクスクスだった笑いが、そのうちに膨らんできて私は大きな声で笑っていた。

 石けんシャンプーというコンビのネタは大爆笑のうちにあっという間に終わってしまった。コントが終わるとホールに明かりが点いた。



 コントの間、私はずーっと笑っていた。

「おもしろかったねえ祐子」

「全然、おもろないわ」ブスっとした祐子の声が帰ってきた。

「つまんなかった?」

「関東の笑いはおもろないわ」と言ってきた。そんなもんかなあ。


 でも、コントを見るのがどうして絵のモデルになるんだろう?第一、肝心の絵描きの水野恭一がどこにもいない。

 と、思っていたら、また場内が真っ暗になった。

 次に明るくなったときにはステージに降りているスクリーンにカウントリーダーが映っていた。

 始まったのはコミックムービー。これもかなりおもしろい。くだらないおもしろさにあふれている。 

 関東のお笑いはおもしろくない、なんて言っていた祐子もツボに入ったらしい。笑い声が聞こえる。



 笑いの時間があっという間に終わった。私たちはすっかり映画館帰りみたいな気分になっていた。

 ホールを出ると、もうすっかり夜になっていた。

 とっても上機嫌のまま、私たちは超有名美大から帰った。

 水野恭一のことを思いだしたのは祐子と別れて、一人で家まで帰る途中の電車の中だった。





「昨日、黙って帰っちゃったね」

「うん。でも、おらへんかったから、しゃあないで」

 初めて水野恭一に呼び出されて超有名美大に行った次の日。私と祐子は学校へ向かうバスの中でこんな会話をした。

 コントとコミックムービーが終わった後のホールには、私たちしか居なかった。そしてすっかり忘れていた。水野恭一のことを。



 ちょっと気になるかな。



 水野恭一は「絵のモデルになって欲しい」ということで私たちを呼んだハズ。

 そのくせ私たちはモデルらしいことは何一つしないでゲラゲラ笑って帰ってきただけだ。それこそ何をしにいったのか?お絵描き手品師水野恭一は何をしたかったのだろう?



 気になる。とても気になる。

 考えれば考えるほど気になる。

 なんで気になるのかはわからないけど、とにかく気になる。



「ねえ」隣で吊革につかまって揺られている祐子に「今日、行ってみない?」と言った。

「どこへ?」

「昨日の大学」と私は言った。どうしても「()()()()()()()()()()」と言う言葉が出てこない。

「なして?」

「だって気になるでしょ?結局、私たち何しにいったのかって。どうしてあんな展開になったのか気になるでしょ」

 私の言うことを祐子は「ふんふん」と聞いている。どう見ても上の空だ。

「気になるねえ」祐子はニヤリとした、ようにみえた。

「なによ」

「気になるって、水野って子のことが気になってるのちゃうの?」



 どうしてこうもズケズケとものを言うのだろうか祐子は。

 確かに気になる。気にならないというほうが間違っている。だからといって水野恭一という人間に興味があるといったら大間違い。

「あのねえ、祐子。私はあの水野恭一って男に興味があるなんて言ってないよ」

「私もそんなこと言ってへんで」

「ともかく、私はモデルにされてどうなったか気になるから行くのよ」

「はいはいわかってますよ」

「祐子も来てよね」と私は言った。

 すると祐子は目をまあるくさせて、

「何で?私も行くの?あんたやろモデルにされとるのは?」と口撃してきた。

「いいから来るの!すっぽかしたら怖いよ私!」とちょっと怖い顔をしてみた。

「関東人はムチャクチャやわ」などと祐子のボヤキが聞こえた。




 そうなのだ。モデルにされているのは祐子ではなく私なのだ。

 とはいえ、その私も本当に絵のモデルになっているのだろうか。

 別に描かれていなくても困りはしないけど、ヘンな絵を描かれて、それをあちこちにバラまかれるのも困る。

 なんせ私には「血塗られたマリア」っていう最低最悪の前例があるから気になる。

 あくびの絵と改札を通る絵を見る限りは、血だらけに描かれていることはないだろうと思う。



 けど、



「ねえ祐子。私って、どうみえるのかなあ?」

 祐子はちょっと真顔で私の横顔を見ていたらしい。

読了ありがとうございました。


今後もごひいきによろしくお願いします。

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