27 昇級試験
「何を騒いでるんだ? ちょい話があるから早くして欲しいんだが。」
現れたカナフォスに優喜とオヤジが事情を説明する。
「エコネビアさん、この四匹はちょっと預かっといてくれないか? こいつら昇級させちまうんで。その後でなら問題ないだろう?」
「は?」
優喜は間の抜けた声を出す。
「俺たちの第三級権限で推薦する。三、四時間あれば済むと思う。」
「それくらいなら構わねえよ。バラすのは進めちまって良いな?」
「ああ、構わん。で、ウスイとそっちのエースの魔導士二人、ちょっと来てくれ。」
「昇級するのはこの二人だけですか?」
「お前もだよ。良いから早く来い。」
「分かりました。寺島さん、山口さん、行きますよ。他の人は食事でもしておいてください。」
優喜は相凛太朗に財布を預けると、先に行ってしまったカナフォスを追いかけていく。カナフォスは食堂の一角に陣取り、他の三級パーティーと一緒に食事をしていた。
「昇級って、そんなことできるんですか?」
空いている椅子に座りながら優喜が尋ねる。
「ああ。三級以上のパーティには推薦する権利があって、三つ以上の推薦があれば四級までは上げられるんだ。まあ、組合のお偉いさんの承認が必要だが、今、拒否することは無いだろう。」
「で、私たちを何級に?」
「ウスイ、お前は四級だ。他は、実力を見てから決める。取り敢えず飯でも食え。朝から食ってねえだろう。」
「ちょっと待ってください。」
「待たねえよ。」
「いや、四級とか突然言われても、って、それと、今、お金無いんですけど……」
「なんだ? 金持ってねえのか? 仕方ねえな。出しといてやるよ。」
なんと、カナフォスが三人分の食事を奢ってくれた。とはいっても希望も食事を勝手に注文してしまう。そして、出てくるまでの間に互いに自己紹介する。三級パーティーの殆どの興味の対象は理恵と茜のようだ。自己紹介が終わると一斉に質問が投げかけられる。
「ちょっと皆さん落ち着いてください。そんなにいっぺんに聞かれても困りますよ。後で良い質問は後回しにしていただけますか。」
優喜が制し、取り敢えず、大雑把に答えていく。
「まず、私たちについてですが、あまりおおっぴらに言いたくはありません。それを踏まえて簡単にお話しします。」
周囲の顔を見回して優喜が話す。
「どこで魔法を覚えたかという質問ですが、一ヶ月ほど前に王宮で基本的なことを教わりました。現在使える魔法はレベル三までです。ただし、レベル三は使えないことはない、という程度で狩や戦闘で使いこなすには至っていません。私は土、寺島さんが火と風、山口さんが水と土に適性を持っています。」
優喜は一旦区切って、出されたパンを口に放り込む。
「あの魔法、というのはファイヤービームとウォータービームのことだと思いますが、レベル二の放射魔法を調整して、改良したものです。」
一息に言うと、優喜はスープを口にする。
「そして、どうやってと言われても困るんですよ。私たちは別に、特別なことをしたつもりは無かったので。普通に色々な魔法陣を比較して、違っている部分を検討して色々試しただけですよ。その辺りの詳しい説明は後にしてもらえますか? スープが冷めちゃうので……」
優喜はそうとうに空腹なようで、食事を前に我慢をしたくないと、どんどんと手を付けていく。
「レベル三の魔法はどの程度使えるんだ?」
「どの程度ってのが、何を聞いているんだかよく分からないけど、覚えてる魔法陣は私は四つ。それを書いて、詠唱するだけならできますけど。」
『緑峰』の魔導士、チルコツァの質問に、もぐもぐ中の優喜に代わって理恵が答えた。
「そういう質問が一番困るんですよ。端的に誤解を恐れずに言うと、私たちには常識がありません。もうちょっと具体的に言うと、何が凄くて、どうだったら大したこと無いと言われるのかが全然わかりません。」
優喜は自ら非常識宣言をする。困った顔をする面々に、コジュタルが補足した。
「こいつらは、とんでもないことを当たり前のように言うんだ。さっき、レベル三の魔法をロクに使えないなんて言っていたが、俺から言わせてもらえば、使えるんだよ。ハッキリ言って普通に使えるんだよ。こいつらが使いこなすっていうのは、その場その場で魔法陣を変えて、スピードとか効果範囲とかをコントロールするっていう意味だ。」
「おまえ、何言ってるんだ? 魔法陣を変えたら別の魔法だろ?」
「っていうか、何が違ったら、違う魔法なんですか? 私たちは魔法の属性と機能が同じなら、制御部分が違うくらいなら同じ魔法だと思ってたんですけど。」
優喜は魔法陣を幾つか並べる。
「見ての通り、火の玉の魔法です。こちらから飛んでいくスピードが速い、普通、遅い、そして飛んで行かないやつです。ほら、ちょっとずつ違うんですよ。この辺が。」
指で示しながら説明する。
「で、牽制とかフェイントとか、その時によって火の玉をどう撃つか変えたりするわけですけど、これは全部同じ魔法ですよね?」
魔導士たちは呆然とした表情で沈黙している。
「とにかく。」
ヨシュザセミが沈黙を破った。彼女は『緑峰』のヒーラーだ。
「近接の人たちの殆どは、彼女たちの力を直接見ていないですよね。なので、食事後、南門外の広場でちょっと披露してもらうということで良い?」
「それは構いません。」
理恵と茜が頷き、優喜が答える。
「私もいくつか聞きたいことがあるんですが、良いですか?」
「なんだ?」
「まず、私たちを何級に?」
「ウスイは四級、そっちの二人は、まあ、みんなが見てからだが、五級か四級だ。」
「たしか、パーティには上下一ランクまでしか所属できないんでしたよね。昇級したら抜けないといけないんですか?」
「猶予期間は有るはずだが、どっちにしても、四級、五級でウサギ狩りは認められないぞ。」
「では、すみませんが、この話は無かったことに……」
「ダメだ。お前らに拒否権はない。俺たちが推薦して上が承認する。それで昇級する。」
「それ酷くないですか? 本人置き去りで進んじゃうんですか?」
「ああ、そうだ。」
がっくりと項垂れる優喜。
「では、もう一人見てもらえますか? 私たちが七級に留まるべきではないと言うなら、五級でもおかしくない人がもう一人いますので。」
「そんなのいたか?」
「カナフォス、一瞬負けそうになったくせに忘れたんですか? まあ、あれは無かったことにしたいですよね。」
ボリエイトの指摘で、カナフォスにイヤな記憶が蘇ったのか、顔を一瞬顰める。
「おう、あの剣使いか!」
「カナフォスが? そんなに強いのか? そんなのいたか?」
「魔導士のガードをしてた方ですよ。」
優喜の言葉に、ああ、と声が上がる。
「確かにあの子も七級じゃないな。」
「連れてきな。見てやるよ。ああ、飯が終わってからで良いぜ。」
第三級のハンター達が頷きながら口々に了承するのだった。
食事が済むと、屋台広場で芳香を拾って南門外に向かう。ここで三級パーティーに実力を認められれば四級、ないしは五級への推薦が得られる。何が何だかわからない芳香に簡単に事情を説明し、試験を始める。
「で、何をすれば良いですか?」
「取り敢えず、例の魔法を見せてくれないか?」
ヨシュザセミに言われて、理恵と茜は詠唱もせずにビーム魔法を虚空に放つ。
「例のって、これですか?」
「それだよ。」
苦々しい表情でチルコツァが言う。
「で、詠唱はどこにいっちゃったのかな?」
さらにヨシュザセミが詰め寄ってくる。
「別に、威力とかは要らないかなって。ほら、敵とかいないし……」
茜が気圧されながら答える。
「これなんだよ、この子たちの非常識なところは。良いか? 詠唱の短縮とか省略ってのは高等技術なんだ。お前らは普通にやっているみたいだがな。」
「え? でも、詠唱しないと威力は落ちちゃいますよ?」
「普通はちゃんと詠唱しないと魔法が発動しないんだよ!」
「そうなんですか?」
理恵と茜は顔を見合わせる。
「私たちは初めから短縮してますからね。あ、皆さんに教えた詠唱も短縮版ですよ。」
優喜の説明に魔導士たちは目が点になる。
「そういえば、やけに短かったような……」
「完全な詠唱でやってみてくれるか?」
言われて理恵と茜はレベル二に相応の長さの詠唱をしてビームを放つ。
ため息をついて、チルコツァが、レベル四のビーム魔法の魔法陣を書き、詠唱を開始する。レベル四の魔法はレベル二から較べると格段に詠唱が長い。詠唱を終えると、ファイヤービームが放たれた。
「これがレベル四の方だ。見た感じはあんたらのレベル二の魔法と殆ど変わらない。威力はこっちのが上だと思ってたけど、もしかしてそれも殆ど変わらないんじゃ……」
「それ、多分、魔力の無駄遣いですよ。魔法陣が何か汚いですし。多分、無駄な部分がいっぱいあるんですよ。魔法陣はできるだけスッキリさせた方が威力が上がるみたいですからね。」
「もはや何言ってるのか分かんねえよ。スッキリさせるってどうしろってんだ!」
優喜の当たり前のような顔での指摘に、魔導士たちは頭を抱えて叫ぶ。




