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ポートレイト  作者: 岸田龍庵
笑顔のわたし
10/68

その10

男女の古典的なギミック「三角関係」、が物語を動かしていきます

「やっぱ帰ろうよ」と私が言うと、

「またあ?あんたも観念せえへんねえ」と返す祐子。

 もう何回こんなやりとりを繰り返しただろう。



「ええやん、モデルになるくらい。減るもんちゃうやろ?」

 そりゃそうだけど。確かにそうなんだけどね。



 私と猪俣祐子は水野恭一の大学に向かっている。

 モデル。

 手品師みたいな絵描きの水野恭一が、ストーカーまがいの騒ぎを起こして、私に頼んだ厚かましいお願いというのが、モデルになってくれということだった。祐子を連れ立って、水野恭一の大学に向かっている途中。



 祐子は手品的似顔絵師の水野恭一にすっかり興味を持ったらしく、自分がモデルじゃないのをいいことに、すっかりお気楽モード。

 完全に遠足状態。関西出身で東京が地元でもなんでもない祐子には行動範囲が増えることが楽しいのだろう。

 私はと言えば、最初からあまり乗る気じゃない。かといってキチンと断ったかといえばそうでもない。



 私は「路地裏の天使」で主役なんてものをやってしまってからというもの「役者」とか「モデル」といったもの、「自分が見られる側に立つこと」にちょっと敏感になっている。

 まさか「血塗られ」の私を水野恭一が描くとは思わないけど、そもそも私がこうして水野恭一の大学への道を歩いているキッカケになったのは「血塗られたマリア」なわけで。



 どうも、しっくりこない。



 私の中にある乗る気じゃないものの一つに、この「しっくりこない」というのがある。

 単純に「しっくりこない」だけなんだけど。でも、その「しっくりこない」のが結構重要だったりする。

 というよりしっくり「くる」「こない」が一番重要なんじゃない?どんなことでも。

 心のどこかには「モデルやってもいいかな?」なんて思ってる部分はあるけれど、乗る気じゃないのはやっぱり変わらない。



 もう一つ、乗る気じゃない理由は、

 何故、私か?ということ。



水野恭一は「笑顔の嵐山京子が描きたい」なんてとってもキザな事を言った。キザでもウソでも何でもいいんだけど、あの言葉が私に「モデルをやってもいいかな?」なんて思わせている一言だったりもする。

ともかく「何故、私か?」という事は今はわからない。

「ねえ祐子?」

「ん、なに?」祐子、顔が緩みっぱなし。そんなに楽しいのかな?

「何で、私をモデルにしたいのかな?」と私の中にあるもう一つの載る気じゃない理由を聞いてみた。

「そりゃ、キレイやからやろ」祐子はふつうに言った。

「キレイ?」

「そうや、京子キレイやで、赤毛やし、背高いし、目立つしなあ」そんなことを祐子は簡単に言った。

「あんた自分がキレイやて知らんかったん?」と付け加えた。



 自分がキレイかどうかはともかく、祐子が言うように私は目立つ。背が170センチよりもあれば目立って当然だ。もっとも「私は背が高い」と言った祐子も女子にしてはそこそこデカい。


 私が目立つ一番の原因は生まれついての赤毛だった。

 子供の頃に見たテレビアニメの「赤毛のアン」みたいにあんなにも赤くはないけれど、それでも私の髪の毛は黒くは見えない。

 光に髪の毛を透かして見るともう赤毛そのもの。ウチの家族は全員真っ黒の髪なのだが、どういうわけか私だけが赤毛だ。

 生まれつきの赤毛のおかげで、小学校は「アン」とかいうあだ名で呼ばれるし、中学、高校は怖い上級生に呼び出されて、つまらない言いがかりをつけられたことは多々ある。

 イジメっ子でもイジメられっ子でもなかったけど、目立つ子だったのは確かだった。

 もし、水野恭一が私が赤毛だからモデルにしたいと思ったのなら、それもまた複雑だった。なぜなら私は自分の赤毛が大嫌いだったから。



「絵のモデルなんてやったことないよ」ボソリと言った。「どうすんだろ」

「こーんなんしてポーズするんちゃう?」と祐子はなんだかセクシーなのかそうじゃないのかわからないポーズをして見せた。

「あとヌードとか」

「ヌード?」そんなの冗談じゃない。

「やっぱ帰ろうよ」

「大丈夫やて、そんなことあらへんよ」

「そんなことわからないじゃん」

「あの水野って子に限ってそんなことせんから大丈夫やて」

 人ごとだと思って。

 なにが「ダイジョブ」なんだろうか。

 祐子のこの自信はどこからくるのだろう?

 それにやけに水野恭一の肩を持っている。



 なんてやりとりをしていたら着いてしまった。

読了ありがとうございました。


今後もごひいきによろしくお願いします。

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