その11
久方ぶりに、前作?の絵描きさんの名前が出てきます。
とはいえ、本作の主人公と絵のつながりは、それしかないのですが・・・
住所しか手渡されなかった私達がたどり着いた先は、日本で超有名な美大の門だった。
大学そのものが画家の登竜門みたいな場所。
あの手品師が、ここに通っているのだろうか?
「あのアンちゃん、実はメッチャすごいんちゃうの」
「そうかもね」よくよく考えて見れば手品のように見えるけど、その速描(ハヤガキ?それともソクビョウ)はとんでもない特技だろう。あれを見せられて驚かない人間はいないはず。
やっぱり、この有名学校の門をくぐれる人間はタダモノではないのかも。
「ちょっと電話してみるわ」と教えられた番号に電話をする祐子。もちろん相手はタダモノではない手品師のはず。
祐子が電話をする声がぼんやり耳に入ってくる。
見上げる有名美大。なんか門の柱とか看板とか見える物がみんな高級に見えるのは気のせい?
そういえば広海はここ落ちたんだよね。
今は日本を飛び出して絵の勉強に行っている沖田広海のことを、なんとなく考えていた。
私は広海が一時期この大学を目指していたのを知っているから、この大学がどんなに敷居が高いところかがわかっている。
多分、あの水野恭一ってのは簡単にこの高い塀を乗り越えていけたのだろう。あの私と祐子の似顔絵を描くみたいに簡単に、あっさりと。
反対にこの高い壁に跳ね返された広海は日本じゃない場所で絵の勉強をしている。
その広海の友達の私はなんの苦労もなく、この大学までやって来る事が出来た。
人生って変だ。
「ほら、ボサっとしてんと、行くで」祐子に腕を引っ張られて有名美大に入って行く私。
正門から長く伸びる道は高い街路樹が植わっている。道路だけじゃなくて、この学校は緑にあふれている。
学校の中に緑があるのではなく、緑の中に学校がある感じ。ちょっとひんやりする校内を歩いて行く。
もう三時過ぎだからだろうか。すれ違う人が少ないし、私たちと同じ方向に歩いている人もあまりいない。森の中の道が開けて噴水がある広場になった。
「ここで待っててやて」と、祐子は噴水の縁に座った。なんか、祐子だけこの大学に通っていて、いつもこの大学の誰かと待ち合わせているみたい。
私は祐子の隣に座った。
背中の方からから水の流れる音がして頭の上からは木漏れ陽がふんわりしている。本当に森の中に居るみたい。
森林浴って感じ。ほとんど音がない。都会にあるはずなのに、車の音しないしも街の匂いもしない。
眠くなって来ちゃった・・・。
「お待たせ」ハキハキした声だった。目を開けるとそこには水野恭一が立っていた。ちょっと眠っていたみたい。
私と祐子は立って、私は大きく伸びしてからあくびした。
「いっつもあくびしてるね」私に向かって水野恭一は笑った。
「気持ちいいね、ここ」思わず感想が出た。
「ウチの大学、いいとこにあるでしょ」
確かに。こんな緑がたっぷりで静かな環境なら、さぞかし良い絵が描けるだろうね。
「んじゃ、移動」水野恭一は先を歩き始めた。私と祐子は水野恭一の背中をついて行く。
この人、あまり背高くないんだな。そんな背中。
私たちとそんなに変わらないかな、なんて水野恭一の背中を見ながら歩いて行く。
ところで、どこにつれて行かれるんだろう?
私達って随分簡単にヘコヘコついて行っているけど大丈夫なんだろうか。
特に祐子。何の疑問もなしに水野恭一の横に並んで話なんか始めちゃっている。
意外と警戒心がないんだね祐子って。
そんな私の頭の中にある心配事などお構いなしに、祐子と水野恭一はスタスタ歩いて行く。
大きい建物が見える。講堂らしい。
やがて彼は講堂の中に入っていった。私たちも後を追う。
そこは講堂じゃなかった。舞台があって、スクリーンがあって、客席がある、ホールだった。そんなに大きくはない。小ホールといった感じ。薄暗い照明がついているだけだった。
ちょっと嫌な感じ。
「路地裏の天使」を見た中野のミニシアターに似ている。
「見やすいところにかけて」ホールいっぱいに水野恭一のハキハキした声が反響する。
祐子はセンターのど真ん中、一番見やすい所に座った。
私はというと、出入り口に一番近い席に座った。
こんな所までヘコヘコついてきて今更警戒するのはおかしいのだけれど、一応いつでも逃げることが出来るようにと思った。
「京子、ここおいでえ」ど真ん中の席から祐子が手招きをしている。
「祐子こそ、こっち来なよ」反対に私は祐子を手招きした。
「何にもないよ。大丈夫だって」
本当に、祐子って警戒心ゼロなんだから。
大体、絵のモデルでしょ?それがどうしてこんな薄暗いホールになるのだろう。位中で絵なんて描けないでしょう?
密閉した空間に私たちしかいないというものちょっと怪しい。今、たくさんの男の人が押し寄せてきたら祐子はどうするつもりなんだろう。
「席は、そこでいい?」
水野恭一はステージの真ん前に立って私に向かっていった。
私は、頷くしかなかった。
読了ありがとうございました。
今後もごひいきによろしくお願いします。




