15 交代
魔導士たちに一通り魔法を教えると、防壁近くの魔物を壁の上から撃って行くよう指示をする。
防壁を守る兵士たちは、壁の上にハンターたちを上げることに良い顔をしなかったが、「では、あなたたちが門から出て敵を倒してきてください。」と言われて、不服そうな顔をしながらも、渋々了承した。
さらに、優喜は自分たちは外に出て魔物討伐をするので、出入りする時には開閉するよう要求したところ、兵隊長から猛反発を受ける。
門の開閉はこの町の兵士が領主より預かっている権利であり、他の町のハンターなどの指示で行えなどと言うのは、屈辱極まりないことなのだという。
「私は、王太子殿下より直々にこの町を救うよう言われています。ですから、領主様を含めて、この町に住む方々の生命や財産を守るために手を尽くします。しかし、誇りまでは守れません。それはご自分たちでどうにかしてください。できないなら、諦めてください。」
本来の優喜たちの所属や身分はハンター組合のプレートが示す通りであるのだが、それでも少なくとも優喜たちの着る服が王宮支給の正規の兵士や魔導士のものであることもあり、王太子の名前まで出されては、もはや拒否することはできない。
しかも、芳香の持っている予備の紹介状の封印は紛れもなく王族のものであり、王太子の名を騙っているとも思えなかった。
優喜たちは昼食を済ませてから魔物狩に向かった。北門から出て、ざっと付近の状況を確認しながら魔物を狩っていく。領主邸に置きっぱなしの荷車を取りに戻るのも面倒なので、素材取りはせずに全て焼き払っていく。そもそも、荷車には夜営用の毛布などを積んであるため、狩った魔物を載せるには荷物をどうにかしなければならない。
夕暮れまでに十五匹を仕留めて町に戻り、ハンターや兵士を集めて報告を受ける。
壁の上に配置されていた魔導士たちは合計四匹を仕留め、一匹に逃げられたらしい。
「意外と魔物の数は少ないですね。門を閉じた時と比べてどうなのでしょう?」
「少ない? 畑周辺だけで百九十六は超えていると思うが……」
「魔物の種類は違いますが、王都の周辺で狩った魔物は既にギムシュイを超えていますよ。そこから比べると圧倒的に少ないですよ。」
兵士も魔導士もその数に絶句する。
「あれと同等のがこちらにも来ていたら、正直言って手の打ちようが無かった、というか、とっくに町ごと全滅していたんじゃないかと思うんですけどね。あの数がまとまって襲ってきたら、門も防壁も役に立たないですから。」
優喜は、先日の大規模集団戦で、数百匹が踏み台になって数メートルの段差を乗り越えてきたのを見ている。同じことは防壁に対しても可能なはずで、そうならないように、町に近い方から片っ端から狩り、死体は焼き尽くしている。王都周辺で狩った数は一万に届きそうなほどである。これがまとまって襲い掛かってきたら、王都も陥落しかねない。一匹の強さはこの町の周辺の魔物に及びもつかないが、その数は圧倒的で、対処を間違えていたら一気に総崩れとなっていたのは想像に難くない。
それと比べると、全体としての数も少なく、大きな群れも作らないこの辺りの魔物は、硬いウロコを突破さえできれば大した問題ではないと優喜は言う。
脅威なのはその防御力だけなので、それを上回る火力の魔法を授けた以上、援軍など必要ないというのが優喜の判断だ。レベル二以上の火、あるいは水属性の魔導士は総勢三十二人。一人あたり七匹も狩れば片付いてしまう。
しかし、優喜に援軍は不要と断言されて、士気は低下している。これは優喜にとっては想定外だったようで、珍しく困った顔をしている。
「皆さんが一致団結して魔物を駆除すれば、大丈夫だと言っているんですよ? 援軍などなくても勝てるから呼ぶ必要が無いと言っているんですよ? 一つ言っておきますけど、この町の状況で援軍を要請して、それで片付いたらあなた達の立場は無くなりますよ? やる事をやらずに人任せにした無責任な奴らって。苦しいのはこの町だけではないのですよ。自分たちの手で守りましょうよ。何故それがそんなに嫌なのです? 別に命を賭ける必要も無いってのに。」
「命を賭ける必要が無い? 何人死んだと思っている?」
「そんなの知りませんよ。 策も無く、団結もせずに動けば負けるに決まっているじゃないですか。隊長さんやハンター組合の偉い人のせいじゃないですか?」
隊長は怒りに身を震わせて優喜に食ってかかるが、このような言い合いで優喜に勝てるはずが無い。あれやこれやと引き合いに出し、比較し、悪い、悪い、悪い、悪い、と物凄い勢いで悪い点を積み上げていく。
「あれもこれもそれも間違っているのに、それで何故、自分は悪くないと思うのですか?」
顔を真っ赤にして今にも優喜に掴みかからんとする隊長だが、その部下たちは動揺の色を隠せない。
「後ろをご覧なさい。今、部下があなたをどんな目で見ているのかを。」
言われて隊長は振り返り、部下から不満と失望の目を向けられているのを知り、その表情を固くする。尊敬の目で見ている者など誰一人としていない。
名誉の戦死という扱いだった同僚たちの死を、優喜は無駄死にだと断言した。その時点では、兵士の怒りの目は優喜に対して向いていた。しかし、それに対して隊長は、部下の名誉を、功績を、何一つ説明できず、「自らの保身のため」あるいは「何も考えていなかった」以外の理由を示すことができなかった。これでは部下の心が付いてくるはずが無い。
「選びなさい。一兵卒として私の下につくか、ここで首を刎ねられるか。」
優喜は剣を抜く。
「部下の命よりも自分のプライドを優先したのです。自分の命よりも優先して見せなさい。」
「よこせ!」
隊長は部下の持っていた槍を奪い取り、優喜に向かって繰り出す。
優喜はその槍を剣で払い落して一気に踏み込み、振り下ろした剣を振り上げざまに首を薙ぎ切る。以前、昇級試験の際に芳香がノキチェイに対してやってみせた動きそのままである。ただし、芳香は寸止めしたのに対し、優喜は剣を振り抜いている。
悲鳴を上げて理恵と茜が目を背ける。
「嫌なものをお見せして済みません。」
芳香は、隊長の遺体を仰向けにし、転がる首を元の位置のあたりに置き、目を閉じさせる。
「さて、あの魔物を狩るのに命を賭ける必要はありません。まず、先に言っておきますが、私の戦い方は、敵を近づけさせない、攻撃させない。そして一方的に攻撃する。これが基本です。多少の犠牲など認めません。全員、生きて、この町を守り抜いてください。」
兵士もハンターも戸惑いを隠せない。が、優喜はそんなことはお構いなしに取るべき行動を与えていく。
まず、所属関係なく、能力別に隊を組み直す。槍、斧の近接七人と魔導士四人で一小隊として、それを七小隊作る。残り四名の魔導士はそれぞれ南と北の門の守りにつき、兵士はいくつかのグループに分けてそれぞれの役割を与える。
門の内側に補給所を設営し、さらに、壁や櫓に立ち周囲の警戒をさせる。門衛、情報班と分けていき、明朝日の出とともに門を開けて討伐隊を出撃することとした。
今日の所は、見張り以外はゆっくりと休み、英気を養うようにと伝える。
全ての説明が終わったところで、優喜は隊長の遺体に火を放とうとして、さすがに兵士たちに止められた。
火葬文化はあるとのことだが、教会できちんとお祈りを捧げてかららしい。
隊長のことを尊敬していたという者たち数名が埋葬を進めることとなった。




