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パンツを脱ぎたまえ! 【パンツォヌゥゲ異世界物語】  作者: ゆむ
第二章 格差の拡がる救世主
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03 変われない人、帰らない人

 碓氷優喜たちは魚獣の頭の換金を済ませると、伊藤芳香の剣を買うために鍛冶屋に向かった。今日換金した魚獣は午前と午後を合わせて五十五。午前の二十九はともかく、午後の二十六は明らかに『翠菖蒲』の力あってのものだと優喜たちは遠慮したが、カナフォスたちは大真面目な顔をしてそれを否定した。


「正直言って、俺たちだけでアレと当たっていたらヤバかったかもしれない。魔法でその場で治せる程度の傷で済んだのはお前らのおかげだよ。」


 そう言って、頑として『ヤマト』の分だと譲らなかった。

 剣の購入は、一緒についてきたカナフォスのアドバイスと睨みもあり、スムーズに終わった。芳香は自分の剣を手にニヤニヤが止まらない。そんなに嬉しいのか。っていうか、怖いよそれ。



「もう一度行くぞ! 今日の稼ぎ全部使っちまったんだろ?」


 カナフォスが急き立てて、優喜たちは今日三度目の狩に出る。門から近いところで狩をしていたため、移動時間が短く済んでおり、もう一度出て、数十匹狩ってくることは十分にできそうな時間である。

 午後二度目の狩は、一度目より内側、防壁に近い側の畦道を北に向かった。『ヤマト』の四人は進む間ずっとキャイキャイと騒ぎ続ける。男のくせに、よく優喜はそんな声を出せるものだ。

 別に悲鳴ではなくても、魚獣は甲高い声に寄ってくるようで、夕暮れには荷車に魚獣の首を満載して帰路に着いていた。



「今日、私たちだけで何匹やったの? もう、数えるのも面倒だよ。」


 山口茜が疲れた声を出す。


「ヤマトの分だけで八十くらい。翠菖蒲はその倍。全部で二百四十……」

「稼げるのは良いんだけど、他のチームが心配だね。数が多過ぎるよ。カナフォスさんたちがいなかったら、私たちだってやられていたかもだよ。」

「組合に戻ったら、状況の確認をしましょうか。少しは組織立って動いた方が良いでしょう。」

「他のチームのやり方にあまり口を出すものじゃあねえぞ。」


 カナフォスの返事はあまり色よくない。


「状況次第でしょう。みんな損害もなくやっていけているなら今まで通りで良いでしょう。損害が出ているのに何の対策も立てない、というのは理解できないです。自分や仲間の命より大切なプライドなんて私にはありませんから。」


 カナフォスを含め、翠菖蒲の面々は納得しかねる、という反応だ。


「私の取り越し苦労、あの狂暴なのは特殊な奴らで、私たちが全部倒した。なんて話に期待しない方が良いと思いますよ。」

「それは、そうだな。」

「ウサギの多い地域に魔物も集まって来ているということは、当然、食事の邪魔をすることも多くなるでしょう。最悪、全滅したチームだってあるかも知れません。」



 優喜たちはハンター組合に着くと、換金を済ませる。

 ケモノ買取の受付でエコネビアが疲れた顔をして対応している。


「また大量に持ってきやがって…… どんだけいるんだよこいつらは。」


 もう、魔物の数を一々数えるのも面倒そうだ。

 優喜は金を受け取ると、芳香に銀貨を数枚渡して荷車を家に戻すよう頼む。


「夕食も適当に食べちゃっててください。私は上で少し話をしてきますので。」


 翠菖蒲もカナフォスを残して引き上げていく。



「魔物の討伐状況はどうですか?」


 二階の受付に着くなり、優喜は単刀直入に問いかけた。受付の男は昼に優喜が渡した紙を出す。町の北側にビッシリと書き込まれており、特に西側はもはや書くスペースが殆ど残っていない。

 優喜が西の畑付近に二百三十八と数字を書いて丸で囲む。

 受付の男は驚いて声を上げるが、優喜が後ろのカナフォスを指して一緒に狩ったと言うと納得したようだ。


「で、戦線離脱したチームはありますか?」


 優喜の質問に受付の男は途端に顔を曇らせて、カナフォスを見る。


「最低限、情報の共有が必要です。至急、各チームの代表を集めてください。」

「俺からも頼む。他の奴らの詳しい状況は聞きたい。」

「分かりました。」


 受付の男が奥の部屋に行くと、支部長を伴って出てくる。


「そんなことをする必要があるのか? 前の戦いは楽に勝ったのだろう?」


 支部長は何故かハンターが団結して魔物対策をすること自体に否定的だ。


「それが間違いでした。全力を出させないで勝ったのを、個々の力が低いと勘違いしてはいけません。奴らが最初から形振り構わない全力で来ていたら、私たちは負けていたと思いますよ。」

「雑魚が全力を出したところで」

「俺たちは食われそうになった。ウスイのフォローが無かったらヤバかったかも知れん。そもそも、アレを雑魚なんて侮ること自体が間違いだ。」


 支部長は瞑目して暫し考え、結論を出した。


「分かった。各パーティーに召集を掛けよう。」


 事務員たちに指示を出して、支部長は奥の部屋に戻っていった。優喜とカナフォスは人が集まるまでまだ間があるということで、一階に下りて食事をとる。そろそろ日没も迫り、魚獣を狩に出ていたハンターたちが続々と引き上げてきて換金に向かっている。そこで召集の話を聞いて、各パーティーのリーダーたちがカナフォスの所にやってくる。


「おう、カナフォス。何があった? 聞いてるか?」

「バナセンキか。まあ、俺たちが召集を掛けたからな。」

「どうした?」

「戻ってこない人たちがどれくらいいるか、ですよ。」

「は? あんな雑魚にやられたりしないだろう?」

「そうとも限らないから、みんなを集めて話をするんですよ。簡単に言うと、特定条件下で、奴らは手に負えないほど凶暴化します。油断してたら殺られますよ。」

「五級なら、だろ?」

「そこらの五級なら、油断していなくても負けるかもな。」

「どういうことだ? そこまで強いとは思わなかったが。」

「その辺りはみんな揃ったら説明します。夕食を食べるなら、今のうちに食べちゃってください。」



 会議室に中級以上のパーティーリーダーが呼び集められ、日が沈むころ、目ぼしいパーティーが集合していた。


「さて、だいたい揃ったようですので始めましょうか。」


 優喜が壇上に立ち、会議の始まりを宣言する。


「前から気になってたんだが、お前は何なんだ? 随分と偉そうに出しゃばってくれるじゃねえか。」

「すみません、自己紹介が遅れましたね。大変失礼しました。私は第五級『ヤマト』のリーダーをしている碓氷と申します。以後、お見知りおきを。」

「ウスイ自身は四級だ。」


 優喜が一礼し、カナフォスが付け加える。


「で、今回皆さんに集まっていただいたのは」

「何でお前なんだ?」

「それ、今、重要なことですか? まあ、司会はカナフォスさんにお任せしても良いんですが。」

「いや、ウスイ、お前がやってくれ。俺はあまりこういうのは得意じゃない。」


 尚もざわつく者達をカナフォスが睨みつけて、取り敢えず静まった。


「だそうです。話を戻しますと、魔物討伐についての情報の交換と、今後の方針を決めたいと思います。まず、今、ここに来ていないチームについて。」


 優喜は紙を取り出すと、明かりの魔術で照らして読み上げる。


「第四級の『双葉』、『大樹』、『春雷』いらっしゃいましたらお返事ください。」

「双葉のポールクザだ。」

「ありがとうございます。次、第五級の『陽炎』『浮葉』『草陰』『五葉』『萌芽』『日向枝』『月輪草』いらっしゃいますか?」

「五葉のベネイール、います。」

「他は? いらっしゃいませんか?」

「来ねえ奴は放っておけよ!」


 苛立ったように野次が飛ぶ。


「そこが問題なんです。来ない理由をご存知の方はいらっしゃいますか? 今挙げたのは、今日、一度以上魔物の換金をしていて、ここに来ていないチームなのですが。」


 優喜は返事を待って一呼吸待つ。


「まどろっこしいのは面倒なので、端的に言います。今来ていないチームは魔物にやられた可能性が高いです。」

「莫迦を言うな。五級はともかく、『大樹』、『春雷』がそう簡単にやられるかよ。『春雷』なんてメンバーの三人は三級なんだぞ?」

「だから問題なんです。皆さんを集めるほどの。門が閉まるギリギリまで狩りをしているだけならば良いんですが……」


 優喜は手を叩いてざわつくハンターを制して話を続ける。


「簡単に説明します。あの魔物は、食事や狩の邪魔をされると凶暴化して襲い掛かってきます。もう少し具体的に言うと、足の一本や二本を切り落としても、腹を魔法で貫いてもお構いなしで攻撃してきます。生きている限り、攻撃を止めようとはしません。それでも皆さんなら一撃で殺しきることも可能でしょうから、敵の数が少なければ何とかなると思いますが、多ければ押し切られる可能性があります。」

「ああ、そういえば、なんか凄い勢いで向かってくるのがいたな。数は少なかったから一撃で倒して終わりだったけど……」


 四級の一人が言う。


「へえ、でも何とかなったんだろ?」

「数が多いとどうにもならんぞ。俺たちは三十匹相手にして、危うく全滅するところだった。」


 カナフォスの言葉に部屋中から驚愕の声が上がる。


「理由は割と簡単だ。まず第一にナメていた。雑魚だと思ってタカを括っていた。そして第二に戦い方を間違えていた。」

「多数を相手にする場合、一番良いのは、離れた場所から形振り構わない最大火力で魔法を叩き込むことでしょう。素材が採れなくなったり、畑に被害が出たりとかは気にせずに。」


 優喜が部屋を見回すと、ハンター達は一様に不満そうな表情を浮かべている。


「もう一つは、こちらも複数チーム合同で組んで、数で負けないこと。」


 ハンター達はさらに不満そうにブーイングをあげる。


「別に気の合わない嫌いな人と仲良くしろとかじゃなくて、気の合うチーム同士で組めば良いじゃないですか。」

「そういう問題じゃあないんだよ。お前たちはまだ分からんかも知れんが、ハンターってのは他のパーティーと共同でってのは嫌うモノなんだよ。」

「そんなプライド捨てておしまいなさい! 自分や仲間の命とどっちが大切なんですか!」

「だからだよ。いざって時に、誰を優先する? 真っ先に見捨てるのは他所のパーティーの奴だろ? 相手だってそう思ってるんだ。そう簡単に信頼して命を預けるなんてできねえんだよ。」


 カナフォスの説明は筋は通っているし、その意識をいきなり変えることが難しいのも確かだろう。



 優喜は頭を抱えてブツブツ言いながら考え込む。

 その時、部屋の外で慌ただしく気配が動いた。


「何かあったのか?」


 カナフォスがドアを開けて外の様子を窺うと、受付で騒いでいた一人の女性ハンターが駆けてくる。


「頼む! 助けてくれ! 仲間が……」


 ボロボロの女性ハンターがカナフォスに縋りつく。


 何とか宥めて話を聞くと、彼女は『大樹』の弓士エモウテミ。魔物を狩って帰る途中に二十匹ほどの魔物の群れに遭遇し、恐ろしい勢いで襲われたらしい。疲れていたのと不意を突かれたことであっと言う間に二人が魔物の群れに飲まれ、撤退しようにもできずに必死に抵抗する中で何とかエモウテミ一人だけが逃がされたのだと言う。

 話を終え、泣き崩れるエモウテミに誰もかける言葉が無い。

 今から現場に行ったところで、もう終わった後だろうし、既に閉門の時間だ。中級ハンター数名の命くらいで門を開けてもらうことはできない。

 エモウテミを空いている椅子に座らせると、優喜は話を戻す。


「これ以上、犠牲者を増やすわけにいきません。無理をして慣れない共同戦線を張れとは言いません。ですが、見張りや索敵くらいは協力し合って良いんじゃないですか?」


 流石にブーイングも軽口も出ない。

 優喜は何度か言葉を言いかけ、飲み込む。この男がここまで言葉を選ぶとは珍しい。

 沈黙を破ったのはドアのノックだった。カナフォスが開けると、一人の男が入って来て、部屋の中の雰囲気に眉をひそめた。


「一体どうしたんだい?」

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