10 意地でもお風呂曜日
稲峰高校一年五組の七級チームは今日も朝からウサギ狩に出ている。
四級の弓士のエモウテミは、武器を失っていることもあり『ヤマト』についていかずこちら側に来ていた。とはいえ、彼女は索敵以外何もしない。それでも、流石に四級なだけあって、自分が扱わない武器や魔法についてもある程度の知識は持っており、色々と話をしている。
彼女のウサギの解体の知識によって、不要な部位を棄てて軽量化を図ることで荷車に積める数が一台につき十匹程度まで増えるなど、彼らにとってもエモウテミの同行は色々とメリットが大きい。
ただし、解体は手伝っても、運搬には彼女は手を出さない。
特にメシアの面々から不服の声が上がるが、エモウテミはウサギの運搬は七級の基礎訓練の一つとして取り合わない。
一人一匹くらい普通に運べて当然で、数人で一匹を運んでいて辛いと言うならば、なおさら訓練に励むべきだと断じる。
手を貸すのは、一人一匹担いで、それでも持ちきれない場合だけだと突き放される。
そもそも、彼女の食費など生活費はヤマトが負担しているため、彼ら七級チームへの負担は実質的に無い。
一回の狩で二十八匹のウサギを狩るようになって収入も増えて喜んでいたのだが、突如、一日に買い取るウサギの数は二十八までと制限されてしまう。
持ち込まれる魚獣の数が凄まじく、ウサギに掛けている時間が無いのだとか。一日に、三十五もあれば十分に足りるため、それ以上狩る必要はない。他にも七級ハンターはいるため、彼らの上限は二十八とされてしまった。また、ウサギは魚獣に襲われて食われているため、ハンターが狩る数を制限しても、畑の被害は増えはしないだろうという判断だった。
「すまんが薬草でも採っていてくれ。」
そう言われて、午後からは南の森に薬草を取りに行くことになった。
エモウテミに色々と教わりながら森を歩き、様々な薬草や山菜を摘んでいく。彼女の知識は薬草よりも、食べ物の方が多いようだった。食べられるもの、絶対に口にしてはいけないものといった知識はアウトドア生活には重要である。四級にもなれば、町を離れて何泊も野宿しながらの仕事もあるし、彼女はそれを何度も経験しているのだ。
基本的な子どもでも知っているような動植物の知識までもが無いことに、いくらなんでも酷いといわれるが、幸一によると、日本と同じ動植物が一つも見当たらないのだとか。なんとなく似ている植物は多くあるのだが、どこか違うところがあり、安全性も何も分からないらしい。
日本の野山に生えている植物やキノコにも、食べられるものによく似ていながら強い毒を持つものがあり、誤認しての食中毒事故は頻繁に発生していたりするのだ。未知の植物を安易に口にするのは危険である。
その辺りを説明すると、エモウテミにも納得が言ったようで、ポイントを絞って知識を披露する。
「稼ぎが少ないよおおう。」
夕方、薬草の換金を終えて、めぐみが泣きそうな声を出す。
「碓氷たちは稼げているのかな。」
「一日に金貨何枚かは稼げるって言ってたけど、魔物は買取制限とか大丈夫なのかな。」
衣服や武器防具など、欲しい物はいっぱいある。人数分用意するとなると、その金額はかなりのものになる。
「家はもう一軒借りておくべきだったかなあ。」
めぐみは判断を誤ったと悔しがる。
「でも、この町にずっといるわけでもないんだよね?」
「碓氷ともちょっと相談しようよ。二十八匹までってマジ死活問題だよ。」
「取り敢えず、みんなであの家で寝る? スペースはまだあるよね?」
「寝る場所は良いんだけど、トイレが問題。四十人でトイレが一つってありえないって。」
「そっちか。」
「そう。正直、今の人数でも多すぎって感じだよ。朝とか結構並ぶからね。」
なんか、悩みがあまりにも生々しく現実的である。トイレの数が少ないと悩むヒロインってどうなんだ?
「ねえ碓氷、トイレってどうにかして増やせないかな?」
夜、帰って来た『ヤマト』と合流した村田楓が唐突に質問した。
「は? 村田さん、突然どうしたのですか? 頭でも打った、いえ、お腹でも壊したんですか?」
「いや、ちがくてね。みんなでこの家に住めないかなって。」
「話の流れが全然分からないんですが、最初から説明していただけますか?」
「話せば長くなるんだけど、一日に二十八匹までしかウサギを買い取らないって言われてお金がヤバくってさ。で、宿代を何とかして浮かせたいの。」
「それのどこが長いんですか。十秒かかってないですよ。それくらいの説明、ケチらず最初からしてくださいよ。で、お金は赤字なんですか?」
「ギリ黒字だけど、全然貯金できないよ。」
「今日はもう二十日なので、月末まで頑張って現状維持。来月一日から家をあと二軒くらい借りますか。適当なのを探しておいてください。ところで、明日のお風呂曜日ですが、午後からお風呂に行きますよ。そのつもりで準備しておいてください。ただし、雨が降ったら中止です。」
「え? お風呂行けるの?」
「お風呂の周りは敵もいなかったし、多分大丈夫。」
そう言う理恵もお風呂が楽しみで仕方が無いようで、ニヤニヤが止まらない。
「ウサギ狩が制限されているなら、尚更好都合です。お昼前までに二十八匹終わらせてしまってください。昼には出発しますよ。」
そして、彼らは風呂に来ていた。
「なんだこりゃあ?」
詳しい説明を聞いていないバナセンキたちは、巨大な素焼きの建物を見て素っ頓狂な声を上げる。優喜は入浴中の安全の確保のために、『六槍』と四級パーティーの『七吹蕾』に声を掛けていた。
「お風呂です。さっさと掃除してしまいますよ。水部隊、用意!」
一言で説明し、掃除の音頭を取る。
高圧水流洗浄の魔法で浴室、および浴槽を洗い流し、さらに勢いをゼロにして単なる水生成魔法になり果てた水砲の魔法で浴槽に水を張り、火魔法を突っ込んで適温まで加熱する。
用意が完了すると、ようやく入浴タイムである。しかし、今回は念のために前半後半の二組に分けて交代での入浴である。
この辺りには風呂文化が無いため、バナセンキたちも裸になってお湯に入ると聞いても、それの何が嬉しいのかさっぱり分からない様子である。
しかし、あれこれ言われながらも初の入浴体験をして、サッパリした顔をして出てきた。と思いきや、突然怒り出す。
「お前ら! なんでこんなものを秘密にしてやがるんだ! こんな町から離れたところに隠すように作りやがって!」
「仕方ないじゃないですか。町の近くで大勢で入ると、汚水が処理しきれず溢れ返ってしまいますよ。」
優喜は悪びれもせずに答え、さっさと見張りを引き継ぐと自分専用の浴室に向かう。
全員が上がるまで敵の影を見かけることもなく、平和に三度目の入浴は終わった。女子陣の魔法の殺傷能力が向上しているため、男子たちに覗きイベントは発生しない。見つかって本気でキレられたら命に関わる。
浴槽を排水し、浴室内を軽く水で流してから、町へと向かって移動を開始する。このあたりは、ウサギも魚獣もほとんど見かけない。優喜の言う通りに、魚獣はウサギを追うようにして移動し、広がっているのだろうか。
だが、気楽な進行も終わりとなる。丘の稜線を境に生える植物が変わり、ウサギと魚獣の活動圏内に入る。
ここから町に着くまで、七級の者は私語厳禁である。破った者には鉄拳制裁が待っている。
「本当にここが境なんだな。早速、いやがるぜ。」
バナセンキが感心したように言う。
すかさずビームが放たれて、魚獣が倒れていく。七級チームからも三本のビームが飛んでいる。ビーム部隊があっと言う間に七匹の群を全滅させると、魚獣の死体を焼き払ってさっさと進む。
その後も、三十七人全員が魔導士という気が狂ったような構成の七級チームがひたすら先制攻撃を繰り返して魚獣を撃退して言った。
『六槍』と『七吹蕾』の槍士、斧士は苦笑いする以外にやる事が無い。
そんな中、エモウテミは困惑したような表情を見せる。
「何故だ? 何故お前たちはそんな顔をしていられる? 魔物を甘く見すぎだ! お前たちは奴らの恐ろしさを」
「私たちヤマトがいれば、彼らは別にのんびりしていてくれて良いんですよ。私たちがお風呂に入っている間の護衛をお願いしたのですから、ここで私たちを守ってくれる必要はありません。」
優喜は平然とした顔で断言すると、突如詠唱して右方向に魔法を放つ。
その直後、岩陰から飛び出てきた魚獣が次から次へと、魔法で開けられた大穴に落ちていく。
「止めを!」
一斉に魔法が飛び、穴に落ちて行った十二匹の魚獣の息の根を止める。
別の方向から来た八匹も、茜の作った穴に落ちて行って同じ目に遭う。
「私たちのポリシーは、敵を近づけさせない、攻撃させない。だからね。」
「そして、一方的に攻撃する。が抜けていますよ。」
死の恐怖からは立ち直ったらしく、胸を張って理恵が言うのに優喜がツッコむ。
それに対して突っ込む気力は『六槍』にも『七吹蕾』にも無かった。




